シャープ、戴会長が将来の幹部候補に求める5つの能力

強いブランド企業を目指すための3つの取り組み

 シャープの戴正呉会長兼CEOは、2021年5月11日夕刻に、社内イントラネットを通じて、CEOメッセージを配信した。4月にスタートした2021年度に入ってから初のメッセージとなる。今回のメッセージのタイトルは、「強いブランド企業"SHARP”の確立に向けて」とし、同日午後に行われた2020年度連結業績発表会見で示した今後の事業経営の方向性や、ブランド事業を主軸とした事業構造の構築など取り組みについて触れた。また、「経営人材の育成」に関して多くの紙面を割き、経営人材に求める5つの能力について説明した。

 メッセージの冒頭に、戴会長兼CEOは、2020年度業績について振り返り、「新型コロナウイルスの長期化や、半導体不足などの影響を受けるなかでも、前年に対して増収増益となり、売上高、営業利益、最終利益は、公表値を上回る結果となった。とくに売上高と営業利益は、コロナ前の2018年度を上回る水準にまで回復している。加えて、フリーキャッシュフローの黒字化も果たすことができた」と総括した。

 最初のテーマが、今回のCEOメッセージのタイトルにも掲げた「強いブランド企業“SHARP”の確立」である。

 「シャープは、新たなサービスやソリューションの展開、健康・医療・介護分野をはじめとした新規事業の創出を加速し、さまざまな社会課題の解決に取り組むことで、人や社会に寄り添い、常に新たな価値を提供し続ける『強いブランド企業“SHARP”』の確立を目指す考えである」と述べ、「ブランド事業を主軸とした事業構造の構築」、「事業ビジョンの具現化」、「社債市場への復帰」の3点から、方向性について説明。「今年度以降、この3つの取り組みを推進する」とした。

 「ブランド事業を主軸とした事業構造の構築」では、コアと位置づけるブランド事業と、それらを支えるデバイス事業によって、「One SHARP」を構成していることを示しながら、「ブランド事業においては、今後も引き続き、特長機器やサービス、ソリューションを強みに、グローバルに事業を拡大し、シャープブランドのさらなる向上に取り組む。そして、近い将来、営業利益率7%以上を達成したいと考えている」とし、また、「すべてを子会社化したデバイス事業においては、競争力強化に向け、他社との協業を具体化に加速していく方針である」とした。

 シャープでは、今後、「スマートライフ」「8Kエコシステム」「ICT」の3つのブランド事業と、「ディスプレイデバイス」「エレクトロニックデバイス」の2つのデバイス事業のそれぞれについて業績開示を行う予定であり、「それぞれのセグメントにおいて、着実に具体的成果を示していこう」と呼びかけた。

 「事業ビジョンの具現化」では、これまで掲げてきた事業ビジョン「8K+5GとAIoTで世界を変える」を具現化する取り組みを継続する姿勢を見せながら、「日本においては、これまで構築してきた事業基盤を活用し、8つの重点事業分野を中心に、新たなサービスやソリューションの創出を進め、事業変革を加速する。一方、海外においては、欧米や台湾、ASEANなどを中心に、8Kや5G、AIoTなどの特長機器のグローバル拡大を、より加速することで、将来に向けた基盤構築を急ぐ」とした。また、「こうした取り組みに向けて、ブランド事業への重点投資に加え、M&Aや協業もより積極的に展開していきたい」とも述べた。

 なお、シャープでは、「Smart Home」、「Entertainment」、「Smart Office」、「Health」、「Education」、「Security」、「Industry」、「Automotive」の8つを重点事業分野としている。

 「社債市場への復帰」では、「持続的に成長するには、財務基盤のさらなる強化が不可欠である」と前置きし、「“量から質へ”の徹底や、運転資金の圧縮によって、営業キャッシュフローの最大化を図るとともに、利益率の高いブランド事業への投資の拡大、デバイス事業における外部資金の獲得など、投資効率の向上に向けた取り組みを加速していく。これにより、毎期、安定的にフリーキャッシュフローを創出し、財務体質の改善を進め、将来の社債市場への復帰に道筋をつけたい」と述べた。

 シャープは、2021年度から新たな中期経営計画に打ち出す予定であったが、この発表を当面見合わせることを明らかにしている。

 戴会長兼CEOは、「新型コロナウイルスに加えて、米中貿易摩擦の長期化や半導体不足など、今後の事業計画の前提となる環境変化の想定は、極めて難しい状況が続く見通しである。現時点では、中長期的な数値目標を対外的に示すのではなく、1年1年、各年度の業績目標を着実にやり遂げることに専念する考えである。いまは、2021年度業績見通しの達成に向け、全社一丸となって取り組み、安定的に利益が創出できる強固な経営体質を確立していこう」とした。

将来の幹部候補に求める5つの能力

 2つ目のテーマは、「経営人材の育成」だ。シャープでは、人材育成の新たな取り組みとして、4月24日に、次期幹部候補を対象とした社内研修を実施。さらに、4月26日には、将来の幹部候補を対象とした社外研修「Leadership Transformation Initiative」をスタートしている。

