農水省の「フードテック推進チーム」が本格始動--ルール可視化で日本のポテンシャル発揮へ

安蔵靖志 藤井涼 (編集部)2021年10月28日 08時10分
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 農林水産省 食料産業局は、7月1日に大臣官房 新事業・食品産業部へと改組し、フードテックを推進する新事業・食品産業政策課がスタートした。大豆ミートなどの代替肉、昆虫食などさまざまな形でフードテックが注目されているが、そこに農林水産省としてどのように関わっていくのか。農林水産省 大臣官房 新事業・食品産業部 新事業・食品産業政策課 課長補佐の井戸萌愛氏らに話を聞いた。

農林水産省 大臣官房 新事業・食品産業部 新事業・食品産業政策課 課長補佐の井戸萌愛氏(中央)
フードテック推進チームである、農林水産省 大臣官房 新事業・食品産業部 新事業・食品産業政策課の皆さん。前列から、課長補佐の井戸萌愛氏(中央)、新事業創出推進係の平野由夏氏(右)、新事業創出班の河合美旺氏(左)。後列は国産消費企画班 国産消費調整係長の尾﨑光男氏(右)、大臣官房政策課 企画・技術グループの戸澤篤氏(左)。農林水産研究所 客員研究員の大野泰敬氏(中央)

食に関する課題を解決する技術「すべてがフードテック」

——まずは、新事業・食品産業政策課の業務内容について教えてください。

井戸氏:フードテックが日本や世界の食の課題を解決すると言われていますが、日本にもいろいろな技術があるにも関わらず、そのポテンシャルが発揮しきれていないのではないかと考えていました。そのポテンシャルをどうやって発揮させられるのか、現在どのような課題があり、農水省が協力することによって解決できることがあるのかという問題意識で、7月から農水省内にフードテック推進担当が設置され、取り組みを進めています。

 食に関する課題は多岐にわたっており、食料生産・農林水産業に起因する環境負荷の低減を図る必要があります。一方で食料需要が拡大している中で、食料増産と環境負荷の低減をどう両立させるかも大きな課題です。また、養殖のエサになる魚粉なども日本はかなり輸入に頼っている中で、世界の食料需要拡大に対して長期的にどう対処すべきかも課題です。

 また、健康も重要な課題です。安くておいしい食品が手に入るようになった結果として慢性疾患が増えている状況もあります。最近では、免疫システムに腸内細菌叢が影響するという研究結果もあり、個々人に合った食生活についての関心が高まっています。

 日本の労働生産人口がどんどん減っていく中で、製造業にしても外食にしても人員の確保が大きな課題となっています。そこをどう解決していくかも含めて、多岐にわたる食に関する課題を解決する技術、すべてがフードテックだと考えております。

 最近では大豆ミートが大ブームですが、以前からわれわれはカニカマやがんもどきなどを食べており、フェイクミートの概念は日本にはずっと前からありました。

 食のイノベーションに関して、日本はかなり進んでいるのではないかと思っています。畜産業や水産業の環境負荷低減についての研究も日本は力を入れて取り組んでいるので、強みがあるはずだと思っています。これらの分野をより掘り下げて、世界に羽ばたいていけるようにしたいというのがわれわれの目標です。

フードテック官民協議会を立ち上げ、さまざまなテーマで活動

——現在はどのような取り組みをされているのでしょうか。

井戸氏:2020年10月にフードテックに関心のある方々がそれぞれの課題を話し合っていただく「フードテック官民協議会」を立ち上げました。現在の会員数は約900人に上っています。テーマに沿った話をするワーキングチームを設けており、フードテックについて発信する場としてコミュニティ活動も行っています。

 フードテック官民協議会の作業部会のテーマは「2050年の食卓の姿」「スマート育種産業化」「ヘルス・フードテック」「新興技術ガバナンス」「SPACE FOOD」「細胞農業」「昆虫ビジネス研究開発」「Plant Based Food普及推進」「サーキュラーフード推進」です。

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井戸氏:たとえば「スマート育種」では、2021年9月にゲノム編集による「可食部増量マダイ」が世界で初めて世の中に出て、一般販売されるようになりました。飼料効率の良さから注目されていて、かつ養殖の技術もセットなので、日本に強みがある思っています。

 「ヘルス・フードテック」については、健康的な食べ方を提案するアプリなど、パーソナライズされた食を提案する技術が出てきているほか、機能性食品などもその一部だと思っています。

 「昆虫ビジネス」については、昆虫生産が大規模化したときにも、安全性・品質を維持し消費者の信頼を維持できるよう、業界ガイドラインの検討がされています。それぞれのテーマに応じた議論をしていただきながら、彼らのビジネス化促進に向けて、どのようなルールを整備するかを検討し、ビジネスモデルの実証を支援していくのが、われわれが取り組んでいることです。

課題はフードテック投資の活発化や法整備

——フードテックといっても幅広い分野に広がっていますが、どのあたりが特にボトルネックになっていると考えますか。

井戸氏:一般的な課題で言うと、一つ目は事業化するのに時間がかかる中で、出資を集めるのが難しいことです。他の工業製品などと違って生き物を相手にしている場合が多いので、その生き物の一生が終わって初めて実証の結果が得られることもありますし、想定外の結果となる場合もあります。

 消費者向けの最終食品に関してはBtoBのビジネスと違って、消費者の考えてることを予測しにくいなど、他のスタートアップと違う困難を抱えています。投資家から「いつになったら成果が出せるのか」と言われてしまう。そういった問題があるのではないかと思います。

 私としては、大手食品企業による投資が加速し、資金だけでなく売り先を提供したり、製造設備を提供したりしながら、スタートアップや大学の先生のアイデアを事業化するのを導いていってくれたら良いのかなという思いがあります。

——日本のフードテック投資が圧倒的に少ないのは、海外の方が法規制の面などでビジネスがしやすく投資が集まりやすいという側面もあるのでしょうか。

 投資が進みやすくするためには、ルールがわかりやすく見える化されていることが重要です。ゲノム編集も野菜で1件(GABA含有量を高めたサナテックシードのゲノム編集トマト「シシリアンルージュハイギャバ」)、魚で1件(リージョナルフィッシュの「22世紀鯛(可食部増量マダイ)」)、届出が受理され、厚生労働省・農林水産省のHPに公表されているので、見えやすくなってきていると思います。

サナテックシードのウェブサイト
サナテックシードのウェブサイト
リージョナルフィッシュのウェブサイト
リージョナルフィッシュのウェブサイト

 昆虫ビジネスについては、たとえば大規模化したときも課題をクリアできるのか確認する過程で実証実験が必要になります。たとえば昆虫が逃げないようにするための設備のあり方などを想定していますが、このような実証を加速化していければと考えます。

 ルールがあるのかないのか、ルールをクリアできるのかどうかが分からないと、事業化に何年かかるかが不透明になって投資が進みにくくなる面はあると思います。メーカーの方々、投資家の方々がどのような部分を不安に思っているのかもクリアにしていきたいと考えています。


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