後編、麻倉怜士のデジタル時評--4K8K勢ぞろい、テレビ最新事情【シャープ、東芝、LG編】】はこちら。
オーディオ&ビジュアル評論家麻倉怜士氏が、注目機器やジャンルについて語る連載「麻倉怜士の新デジタル時評」。今回は、2020年モデルが各社から登場しているテレビの今について論評する。
新型コロナ感染拡大を受け、影響の大きかった業界がある一方で、巣ごもりなど新たなニーズが現れた2020年。テレビ市場はそうした巣ごもり需要の追い風を受け、売上を伸ばしたもののひとつだ。その背景には2018年に開始された新4K8K衛星放送や、Netflix、Amazonプライムビデオに代表される動画配信市場の台頭など、コンテンツが果たした役割も大きい。
一方で、8K液晶テレビや4K有機ELテレビなど、テレビ自体にも新たな進化が見られたほか、有機ELテレビも発売から時間が経ち、発売当初とは比べ物にならないくらい性能も上がった。ドン・キホーテのプライベートブランドやヤマダ電機限定で販売されているフナイなど、低価格路線のモデルも登場しており、裾野が広がったことも大きな流れと言えるだろう。
ハード、ソフト共に成熟度を増して、より魅力的になってきたテレビ市場。各社どんな戦略で年末商戦に臨むのか。その解説を前後編で紹介する。今回はまさに絶好調とも言えるソニーと、自発光に強いパナソニックについて見ていこう。
好調に推移するテレビ市場の中でも、ソニーはまさに絶好調だ。数年前までは赤字幅が大きく、厳しい見方をされていたが、前社長の平井一夫氏の正当な改革が成功を収め、技術的にも収益面でもバランスの良い事業になった。
2000年代前半までの電気メーカーにおけるテレビのモノづくりは川上のパネル製造から川下の販売まですべて自社で手掛けることが主流だった。この流れはソニーも同様で、ブラウン管時代は「トリニトロン」が人気を博す。平面型で一世風靡したことを受け、長く薄型パネル事業に着手しなかった。
その後、サムスン電子と液晶パネルの合弁会社を作ったり、有機ELパネルを自社製造してみたりと、パネル事業は迷走を続ける。この頃からソニー画質を作り上げるのは映像エンジンと舵を切り、そこに注力してきた。
これによって有機EL、液晶、マイクロLEDとすべてのパネルにおいて、映像エンジンで画質を個別にコントロールし、ソニー画質に仕上げて商品化することを実現。この作戦がソニーテレビの画質を非常に大きく底上げし、テレビ全体の商品力の向上にもつながったのである。
パネルの製造には多くの投資が必要で、今は中国や韓国のメーカーがこの市場を席巻している。ここで勝負をするのではなく、どんなパネルでもソニー画質を実現する映像エンジンに重きを置いた戦略は、技術的にも経営的にも成功し、現在の絶好調につながっていると言えよう。
もう一つ注目したいのが、ソニーの8Kテレビ戦略だ。8月のリモート会見で、ソニーエレクトロニクス 代表取締役副社長兼COOの高木一郎氏は「8Kテレビ事業については、粛々と取り組む」と発言しており、現在、8K液晶テレビは85V型の「KJ-85Z9H」のみ。複数のラインアップを展開するシャープやLGエレクトロニクス・ジャパンに比べると、小規模の印象だ。
こうした動きから思うのは、ソニーにとっての8Kテレビはショールームだということ。8Kはまだ本格ビジネスではなく、オリンピック後の次の主流。本腰を入れるのはまだ先になるが、今、取り組んでいるのといないのとでは、ユーザーに対するインパクトが全然違う。将来も見据えて取り組んでいる姿勢を見せるための8Kテレビ戦略だと考える。
実際、KJ-85Z9Hの画質は素晴らしい。液晶パネルだけに黒の沈み込みは有機ELに劣るが、ダイナミックレンジが広く、明るい画の中における黒再現性は素晴らしい。これは「バックライト マスタードライブ」によるもの。従来よりはるかに多いブロック数でLED群を駆動することで、細かい範囲での明暗表現が可能になり、高コントラスト、高輝度を実現している。
音質は、独自の音響技術「アコースティック マルチ オーディオ」を採用が光る。これは「画音一致」というソニーテレビの音の方針に従い、画面上下に複数のユニットを搭載することで成している。実はその第1世代はいまふたつぐらいの音だったが、本機のものはかなり良い。
画質、音質ともにさすがの仕上がりとなっているソニーの8K液晶テレビだが、課題と感じるのはラインアップがこれだけであることと、想定税別価格は200万円前後という高さ。商品が良いだけに今後はこの問題点をクリアして欲しい。そもそももっと8Kに対して情熱を傾けなければならない。
一方、ソニーでは有機ELテレビも人気だ。現在4K有機ELテレビとして「A8H/A9S/A9G」の3シリーズをラインアップ。押し出し感があって、パワーがあり、色もしっかりと載っている、いかにも有機ELらしい画づくりで、購入したユーザーの満足感も高いだろう。コントラスさの高さと色の濃さは印象的な仕上がりだ。
加えて、画面から音が出る”本物”の「アコースティック サーフェス オーディオ」も音質を向上している。アコースティック サーフェス オーディオは、本体背面に配置したアクチュエーターが被写体の位置に合わせて画面を振動させることで音を出す仕組み。
基本技術はLGエレクトロニクスが提案しており、ソニー以外のメーカーも取り組んでいるが、なかなかここまで音は良くならない。なぜならガラスはスピーカーに使うには大変難しい素材。音のスピードは出づらいし、内部損失も低い。このガラスを用いてここまで高音質に仕上げているのは評価できる。これはオーディオ部隊がいるというソニーの強み。有機ガラスを用いた「グラスサウンドスピーカー」のノウハウも生きているのだと思う。
画質、音質ともに高精度に仕上がっているソニーだけに、8Kテレビにはさらに期待したい。
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