2016年、2017年と2年連続で「ヨーロッパで最も持続可能な都市」の1位を獲得、2018年には「世界で最も知的なコミュニティ都市」に選出、さらに2019年、2020年には「EU都市イノベーションアワード」で上位6位に入賞と、近年イノベーション都市として評価が高いフィンランド第二の都市「エスポー」。
筆者は、2020年からフィンランド、ヘルシンキをメイン拠点としているが、エスポーの存在感は大きく「カッコいい、住んでみたい」という印象がある。というのも、同市には活躍するスタートアップが多く存在していたり、自動運転バスや5Gを活用したスマート街灯など、最先端の実証実験が行われたりしているから。日本人観光客に人気のヌークシオ国立公園もある。
この連載では、「進化する北欧イノベーションの今」を現地で暮らす日本人の視点でお届けする。今回は「スマートシティ・エスポー」をテーマに、担当者への取材やリサーチをもとに、進化する街・エスポーを紹介したい。
今回話を聞いたのは、エスポー市役所市長室に所属し、スマートシティプロジェクトに長く携わるカティヤ・ショーホルム氏とパイヴィ・スティネン氏のお二人。エスポーがスマートシティ化を進めるうえでの基本指針や概要を聞いた。
まずは、エスポーがどんな都市かを紹介しよう。1972年に市として誕生したエスポーは、人口約29万人(2020年末時点)、平均年齢37.8歳と若く、住民の20%が15歳未満。移民が多く、英語が公共サービス言語として認められている国際都市でもある。ヘルシンキの西隣に位置し、都心までメトロで15分ほどと便利な地域だ。
現在、エスポーの産業を支えるのは、イノベーション・エコシステムから生まれたバイオやICT、クリエイティブ産業などだが、1990年代後半から2000年代にかけて多くの雇用を創出したノキアの躍進も広く知られる。その後、スマートフォン市場で出遅れたことで、同社が2011年に大量リストラを実施したのも、また有名な話。
表面上は失敗に見えるが、ノキア退職者向けのプログラム「Nokia Bridge」の導入などにより、新規事業創出の文化が根付いた前向きな変化もあった。それが、アールト大学やVTT(フィンランド技術研究所)を中心とした現在のイノベーション・エコシステムにもつながっている。結果的に、同国の大学からスピンオフしたスタートアップの半分以上がアールト大学から生まれ、MySQL、Supercell、Rovioといったユニコーンもまた、ほとんどエスポーから生まれている。
エスポーが目指すスマートシティについて、お二人が強調したのは「人間中心のアプローチ」だ。
「イノベーションは、市民、企業、大学などのステークホルダーと行政との共創によって、作り上げるべきである。そして、その中心に据えるのは、技術ではなく『人間』であるべきである」。これが同市が定める指針。さらに、「エスポーだけに役立つものではなく、フィンランドや世界の社会全体にも役立つものであるべき。同時に、文化的、生態的、経済的にも持続可能でなければならない」とも言及した。
エスポーのスマートシティでは、AI、5G、IoT、自動運転などの先端技術の活用のほか、再生可能エネルギーの利用や効率的なエネルギー供給といった気候変動対策、住みやすさを考慮した街全体のデザインにいたるまで、そのプロセスは多岐にわたる。
未来のスマートエネルギーシステムを開発しているのが、ヘルシンキに近いオタニエミ地区。ここには、アールト大学やフィンランド技術研究所があり、大胆な実験をとおして、持続可能なソリューションを創造することを目指している。
同プロジェクトに参加するのは、アールト大学、フィンランド技術研究所、ノキア、エネルギー会社のFortum、テクノロジー企業のABBなど。そのほか研究者やスタートアップ、不動産所有者など、50ほどのパートナーと一緒に未来のエネルギーシステムのあり方を探っているそうだ。
同プロジェクトがウェブで公開しているプレゼンテーションでは、上記の通りフォーカスエリアが示されている。再生可能エネルギーの100%利用、市民の需要に沿ったエネルギーの貯蔵や供給、電気自動車が快適に走れる環境構築、エネルギー効率の良いスマートビルディングの設計、AIやブロックチェーンなどを活用したプラットフォームの構築などに注力しているようだ。
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