アクセルラボが手掛けるスマートホームのプラットフォームサービス「SpaceCore」(スペース・コア)がスマートホームの本格普及に向け動き出している。20種類以上のデバイスと接続ができ、温度や湿度を検知するセンサーとエアコンなどを連動するなど、オートメーション化もサポート。「本当に使えるスマートホーム」に向け突き進む。
その背景には「どうしたら本当にスマートホームを普及できるのか」という試行錯誤の上導き出した「オープンな仕組み」と「得意なことに特化する」という2つの答えがある。スマートホームを普及するため、アクセルラボはどんな気付きを得て、何に注力しながら取り組んでいるのか、アクセルラボ 代表取締役 CEO&Founderの小暮学氏と取締役 CTOの青木継孝氏に聞いた。
アクセルラボは2017年7月に設立。2016年に当時の親会社であった不動産会社インヴァランスの専門部署を、スマートホーム事業強化のため独立させたのがスタートだ。
2019年にSpaceCoreをリリースしたが、当時は、スマートホームよりも不動産管理会社向けのプラットフォームサービスがメインだった。「賃貸管理向けサービスを作っていて気づいたのは、スマートフォンはデバイスを追加したり、連携させたりする時のインターフェースとしてとても有効だということ。賃貸は間取りもある程度限定されているので、活用度も限定的だが、この部分を戸建てと分譲住宅に展開していけば、より刺さるサービスになるだろうと考えたのがきっかけ」(青木氏)というように、自社物件向けに展開していたスマートホームサービスを、より広い視野で捉えるようになったからだという。
スマートホームへの取り組みは早く、2017年時点でインヴァランスが扱う自社物件に、AIを搭載したスマートホームサービス「CASPAR(キャスパー)」を導入。米国のAI開発ベンチャー企業Brain of Things(BoT)が開発したCASPARは、AIによる学習能力を持ち、起床時はカーテンを半分だけ開く、帰宅時は廊下の電気をつけるが、玄関の電気はつけないといった、人の「くせ」を覚え、生活をサポートすることが特徴だった。
「センサーとカメラにAIを組み合わせたCASPARは、当時としては大変画期的だった。しかしスピード面や連動性など、追いつかない部分も多く、一般普及には至らなかった。SpaceCoreが目指すのはスマートホームの普及。そのために自社での開発を加速させた」と小暮氏は話す。
インヴァランスでは「alyssa.(アリッサ)」というスマートホーム向けアプリを提供しており、自社開発にも力を入れていた。SpaceCoreでは、alyssa.で培ったスマートホームアプリとしてのノウハウを基に、開発スピードをアップするためにウェブアプリへと転換。「同じ機能なのにAndroidとiOSの2つを作ることで、開発に時間がかかってしまう。その部分を解消したかった」(小暮氏)と経緯を説明する。
「ウェブアプリとして一本化すれば、スマートフォンの機能を使って、セキュリティや見守りなどのサービスも作りやすい。そうした広がりも見えてきた」と青木氏もメリットを強調する。加えて、「オープンにつながる形を目指す」(小暮氏)という思いから、開発したウェブアプリを住宅メーカーなどに広く提供。オープンな形で家電や住宅設備をつながる形を構築してきたという。
「自社で作ったアプリを使って、自社のハードに接続してほしいという思いから、APIは公開しないというスマートホームメーカーもある。しかしこれはスマートフォン以前のガラケー時代と同じこと。自社完結にこだわることで、衰退してしまった。それを繰り返さないためにも、スマートホームはオープンにつなげていける環境を整えたかった」(小暮氏)と思いを明かす。青木氏も「自社アプリがハードルになっているケースは多い」と指摘する。また、アプリとハードの両方を手掛けるのは重荷になるという。
「2年前までは、ハードも自社でという気持ちもあったが、それだと疲弊してしまう。ハードを作るのはとてつもなく大変なこと。一方で中国メーカーなどの開発力はすさまじい。それならば、ハードを作るより、アプリのUI、UXを高め、使いやすいアプリを多くの人に使ってもらうことで、スマートホームの普及を進めていきたい」(小暮氏)と、ウェブアプリの開発に大きく舵を切る。
それと同時に進めたのが、連携する機器の強化だ。アクセルラボでは、海外メーカーのドア・窓センサーやカーテンモーターというIoT機器をSpaceCore対応デバイスとして取り扱う一方、他社デバイスとの連携を強化。スマートロックは4社、給湯器は3社とさまざまな他社デバイスとの連携を実現。加えて、床暖房や電動シャッターといった住宅設備の連動にまで踏み込む。
