このように、現状Windows 365が完全にハードウェアのPCを代替するかと言えば、そういう状況ではないことは明白だ。Windows 365はvGPUというGPUの仮想化機能に対応していないため、GPUはCPUによりソフトウェアで実現されている。OfficeアプリのようなGPUは必要としないようなアプリケーションでは問題にはならないが、GPUを必要とするアプリケーション(例えば3DゲームやVRなど)は実用に耐えない。その意味で、MicrosoftがこのWindows 365をビジネス向けだけと定義したのは正しいと言える。
また、コスト的にも決してコンシューマが使えるような価格モデルではない。今回筆者が選択したWindows 365 Businessの2 vCPU/8 GBメモリ/128 GB ストレージというプランは税込みで6127円。1年間に換算すると7万3524円となる。もう少し足せば、それなりの物理的なPCが買える価格だ。その意味では、AADアカウントを持っている個人事業主が、パーソナルユースにM1 Macbook ProでWindowsを使いたいから契約するなどの用途には正直向いていないと思うし、Microsoftも今の段階ではそうした市場は狙っていないと思う。
では誰にとってメリットがあるのかと言えば、それは企業のシステム管理者だ。システム管理者にとって最も頭が痛い問題は、物理的なデバイスの管理だ。MDM(Mobile Device Management)などのソリューションを利用して、デバイスをリモートワイプ(リモートからデータを消去すること)をしたりなど対策することは可能だが、それでも物理的なPCは紛失したり、盗難されたりという危険性に常に晒されている。
しかし、このWindows 365のようなクラウドPCであれば、データはすべてクラウド上におかれており、ローカルにはデータを置かない運用が可能になり、仮に物理的なPCを紛失したとしたも、PCやデータの実態はクラウド上にあるのでセキュリティー的なリスクはぐっと下がる。
また、現在のようなコロナ禍の環境では、新しい従業員を雇用した時に、あらかじめ設定されたPCを送ったり、あるいは会社に取りに来てもらうという手間が発生する。しかし、Windows 365であれば、Azure ADのアカウントを発行するだけで、ユーザーの手元にあるPCを使ってWindows 365にアクセスしてもらったり、必要に応じて未設定のWindows PCだけをメーカーから直送して使ってもらうなどの運用が可能になる。そうした新しい働き方にも柔軟に対応できることがWindows 365のメリットだと言える。
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