シャープは、2021年度以降の経営の方向性について説明。2021年度から開始する予定だった新たな中期経営計画の発表を当面見合わせることを明らかにする一方、今後、ブランド事業において、営業利益率7.0%を目指す経営指標を公表。独自特長を持った家電や、デザイン家電の創出による白物家電事業の高収益化を目指す考えを示した。
シャープ 代表取締役社長兼COOの野村勝明氏は、「新型コロナウイルスに加えて、米中貿易摩擦の長期化や、半導体不足など、今後の事業計画の前提となる環境変化の想定は、極めて難しい状況が続く見通しである。現下の厳しい事業環境においても、シャープがこれまで掲げてきた目指す方向性に変わりはなく、今後も新たなサービスやソリューションの展開、健康や医療、介護分野をはじめとした新規事業の創出を加速していく方針である」としながら、「このような状況を踏まえて、現時点では、中長期的な数値目標を設定するのではなく、目指す方向性に沿って、1年1年、各年度の業績向上に取り組むことに専念したい。当面は中期経営計画の発表については見合わせる。まずは、2021年度の目標をやり遂げることに力を注ぐ」とした。
今後の事業方針について、野村社長兼COOは、「ブランド事業を主軸とした事業構造の構築」、「事業ビジョンの具現化」、「社債市場への復帰の取り組み」という3点に取り組む姿勢を示した。
「ブランド事業を主軸とした事業構造の構築」では、スマートライフ、8KエコシステムICTという3つのブランド事業と、ディスプレイデバイス、エレクトロニックデバイスの2つのデバイス事業で構成することを示しながら、「ブランド事業では特長的な機器やサービス、ソリューションを強みに、グローバルに事業を拡大し、シャープブランドのさらなる向上を目指す。その一方でデバイス事業は、他社との協業をてこに共創力を強化し、ブランド事業の優位性を支える革新的デバイスの創出に取り組む」とした。
「事業ビジョンの具現化」では、「8K+5GとAIoTで世界を変える」という同社の事業ビジョンを継続。「8Kや5G、AIoTなどの先端技術を搭載した特長機器を創出し、グローバルに展開。これらのハードウェア、ソフトウェア、サービスを融合したシステムの創出、あるいは各種システムを連携させたシャープならではのプラットフォームを構築し、独自のソリューションを提供していく考えである。こうした取り組みを通じて、収益力の強化を図り、ブランド事業においては、近い将来、営業利益率7%以上を達成したいと考えている」と述べた。
また、「社債市場への復帰の取り組み」としては、「今後も持続的に成長するためには、より強固な財務基盤を構築することが不可欠である」と前置きし、量から質への徹底、運転資金の圧縮による「営業キャッシュフローの最大化」、利益率の高いブランド事業への投資拡大、デバイス事業における外部資金の獲得などによる「投資効率の向上」によって、安定的なキャッシュフローを創出。
適切な株主還元と有利子負債の削減などにより、財務体質の改善を進めることを示した。ここでは、2022年度にNET DERで1.0倍未満、自己資本比率25%以上を目指す目標を明らかにした。「2020年度はNET DERが1.1倍、自己資本比率は4ポイント改善し18.2%でとなっている。利益をしっかりと出し、将来の社債市場への復帰に道筋をつけたい」とした。
また、ESGへの取り組みを通じて、持続的成長を支える強固な事業基盤の構築を目指す考えを示し、8つの重点事業分野を中心とした社会課題の解決、サプライチェーン全体でのCSRの推進、2050年に自社活動のCO2排出量をネットゼロとする「SHARP Eco Vision 2050」への取り組みなどにも触れた。
野村社長兼COOは、「シャープには、誠意と創意という不変の価値観があり、真似される商品を創出し、新しい暮らしを実現してきた108年の歴史がある。そして、幅広い事業、AIoTや8K、5Gをはじめとした特長技術、革新的なデバイスによる独自の強みなど、これまで引き継いできた確固たるアイデンティティがある。一方、世の中に目を向けると、ニューノーマルの確立、多様なライフスタイルの実現、医療や介護問題の解決、労働力不足の解消、脱炭素社会の実現といったさまざまな社会課題が表面化している。シャープは、事業ビジョンである『8K+5GとAIoTで世界を変える』ことを具現化するために、シャープならではのハードウェアやソリューションの提供を通じて、社会課題の解決に取り組む。人や社会に寄り添い、常に新たな価値を提供しつづける強いブランド企業『SHARP』を確立したい」と述べた。
「2017年度からの3年間で事業変革に取り組み、経営再建に一定の区切りをつけた。2020年度は変化への対応を図りながら、フリーキャッシュフローの黒字化を果たすなど、着実に経営改善を進めてきた。こうした成果を基盤として、2021年度からは強いブランド企業としての早期の確立に向け、ブランド事業を主軸とした事業構造の構築、事業ビジョンの具現化、社債市場への復帰に取り組んでいくことになる」とした。
ブランド事業については、スマートライフにおいて、独自特長を持った家電や、スタイリッシュなデザイン家電などにより、白物家電事業のさらなる収益力強化を図るとともに、住宅用エネルギーソリューション事業の拡大に取り組み、国内AIoT事業の強化や海外AIoT事業の拡大を見据えた新たなカテゴリーの製品投入およびラインアップの拡大を予定。PCI(プラズマクラスターイオン)事業の拡大や、ヘルスケア事業の強化にも取り組むという。
8Kエコシステムでは、回復するMFP(複合機)需要の取り込みや、テレビ事業のグローバル化を推進。国内や欧米を中心に、スマートオフィス事業を加速するとともに、シャープNECディスプレイソリューションと連携し、業務用ディスプレイ事業のグローバルへの拡大を目指すという。