 「研修参加者は、日々の業務で忙しいが、自らのため、そして、シャープの将来のために、積極的に取り組んでくれることを期待している」とし、「今回は、私が経営人材に求める能力について、改めて話をする」と、5つの能力を示した。

 1つ目は、「激しい環境変化に機敏に対応できること」である。「ここ数年、新型コロナウイルスをはじめとして、想定を超える環境変化が何度も起きており、シャープが、次の100年を歩む上では、よりさまざまな困難に直面することが想定される。こうした状況においても、シャープが持続的に成長するためには、経営者自らが市場の動きや新たな技術に対して高い感度を持ち、これまでのやり方にとらわれない柔軟な発想で次々と事業を変革し、スピード感を持って、有利なポジションを確立していくことが重要である」と提言した。

 さらに、「株式市場からの評価が高い企業の多くは、その事業形態が斬新であることに加え、CEOや経営幹部が若いという特徴がある。シャープでは、新卒採用やキャリア採用の見直し、若手社員の給与水準の引き上げなど、優秀若手人材の獲得に力を入れてきたが、今後は経営幹部をはじめとした責任あるポジションへの登用を、より一層加速していく考えである」との姿勢をみせた。

 2つ目の能力は、「リーダーシップを持つこと」である。「私は5年前に、『必ずや、シャープの経営再建を成し遂げる』という不退転の覚悟を持って、初の外国人社長として、1人でシャープに入社した。社長就任当初はネガティブな報道が多数あったが、私自らが先頭に立ち、社員の皆さんとともに、懸命に経営再建に取り組んだ結果、早期の業績回復を実現でき、世間の見方も大きく改善することができた。この間、社員の皆さんは本当によくがんばってくれたと思う。とくに、事業本部長をはじめとした経営幹部は、私に厳しい要求をされるなかでも、よくついてきてくれた。心から感謝する」とし、「将来の経営人材にも、このように、高い当事者意識と責任感を持って、“Work Hard, Work Smart”、“有言実現”を実践し、自らが範を示すことにより、社員を力強くリードしてくれることを期待している」と述べた。

 3つ目が、「将来のシャープの主力となる事業の経験を持ち合わせていること」である。

 戴会長兼CEO自らが、「強いブランド企業を目指す」、「8K+5GとAIoTで世界を変える」、「量から質へ」、「ソリューション事業への転換」、「健康/医療分野への新規参入」、「B2B事業の拡大」などの方向性を示してきたことを振り返りながら、「私のこれまでの幅広い経験をもとに、シャープが進むべき方向性を明確に打ち出し、先頭に立って事業を推進してきた」とコメント。「まだまだ満足できる水準には至っていないが、一定の成果をあげることができたと考えている。将来の経営人材にも、さまざまな事業を経験するとともに、技術に対する高い知見や経営スキルを身につけ、シャープの成長をしっかりと導いてほしい」と要望した。

 4つ目が、「ステークホルダーからの信頼が得られること」である。戴会長兼CEOは、「ここ数年の株主総会が、滞りなく開催できたことは、私の経営に対する株主の信頼の表れであると考えている」と自己評価しながら、「将来の経営人材には、株主の利益の最大化はもとより、取引先や顧客など、すべてのステークホルダーとの信頼関係の構築に努めてほしい。加えて、最大株主であり、強力なパートナーである鴻海グループとのさらなる連携強化に取り組んでくれることも期待する」と語った。

 そして、最後にあげた能力が、「グローバル経営に長けていること」だ。「シャープは、グローバルに名が知れたブランドである一方で、デバイス中心の文化であり、日本中心の会社であることが、大きな課題のひとつと考えている」と指摘。「私は、経営の基本方針に、『輝けるグローバルブランドを目指す』ことと掲げるとともに、さまざまな打ち手を講じてきた。直近でも、すべてのデバイス事業の分社化を完了し、ブランド事業のグローバル拡大を推し進める海外ブランド商品事業推進本部を新設するなど、グローバル化に向けた取り組みを具体化してきた。将来の経営人材には、こうした方向性に沿って、自ら先頭に立ってシャープブランドのさらなるグローバル拡大を牽引すべく、語学力はもとより、グローバルな視点や経営感覚を身につけてほしい」と要望した。

 これらの5つの能力については、「いますぐに、高い水準で備えている必要はない。研修や、日々のOJTなどを通じて、自ら意識的に能力向上に努め、ひとつひとつ身につけてほしい」と呼びかける一方で、「以前から話している通り、シャープ社内の人材だけでなく、社外から能力や熱意のある人材を招き入れ、互いに切磋琢磨し合うことも重要であると考えている。引き続き具体的検討を進めていきたい」とまとめた。

 戴会長兼CEOは、2021年9月には70歳を迎える。会長兼CEOとして、引き続き経営に携わる姿勢を示しているが、後継者の育成は、重要なテーマであることを、改めて自ら強調した格好だ。

 最後に戴会長兼CEOは、「日本では、3度目の緊急事態宣言が発令されており、新型コロナウイルスの第4波の収束はいまだに見えない。社員の皆さんには、引き続き、健康管理に十分留意してもらいたい。そして、2021年度業績目標の必達に向け、まずは足元の第1四半期を全力でがんばろう」と呼びかけて、今回のCEOメッセージを締めくくった。

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