「連携できる機器の数が多いのは、私たちならではの強み。20種類以上の機器をサポートしており、この数は圧倒的。ほぼ競合はいない状態」(小暮氏)と市場を大きくリードする。
ここまでたどり着くまでには「デバイスを一つずつつなげ、ちゃんと動いて、ちゃんと連携することを確認していった。難しいのはメーカーが異なる機器をシームレスに連携させること。この部分を実現するためには、スマートホームOSのような基盤となる部分が必要で、アクセルラボではそこにずっと取り組んできた」(小暮氏)と開発背景を明かす。
青木氏は「大変なのはつながった機器を連動させること。鍵を開ける行為をトリガーにして、電気をつける、エアコンが作動する、カーテンが閉まるといったように、横串で機器を動かさなければいけない。この部分の開発に1年半程度かかった。こういったソフトウェア作りを得意とする海外のスタートアップと手を組むという選択肢もあったが、日本でやる以上、単なる連携ではなく、シームレスに動かさなければならない。その部分は自社でやるべきと判断して取り組んだ。この部分を構築できたことは、かなり大きいと思っている」と、シームレスに動かす重要性を話す。
この強みは、SpaceCoreの普及に大きく寄与する。自社アプリとして展開する一方、他社物件にも導入できるようになってきた。この際、あえてSpaceCoreのブランドは出さず、導入先のブランドに変更。約1年前からこのOEM提供のような形をはじめたが、すでに導入社数は100社を突破、導入戸数は1万8000戸を超える。
「既存のスマートホームアプリを展開する不動産会社や管理会社に提供を始めたところ、これが大きく数を伸ばした。私たちが目指しているのは、スマートホームの普及であって、SpaceCoreの広がりではない。ブランドにこだわらず、使いやすいアプリを提供することで、スマートホームを普及させることがベスト」(小暮氏)と、ここでもオープンな戦略を推し進める。
「スマートホームを広げたいという発想に至ったときに裾野が一気に広がった。新たな層を取り込むと同時に、既存ユーザーを抱えているところに提供する。そこで広げてもらう戦略が功を奏した」と青木氏はターニングポイントを振り返る。
SpaceCoreが普及するためにとった戦略は、いい意味で「固執しない」こと。それが市場の伸びに大きく作用している。「自社アプリや自社のハード開発にこだわっても意味はない。大事なのはUIとUX。いいUIを作り、いいハードは得意なところに作ってもらうほうがいい。シームレスで感覚的な使いやすさと、そこで得られる体験がユーザーの安心感にもつながる」(小暮氏)と自らの立ち位置を明確に示す。
ただし、開発のスピードにはこだわる。社内のテックリードやコアエンジニアに加えて、国内外の複数の開発会社とも協業体制を構築している。「優秀な人材は、即決で採用しているが、採用に依存すると開発は進まない。社内の雰囲気やメンバーとの相性も見ながら、採用を進めている」(青木氏)という。
小暮氏は「私自身がせっかちな人間(笑)。だから、思いついたことはどんどん形にしていきたい。そのためには取捨選択を常にしていく必要がある。それを繰り返してきた結果が今の形」と選択と集中を続けながら、今の形にたどり着いたSpaceCoreの背景をそう説明する。それを受け青木氏は「判断の早さは素晴らしい。それがあるからこそ、ここまで進んで来られた」と信頼を置く。
アクセルラボがスマートホームで狙うのは「温水洗浄便座のポジション。登場から数年はなかなか普及しなかったが、10年が経つころから急速に伸び、一般化した。この時に起こった変化はトイレに電源がつくようになったこと。今やトイレにコンセントは当たり前。後付でもできるほど、市場に浸透した。スマートホームも家の構造を変えるような、そんな変化を起こしていきたい」(小暮氏)と大きな市場と捉える。
業界全体としては、一時下火になりながらも、大手不動産メーカーの賃貸住宅や戸建て専用のスマートホーム化が進むなど、「今後の家のあるべき姿」として注目されるスマートホーム。その中でアクセルラボが目指すのは「家の自動運転」だ。
「家に帰ってきたら勝手に電気、エアコンが付き、お風呂が沸く。トリガーを必要とせず、人が近づいたら、自動的に家電や住宅設備が動くことが理想。スマートフォンで動かす必要はないと思っている。家に近づいたり、家の中を移動するだけで機器が動く、家の自動運転を目指したい。CASPERはある意味その形を先行していたが、進化が遅かった。スマートスピーカーは話しかけるという行為が伴う。プッシュ型で家の中が自動でやりたいことを先回ししてくれるそれがスマートホームの最終形だと考えている」(小暮氏)と未来を描いた。
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