ICTでは、スマホ事業のコスト力強化と、ミドルレンジラインの強化によるシェア向上を目指し、PC事業ではグローバルへの拡大を進める。また、クラウドを活用したテレワーク導入ソリューションや、教育向けソリューションの拡大、デジタルヘルス事業をはじめとした新規事業の加速にも取り組むという。
「2021年度の取り組みを着実に実行することで、強いブランド企業『SHARP』の確立にスピードをあげて取り組む。いかなる事業環境の変化にも適切に対応しながら、持続的な成長を実現していく」と宣言した。
また、デバイス事業については、ディスプレイデバイスでは、コロナ影響からの需要回復が続いている車載用ディスプレイ事業の強化、需要が旺盛なPC、タブレット向けディスプレイの販売拡大を進める。エレクトロニックデバイスでは、スマホ搭載カメラの高機能化などの市場トレンドに対応して、着実に顧客を取り込む考えを示した。
一方、シャープが発表した2020年度(2020年4月~2021年3月)連結業績は、売上高は前年比7.2%増の2兆4259億円、営業利益は61.5%増の831億円、経常利益は25.9%増の631億円、当期純利益は288.0%増の532億円となった。
野村社長兼COOは、「新型コロナウイルスが収束せず、各国で規制が実施されるなか、期末にかけては、半導体が隘路(あいろ)となった影響などがあったものの、業績は順調に回復した。営業利益は前年比1.6倍、最終利益は3.9倍になるなど大幅な増益となった。最終利益は公表値を上回る着地となっている。なかでも、白物家電などが好調に推移し、スマートライフの営業利益は、前年度比1.8倍となった。新型コロナウイルスの影響が大きかったMFPや車載用ディスプレイも回復基調にある。2021年度には、さらなる回復を見込む」とした。
なお、新型コロナウイルスの影響は、売上高で約1078億円、営業利益で約320億円のマイナス影響があったという。
セグメント別業績では、スマートライフの売上高が前年比3.4%増の8799億円、営業利益は79.7%増の715億円の増収増益。「国内においては、プラズマクラスターが大きく伸長し、洗濯機や調理家電なども前年を上回った。家電のIoT化による付加価値化も貢献している。デバイスでは、堅調な顧客需要を取り込み増加している」とした。
8Kエコシステムの売上高は前年比11.2%増の1兆2829億円、営業利益は31.5%増の173億円と増収増益。「車載向けディスプレイやMFPでは、新型コロナウイルスの影響が残り減収となったほか、ディスプレイ事業などで半導体が隘路となる影響があったが、PCやタブレット向けディスプレイや、大型ディスプレイが伸長。完成品のテレビも、日本や米州などで売上高が増加した。テレビなどの原価力向上も増益に貢献している」とした。
ICTは、売上高が前年同期比0.4%増の3589億円、営業利益が25.0%減の154億円。「半導体が逼迫するなど、部材隘路が発生したものの、通信事業では、マーケットニーズを捉えた商品展開が進捗。PC事業ではGIGAスクールをはじめとした教育向けPCなどが伸長した。だが、スマートフォンでは、ミドルレンジが中心になったことでモデルミックスが変化し、減益につながった。GIGAスクール向けPCも収益性は低い」とした。
2021年度(2021年4月~2022年3月)通期業績見通しは、売上高は前年比5.1%増の2兆5500億円、営業利益は21.5%増の1010億円、経常利益は44.0%増の910億円、当期純利益は42.7%増の760億円を見込む。営業利益率は4.0%を見込んでいる。
2021年度のセグメント別業績見通しは明らかにしなかったが、スマートライフ、8Kエコシステム、ICTの3つのブランド事業と、ディスプレイデバイス、エレクトロニックデバイスの2つのデバイス事業にわけて業績を開示することを明らかにした。
「ブランド事業が売上高の過半を占め、営業利益では4分の3を占める。2021年度は8Kエコシステムとディスプレイデバイスの収益が改善することになるだろう。家電事業の成長とともに、新型蓄電池や太陽電池パネルによる住宅用エネルギーソリューションにも取り組む。新興国向けの海外EPC/IPP事業の拡大、オフィス向けソリューションやサービスとしたMFPの需要取り込みにも力を注ぐ」などと述べた。
また、ディスプレイデバイスについては、「いまの大型ディスプレイの需給バランスは当面崩れないだろう。ドライバICなどの部材の不足はあるが、PC、テレビともに最終需要が強く、ディスプレイ需要は上振れている状況にある。2021年度前半までは逼迫した状況が続くと見ている。中小型ディスプレイは、PCにおいてはWindows 7からの買い替え需要は一服したものの、在宅勤務向けPCや、教育向けPC、ゲーミングPCなどで旺盛な需要がある。タブレットも在宅勤務や教育分野のICT化の促進でディスプレイ需要が期待できる。半導体などの部品不足については、鴻海グループの力を借りながら調達対応をしっかりしたい。福山工場では半導体を生産しており、これも半導体不足への対応になる」とした。
なお、オンキヨーホームエンターテイメントのホームAV事業の買収については、「オンキヨーとは、マレーシアにおいて、エスアンドオー・エレクトロニクス マレーシア(SOEM)という生産会社を、ジョイントベンチャーを進めており、販売はVOXXが進めてきた経緯があった。ホームAV事業を切り出すというオンキヨーからの申し出により、3社で検討をしているところである。テレビやスピーカーなどで関連がある」と述べた。
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