シャープ戴会長が語るマスク販売とその成果--激動の1年を振り返る

 シャープの代表取締役会長兼CEOの戴正呉氏は、2020年12月25日、社内イントラネットを通じて、社員に対して、CEOメッセージを発信した。「激動の一年、皆さんの努力に心から感謝します」と題した今回のメッセージは、2020年最後のCEOメッセージになる。

マスクの販売がメンバーシップの拡大につながった

 「2020年を振り返って」というテーマから触れた今回のメッセージで戴会長兼CEOは、「2020年は年明け早々、新型コロナウイルスが世界的に流行し、3月には欧米でロックダウンが始まり、ASEAN各国でも大規模な経済活動の制限が実施され、4月には日本において、緊急事態宣言が発令されるなど、世界が未曾有の危機に直面した1年になった。社員の生活も、厳しく、我慢の多い1年であったと思う」と振り返った。

 「シャープでは、2020年1~3月期には、工場の稼働停止や物流の混乱、市況の悪化など、新型コロナウイルスの影響を大きく受け業績が急減速したが、全社一丸となり、早期の挽回に努めた結果、4~6月期以降、回復基調に転じ、上期実績は、5月に宣言した通り、前年下期の業績を上回ることができた。加えて、フリーキャッシュフローの黒字化を果たすなど、重点課題のひとつである『財務基盤の強化』においても、着実に成果が表れている」と業績を総括した。

 また、「新型コロナウイルスが、世界中で再び猛威を振るっており、予断を許さない状況にある。これまで通り、社員の健康と会社の業績を守るという方針のもと、きめ細かな対策をしっかりと講じ、全員の力で、この難局を乗り切ろう」と呼びかけた。

 2つめのテーマは、「事業ビジョンの具現化に向けた取り組み」である。 ここでは、コロナ禍の激動の1年のなかでも、事業ビジョンである「8K+5GとAIoTで世界を変える」の具現化に向け、着実に歩みを進めてきたことに触れ、その取り組みを3つの観点から振り返った。

 ひとつめは、「社会貢献を目的に開始したマスクの生産と、これを契機とした新たな事業展開への取り組み」である。

 「日本政府の要請を受け、2020年3月にマスクの生産を開始して以降、順次生産能力を拡大するとともに、小さめサイズやマスク定期便サービスを展開し、お客様のニーズにしっかりと応えてきた。この結果、12月9日に発表された大手検索サイトの2020年各種検索ランキングにおいて、『シャープマスク』が複数部門で上位にランクインし、12月21日には、経済産業大臣の梶山弘志氏から、コロナ禍における政府の協力要請にタイムリーに応じ日本社会に貢献した企業のひとつとして感謝状を頂くなど、シャープのマスクへの取り組みは世間の大きな注目を集め、多方面から高い評価を得ることができた」と報告した。

 「コロナ禍において、お客様に、より安全にマスクをお届けすることを目的に、シャープのECサイトである『COCORO STORE』でマスクの販売を行ったが、結果として、これが、今後のサービス事業を本格展開していく上で基盤となるメンバーシップの拡大につながった。加えて、マスクに限らず、光触媒スプレーや高性能フェイスシールドなど、独自技術を活かした新たな健康関連商品の展開を進め、1年を通して、健康分野におけるシャープの存在感をしっかりと示すことができた。2021年は、これを足掛かりに、医療や介護分野にも事業領域を広げ、ヘルス事業のさらなる拡大を実現するとともに、4象限経営による事業変革を加速していこう」と述べた。

三重工場(多気)で、マスクの生産を開始。3月31日に出荷した
三重工場(多気)で、マスクの生産を開始。3月31日に出荷した
不織布マスク「MA-1050」
不織布マスク「MA-1050」

 4象限経営とは、戴会長兼CEOが打ち出している経営の考え方のひとつで、永続的なトランスフォーメーションに向けて、「既存事業の維持、強化」から、商品・サービス軸と、顧客・マーケット軸で広げ、「商品のアップグレード」、「市場のエクスパンション(拡張)」、「新規事業の創出」に展開していくことを指す。

「正々堂々の経営」を肝に銘じ、ルールを遵守した事業活動を

 2つめは、「ブランド事業の強化」だ。「シャープは、『強いブランド企業』の確立を目指しているが、この1年、スマートライフ事業、とくに家電などを担当するSAS(Smart Appliances & Solutions)事業本部において、大きな成果あげることができた」と述べ、「コロナ禍によってPCI(プラズマクラスターイオン)関連製品の販売が大きく伸長したという面もあるが、AIoT機器やサービスの拡大、顧客ニーズを捉えた特長商品の創出、徹底した原価力の強化、急激な需要変動にも対応できる製品供給体制の構築など、日々の幅広い取り組みが成果につながったと考えている。SAS事業本部には、今後も引き続き、ブランド事業を力強く牽引してもらいたい。また、他本部には2021年の一層の奮起を期待している」とした。

