フィンランドの有給消化率は100%?--世界一のワーク・ライフ・バランス、しかし「無視できない欠陥」も - (page 2)

業務遅延より「休暇取得」が優先されることも

 筆者がここ1年ほどフィンランド企業とやり取りしてきた経験では、「対応がスムーズ」「文面はアッサリしているが温かみはある」といった印象がある。非常に付き合いやすく、日本企業に比べて対応が劣ると感じることはない。

 ただ、ひとつ気になるのが、フィンランドのとある企業のひどい遅延や欠陥。住民の多くに影響する主要な郵便サービスの「Posti(ポスティ)」だ。私自身も日本から送った宅急便を受け取る際、Postiの対応に大いに苦労した。

 周囲からも悪評が高く、「予定どおりに配送されない」「電話の問い合わせをたらい回しにされる」「メールの問い合わせを無視される」「郵便物が紛失する」「自宅前まで来ても連絡しない」(フィンランドでは、アパートメントの入り口がロックされているが、玄関の呼び鈴がない場合も多い)などなど、対応の遅さだけでなく、質の低さも指摘される。もっともひどいのは、「税関手続きが終わって配送されるはずだった荷物が、日本に送り返された」という事例。ひどすぎて言葉を失った。

Postiが配達する宅急便は、配送先からほど近いロッカーに届けられるのが一般的だ(筆者撮影)
Postiが配達する宅急便は、配送先からほど近いロッカーに届けられるのが一般的だ(筆者撮影)

 Postiの体制不足は今にはじまったことではないようだが、パンデミックによる宅急便需要の急増に加えて、2021年7月からのEU付加価値税 (VAT)規則の変更が影響しているかもしれない。この7月からEUに輸入されるすべての商品は、金額にかかわらずVATが課せられるようになり、通関手続きが必須になった。

 このように現場が混乱した状態で従業員が夏季休暇を取れば、さらなる遅延を招く可能性が高いが、それでも「夏季休暇を取らない」という選択はしていないはずだ。内部事情を調査したわけではないが、黒澤さんも「従業員はしっかり休暇を取っていると思う。もし休暇が取れなくなったら、仕事を変えるだろう」と話す。また、現地在住歴が長いある知人も「夏休み時期だから、余計にPostiが混乱しているようだ」と話していた。

 Postiはフィンランド国家が100%の所有権を持っており、郵便事業は自由化されていない。たとえ従業員が長期休暇を取得したことで対応が悪化し、顧客からの不満が爆発しても、顧客はPostiの他に選択肢がなく、彼らに頼らざるを得ないのだ。もし、同じ状況が一般企業、一般の業種で起こったら、のんきに夏休みを取っている場合ではないだろう。対応悪化につれ競合に顧客を奪われ、そのうちつぶれてしまうのではないだろうか。

受け取り・発送だけでなく、ショールームなどもあるヘルシンキ市内のおしゃれな小包ロッカー「Box by Posti」(筆者撮影)
受け取り・発送だけでなく、ショールームなどもあるヘルシンキ市内のおしゃれな小包ロッカー「Box by Posti」(筆者撮影)

改善されない欠陥は「許容するしかない」

 まとめると、フィンランドでは、多くの人が有給休暇をはじめとした休暇を満足に取得できているようだ。フィンランド統計局の労働力調査によれば、2020年の夏は、フィンランドの雇用労働者の31%が7月に少なくとも1週間の休暇を取得。6月に12%、8月には10%が同様の休暇を取得したとのこと。

 世界トップレベルにワーク・ライフ・バランスが良く、仕事以外の時間も有意義に過ごす人々の暮らしは魅力的だ。一方で、国が所有する重要なサービスを担う企業が、ここまでひどいのは残念でならない。休暇取得が守られるべき従業員の権利であることは理解するが、もう少しどうにかできないのだろうか。黒澤さんは「そのうち郵便事業が自由化されるのではないかと思う」と話していた。

 週2日の休日や祝日に加えて、4週間の夏季休暇、1週間の冬季休暇を取得する慣習は、すでに国中に浸透しており、その他の欧州諸国にも近い文化がある。だからこそ、この慣習が変わることは考えづらい。Postiに関しても、今の状況が急に改善されることは期待しづらい。

 フィンランドに住む者として、無視できない課題だが、現状は許容するしかないようだ。早めに発送する、しつこく問い合わせる、郵便を避けるなどの対応をして、ストレスを減らして利用するしかないと思われる。

 Postiは極端な事例ではあるが、その他の企業の休暇制度の運用も、多少似たような一面があるのかもしれない。定められた休暇は休むものであり、それによって起こる多少の遅延や機会損失はやむを得ない。人々の「健康」や「仕事以外の人生」は、仕事によって犠牲にされるべきではない。そのような国家の強い意思のうえに、成り立っているのではないかと筆者は思っている。

(取材協力:黒澤陽道さん)

小林香織

「自由なライフスタイル」に憧れて、2016年にOLからフリーライターへ。【イノベーション、キャリア、海外文化】など1200以上の記事を執筆。2019年よりフリーランス広報/PRとしても活動をスタート。2020年に拠点を北欧に移し、現在はフィンランド・ヘルシンキと東京の2拠点生活。北欧のイノベーションやライフスタイルを取材している。

公式HP:https://love-trip-kaori.com

Facebook :@everlasting.k.k

Twitter:@k_programming

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