楽天モバイル、神戸大学、デンソーテンの3者共同による、イベント帰宅時の混雑緩和と経済活性化を即す実証実験が、ノエビアスタジアム神戸で実施されている。ヴィッセル神戸のJリーグ戦にあわせて10月2日から11月27日の間に計5回行われるもので、ここでは11月3日の対ベガルタ仙台戦での様子を紹介する。
緊急事態宣言の解除を受けて、Jリーグは観客数制限を大幅に緩和しており、1万人を越える観客が入場できるようになった。帰宅者が集中する試合終了後にスタジアム周辺や交通機関の混雑を解決する方法は、安全に観戦を楽しんでもらうためにも不可欠となる。実証実験では専用アプリを使用し、周辺や交通機関の混雑状況など提供する情報の内容や見せ方で帰宅時間を分散できるか効果を検証する。
この実証実験はWithコロナ社会をテーマに、神戸市が公募する「大学発アーバンイノベーション神戸」の研究活動助成プロジェクトとして実施されている。神戸市が抱える地域課題の解決などを目的にした若手研究者の研究活動費を補助するもので、2020年度に採択され神戸大学と楽天モバイルの連携による「5Gネットワークを活用したイベント会場の混雑緩和や遠隔コミュニケーション手法に関する研究開発」の一環と位置付けられている。
アプリの設計を担当する神戸大学工学研究科教授の寺田努氏は「研究室で行っている行動心理学と行動経済学を取り入れた情報提供による行動変容の研究をベースに、アプリの機能やデザインを設計している」と言う。「人の行動変容に影響する要素としては、施設の立地や交通手段の種類、天気や気温、集客人数など様々なものがあり、以前から進めている研究では試合の勝敗が影響するなど一部わかっているものもある。今回はユーザーに帰宅時間をずらすことを強制するのではなく、自分から協力したくなるような内容にすることをポイントにした」と説明する。
アプリには、試合終了が近づくと「待ち時間」を選ぶ画面が表示され、長さに応じてポイントが手に入る。設定されたエリアを離れるとカウントダウンがストップするので、できるだけスタジアム内に待機してもらえるよう、待ち時間後に利用できる交通手段の情報や待機中だけプレイできるクイズなどを用意した。
また、スタジアムの出入り口や売店などに楽天モバイルの5G対応スマートフォンを設置し、それぞれの混雑状況をライブ映像で見せることが行動変化につながるかも検証している。さらにライブ映像の有無や情報の見せ方といったアプリのデザインも、ユーザーがダウンロードする時にランダムで変更されるよう複数用意されており、それぞれで収集された使用データからどの要素が混雑回避に影響するのかを分析する。
アプリは最初一から作る予定だったが、神戸市の紹介で地元企業のデンソーテンが加わり、同社が1年前から開発していたMaaSアプリ「困ってMaaS」をベースにすることができた。また、別の神戸市との実証実験でスタジアム周辺に設置していた焦電センサーを人流予測に利用し、タクシーを呼ぶサービスや貯めたポイントを使用できる飲食店の提携でも協力しており、混雑緩和が経済活性化につながるかも検証できるようになった。
デンソーテンMaaS推進室の田中真一氏は、「混雑を回避する人流コントロールにMaaSの要素は不可欠だと考え、協力につながった。効果的な情報提供と移動手段の組み合わせが見えれば、街づくりやスマートシティにも役立てられるかもしれない」と話す。
実際にアプリを使ってみた印象としては、実証実験用とは思えないほど機能が充実しており、そのままサービス化もできそうな内容だ。今回使用されたアプリを商用利用する予定は今のところないそうだが、これほどリッチなアプリを1万人を越える来場者が一斉に利用することになれば、対応できる通信環境も必要になる。
楽天モバイル5Gビジネス本部の工藤亮氏は「混雑緩和の対策は売店やトイレなどスタジアム内でも必要であり、利用者が集中した時の通信環境を検討することも実証実験の目的に含まれている。試合の前後も含めて全体で観戦体験を快適にすることが、新しいファンの獲得にもつながると期待している」と話す。
今回収集されたデータは実験終了後に分析され、論文としても発表される予定だというが、どのような結果が出るのか楽しみだ。
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