PASMO協議会は10月6日、Apple PayでのPASMOサービスを開始した。iOS 14以降を導入したiPhone 8以降の機種、またはwatchOS 7以降を導入したApple Watch Series 3以降のデバイスでPASMOを利用できるようになる。
この3月に提供が開始されたAndroid版PASMOと合わせ、スマートフォンの主要2プラットフォーム上でPASMOのモバイル対応が進んだわけで、既存のモバイルSuicaサービスと合わせ、首都圏の交通系ICカードのモバイル対応が実質的に完了した形となる。
「ガラケー」とも呼ばれる従来ながらの携帯電話(フィーチャーフォン)にモバイルSuciaサービスが提供開始されたのが2006年のこと。2007年3月にPASMOサービス(当時は鉄道23事業者、バス31事業者)が首都圏ICカード相互利用を含めてスタートしてから、およそ13年半が経過したことになる。
今回はPASMOのモバイル対応完了までなぜここまで時間がかかったのか、またPASMO以外の交通系ICカードはモバイル対応されるのかという2つのポイントを解説したい。
前述の通り、首都圏の私鉄各社がサイバネ規格に準拠した交通系ICカード「PASMO」のサービス提供を開始したのは2007年のこと。それまで「パスネット」や「バス共通カード」のような磁気カードで相互運用をしていた私鉄各社だが、すでにSuicaを導入してICカード乗車が主流になりつつあった東日本旅客鉄道(JR東日本)に歩調を合わせる形での導入となった。
SuicaではなくPASMOが存在する意義だが、もともと私鉄各社ではそれぞれに異なる定期や乗車ポイント管理システムを運用しており、完全にSuica準拠の仕組みを導入するわけにはいかなかった背景がある。そこで首都圏の私鉄各社やバス会社が集まる形でPASMO協議会を設立、PASMOカード発行管理のための「株式会社パスモ」を併設する形でPASMO導入の準備が進められた。
このようにICカード対応は2001年に商用サービスインしたSuicaと比較してもそれほど遅くなかった首都圏の私鉄各社だが、PASMOのモバイル対応には結局13年近くかかってしまった。この理由として「PASMO協議会にそもそもモバイル対応の意思がない」ことが挙げられる。正確には、「仮に協議会参加社の中にモバイル対応を望んでいるところがあっても、計画推進の合議が協議会内でとれない」という事情がある。
現在は鉄道27事業者、バス33事業者で構成されるPASMO協議会だが、比較的資金に余裕のある大事業者もあれば、体力の弱い小規模な事業者までさまざまだ。交通系ICカードのモバイル対応にあたっては、基幹システムに接続してフロントエンドの処理を行う中継サーバーの設置が必要となるが、自前ですべてを開発していては時間とコストが非常に高くつくため、基本的にJR東日本にこの部分を委託するのが近道となる。
筆者の情報源によれば、JR東日本はシステム委託費としてPASMO協議会の加盟各社に対してそれぞれ数億円単位の費用を提示していたという。そのため、多くが多額の追加費用がかかるモバイル対応に難色を示していたとみられる。
時系列を追っていくと、筆者がPASMO関係者らに取材を行っていた2017年前半までの時点では、モバイル対応の計画はなかったとみている。同年10月には「モバイルPASMO」が商標出願されたことが話題になったが、協議会の公式回答としては「モバイルPASMOの商標登録については計画こそあるものの、現時点では何も進んでおらず、先行して登録を行っただけ」というものだった。
10月6日のPASMO for Apple Payの発表会において、PASMO協議会モバイルプロジェクトリーダーの中島浩貴氏は「協議会内部でモバイルプロジェクトが活動を開始したのは“ここ数年のこと”」と説明していたが、具体的にどのタイミングで動き出したのかは明言していない。ただ少なくとも、商標出願時点でモバイルPASMOの可能性自体は探っていたものの、まだこの時点では具体的な提供計画はなかったと筆者は考えている。
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