昔は日本でモバイル決済といえば「おサイフケータイ」だったが、2016年のApple Pay上陸以降はずいぶんとバリエーションが豊かになった。2018年にはQRコードやバーコードをアプリ上に表示させて決済させる、あるいは店舗のQRコードを読み取って決済する「コード決済」が多数市場に出現し、特に同年末には最後発のPayPayが100億円規模の大規模還元キャンペーンを立ち上げたことで、業界はキャンペーン合戦の様相を呈した。この流れは翌2019年にも引き継がれる一方で、体力的理由から還元合戦から一歩引く事業者も出てきており、年末にはとうとうOrigami Pay(Origami)の身売りの話が出るなど、1年強の争いでコード決済業界の大まかな方向性が定まった印象がある。
そして今年2020年、話題はまず前述Origamiのメルペイによる救済合併が発表されたところからスタートした。最終的に0円ディールとなったことが知られたOrigami買収だが、4年以上かけてインフラ整備を行ってきてもメルペイ以外の買い手が見つからなかったというほどに競争は厳しく、Origamiは疲弊していた。現在もなお各社各様の経済圏をバックにコード決済のプレイヤーらは競争を続けているが、モバイル決済全体の流れとしてはすでに次のステージへと移りつつある。今回は2020年を振り返る4つの技術とトレンドに関するトピックを取り上げつつ、2021年以降の業界の流れを俯瞰していきたい。
実際に意識調査以外の具体的なデータはないものの、新型コロナウイルスでの接触機会を減らすため、衛生的に問題のある「現金」になるべく触らないという話が出てきた。支払い方法としてスマートフォンを使ったコード決済やクレジットカードなどを選択するということだ。
店舗側のオペレーションも変化しており、例えばコンビニ最大手のセブンイレブンでは現在、POSレジの決済方法や現金投入窓口をすべて顧客側の方に向け、店員は決済には一切タッチしないというセルフレジ方式への改修を進めつつある。コロナ拡大の脅威が増した春から夏にかけては営業自粛ということで営業そのものを中止する店舗も出てきたが、一方でマクドナルドのようにモバイルオーダーによるピックアップやデリバリーへと誘導を促すことで顧客の滞在時間を極力少なくし、ドライブスルーの好調も相まって競合他社が軒並み売上を落とすなか、前年比増を達成するところも出てきた。
米国などではアプリで注文して現地の店舗に車を横付けして商品だけを受け取る「カーブサイドピックアップ」の利用が多く、さらにデリバリーの世界では「DoorDash」「Uber Eats」「Grubhub」の3社が市場急拡大のなかシェアを争っている。2番手のUber Eatsは4位のPostmatesを買収してそのポジションを盤石にし、Grubhubは欧州系のJust Eat Takeawayに買収され傘下に入った。デリバリーは各市場で急成長しつつあり、シェアの変革も激しい。日本ではLINEと提携した出前館とUber Eatsが2大巨頭として存在し、最近ではドイツのDelivery Heroを親会社にするfoodpandaやフィンランドのWoltが新規参入するなど、競争がさらに激化している。
デリバリーと連動した動きで興味深いのがPayPayだ。同社は出前館やUber Eatsの支払い手段としてPayPayを選択できる仕組みを提供しており、それぞれのデリバリーアプリ内から支払い手段としてPayPayアプリを呼び出せる。特にUber EatsについてはPayPayアプリ内に「ミニアプリ」として実装が行われており、直接デリバリー機能を呼び出すことが可能だ。このほか、飲食系各社がリリースしているアプリともPayPayは連動しており、マクドナルドの場合は店舗内で着席したまま注文が可能なテーブルオーダーの仕組みでもPayPayを利用できる。各種キャンペーンだけでなく、こうした普段使いできる場所が地味に拡大していたのも今年のコード決済の特徴といえるかもしれない。
コード決済(アプリ決済)がモバイルオーダーのようなスマートフォンならではの仕組みを取り入れる方向が強化される一方で、これまでキャッシュレス決済の中核を担ってきたクレジットカード方面にも大きな動きが見えている。1つは「非接触対応クレジットカード」の増加だ。日本国内ではAmerican ExpressとVisaが中心となっているが、特にVisaについては現在国内発行されているクレジットカードとデビットカードのほとんどが非接触対応となっており(一部対応しないイシュアもある)、「Visaタッチ」の名称でプロモーションが展開されている。
もともとVisaが東京五輪のスポンサーという経緯もあり、2020年にVisaタッチが利用できる加盟店を増やすことを目標にインフラ整備が進められた。三井住友カードの「stera」端末が代表的だが、サイゼリヤなどこれまでキャッシュレス導入に否定的だった飲食店まで対応を表明するなど、利用可能な拠点が増えつつある。特に2020年は既存のSquareも含め、リクルートのAirペイでも非接触クレジットカードの支払いに対応するなど、中小店舗でも導入の兆しが生まれている。残念なのは、新型コロナウイルスの影響で五輪そのものが延期になったことと、各店舗での対応がコロナ優先となったことで設置が遅れているという事情があることで、このあたりは2021年以降に活発化することになると考える。
このように2020年はVisaの頑張りが目立った年ではあるものの、ご存じのようにVisaはいまだApple Payに対応しておらず、この状況が改善する見込みもまだ見えない。Google Payで利用できる場合もあるものの、まだ対応するカードは限られている。せっかく非接触決済インフラが整いつつあるにもかかわらず、リアル店舗ではモバイル端末から利用する機会が限られているのだ。つまり、国内のユーザーのほとんどは物理カードを使わざるを得ず、「スマートフォン1台あれば決済はすべてお任せ」という状況にはならない。ここはぜひとも改善を望みたい点だ。
モバイル時代のクレジットカードがいくつか出現したというのも今年の傾向だ。正確にいうとプリペイドの仕組みではあるが、英国発祥で世界で人気のRevolutが日本上陸を果たしたり、Kyashが残高に対してポイントが付与される新サービスを発表したりと(現在サービス開始を停止中)、割と賑やかな印象だった。
これらサービスの特徴はモバイルアプリが主体であり、ここでデジタルカードを発行しつつ、別途ICチップと非接触に対応した物理カードの発行も依頼できるという点にある。また送金機能をセールスポイントとしている点も両者の特徴で、日本ではまだカード発行のないTransferWiseの今後の動向も含め、資金移動業の上限100万円だった送金規制が緩和される来年以降の動向が楽しみだ。
日本の既存イシュアも先日クレディセゾンが発表した最短5分でアプリ上でのクレジットカード発行が可能な「SAISON CARD Digital」をはじめ、顧客との接点をスマートフォンなどのモバイルに見出す動きが見える。ある意味でユーザーの滞在時間の多くがモバイルにシフトしている現状だからこその策でもあり、それだけ各社がモバイルを重視してユーザーを取り込む必要に迫られている証左だろう。
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