 3つめは、「将来の持続的成長に向けた体制の再編、強化」についてである。2020年8月、ICTグループ内の連携を強化しAIoT戦略のさらなる高度化を図ることを狙いに、DBI(Dynabook)を完全子会社化したのに続き、10月には、AIoTクラウドをDBIの子会社する方針を決定したことを報告。「今後は、在宅勤務や遠隔コミュニケーションなど、急拡大しているステイホーム需要をしっかりと捉えたソリューションやサービスを展開する上で、ICTグループが中心となり、One SHARPによって、さらなる事業拡大を実現していく」とした。

 加えて、「2020年10月には、他社との協業によるさらなる事業拡大を視野に入れ、ディスプレイデバイス事業を分社化しSDTC(シャープディスプレイテクノロジー)を設立するとともに、次世代ディスプレイの展開加速を狙いに白山工場を取得した。今後もディスプレイ業界をリードできる事業推進体制の構築にも取り組んでいく」とした。

 さらに、11月には、ビジュアルソリューション事業のグローバル展開強化を目的に、SNDS(シャープNECディスプレイソリューションズ)の子会社化も実行したほか、中国における8K+5Gの展開加速を担う夏研科技(山東)有限公司や、台湾におけるオンラインビジネス拡大を担うCOCORO Life可購樂股份有限公司の設立、欧州販売体制の強化などに取り組んできたことについても触れ、「世界各国において、将来の成長に向けた布石を次々と打ってきた。今後はこうした取り組みを早期に具体的成果につなげ、確かな成長を実現していく」と述べた。

 3つめのテーマが「ガバナンスの強化」である。戴会長兼CEOは、「私はかねてから、CEOメッセージや勉強会などを通じて、法令遵守やガバナンス強化を再三徹底してきたが、残念ながら、今回、連結子会社のカンタツにおいて、不適切な会計処理が行われていた疑いがあることが判明した。設置した調査委員会において徹底した調査を実施し、結果が明らかになり次第速やかに開示するとともに、二度と同じ間違いを繰り返さないよう、シャープはもとより、すべての子会社、関連会社において再発防止策を講じていく考えである」とした。

 同社の発表によると、注文書がなかったり、製品の出荷がないのにもかかわらず、売上げを計上していることが判明。2019年度から長期滞留している売掛金に関する売上げについても、製品の出荷がなく、売上げを計上している例が判明するなど、複数の不適切な会計処理が存在することがわかったという。シャープの連結売上高への影響は、現時点では100億円未満を見込んでいるという。カンタツは、都内に本社を持つマイクロレンズユニットの設計および製造を行う企業で、シャープの出資比率は53.25%だという。

 戴会長兼CEOは、「過去の勉強会で紹介した、京セラ・稲盛和夫氏の『会計は経営の中核である』という言葉の通り、会計は、経営の実態を正しく把握し、適切かつタイムリーに対策を講じることで、企業の成長を実現していくことこそが本来の目的である。シャープは行動規範に『正々堂々の経営』を掲げている。国内外すべての会社、すべての従業員が、いま一度これを肝に銘じ、ルールを遵守した事業活動を徹底してほしい」と強い姿勢で要望した。

2021年の抱負は発射台となる2020年度の着地をやり切ること

 最後に、戴会長兼CEOは、「新型コロナウイルスのワクチン接種が、米国や英国で始まっており、徐々にではあるが、感染終息への期待が高まりつつある」としたほか、2021年には、東京オリンピック/パラリンピックの開催や、コロナ禍を契機としたデジタルトランスフォーメーションの進展による新たな事業の広がり、脱炭素社会の実現に向けた取り組みが加速していることなどを示した。

 「経済の回復を牽引するさまざまな動きが期待されるなか、シャープは、業績の回復や財務の改善、事業ビジョンの具現化に向けた取り組みを進めてきたが、2021年は、こうした世界の動向を見据えた確かな成長シナリオを構築し、その道筋を社内外に示すとともに、しっかりと歩みを進めなくてはいけない。そのために、2021年1~3月期になすべきことは、2020年度中に公表予定の次期中期経営計画のブラッシュアップを進めるとともに、この発射台となる2020年度の着地をしっかりとやり切ることである」と、2021年に向けた抱負を述べた。

 そして、「休暇中も基本的な感染対策をしっかりと実施し、健康第一で過ごしてほしい。2021年も、シャープのさらなる成長に向け、ともにがんばろう」と呼びかけ、メッセージを締めくくった。

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