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信長の敦盛も間近で見られる--凸版印刷の遠隔体験「IoA仮想テレポーテーション」が描く未来

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 コロナ禍で一気に加速した遠隔体験。留学生が自国にいるまま授業に参加する遠隔学習、遠隔技術を活用した芸術鑑賞やショッピング、遠隔観光なども、もはや身近な存在になりつつある。こうした遠隔体験を「IoA仮想テレポーテーション」と呼び、研究開発に取り組んでいるのが凸版印刷だ。東京大学教授でソニーコンピュータ研究所副所長の暦本純一氏が唱える「IoA」を体現する形で、さまざまなサービス開発を進めている。


 朝日新聞が主催した「朝日地球会議2020」では、凸版印刷の先端表現技術開発本部 本部長である鈴木高志氏、東京大学大学院 情報学環教授の暦本純一氏、タレントで5歳児の育児に奮闘中の眞鍋かをり氏を招いて、パネル討論「未来を創る『分身技術』コロナ禍の世界を変える?」を実施した。

 会場は、凸版印刷が2019年に新設した、デジタルの力で日本の美しさを体感できる「NIPPON GALLERY TABIDO MARUNOUCHI」だ。まず最初に、日差しまでバーチャルで再現した露地を歩く体験、アバターロボットにジャックインした遠隔ショッピング体験、沖縄の海にテレポーテーションしたダイビング体験など、さまざまな未来的な遠隔体験を、同施設を活用して視聴者に届けた。


 最も象徴的だったのが、時空をも超えた体験だ。500年前にタイムスリップした安土城では、織田信長が「人間50年」で有名な敦盛を目の前で舞う、臨場感あふれる体験が披露された。遠慮なく近づいて信長の顔を覗き込むことや、本格的な足捌きを隣で真似てみることもできる。




 実際には、VRを活用したバーチャル体験だが、安土城の壁画や天井に施された意匠は本物さながら。天守閣から信長が実際に見ていたであろう、当時の城下の景色を俯瞰して見られるのは、とてもリッチな体験だ。壁画は、狩野永徳が中心となって中国の思想家を描いたといわれており、凸版印刷の表現技術を用いて再現したという。




 ちなみに、このとき信長を演じていたのは、武楽の創始家元である源光士郎氏。新たな芸能を立ち上げて15年間活動しており、海外の方々ともオンラインで稽古をしているという。源氏は、「アバターなら、離れていても同じ空間にいるような感覚で稽古をできる。通常のオンライン会議システムとは全く違う良さがあるので、これから発展していくのではないか」と話した。


凸版印刷が遠隔体験に注力する理由

 このような遠隔体験が、当たり前になる未来。そのキーワードとして紹介されたのが、時間と距離を超えた「仮想テレポーテーション」、ロボットや他者の意識を共有する「ジャックイン」、そしてインターネットを経由して能力を拡張するという概念Internet of Abilityの略である「IoA」だ。


 凸版印刷では、印刷テクノロジーを5つの要素技術に区分して、そのなかの「情報加工」における表現技術の開発を積極的に行ってきた。大きな取り組み領域は2つあり、セールスプロモーション領域における可視化技術と、文化遺産のデジタルアーカイブである。



 セールスプロモーション領域におけるデジタル発展の背景には、90年代から進んだ消費者の好みの多様化がある。製品のライフサイクルが短くなったため、製品設計後のCADデータをプロモーション施策に活用する需要が高まったのだ。一方、文化遺産のデジタルアーカイブにおいては、まずは現状の色味をデジタルで抑えることで、カラーマネジメント技術を確立した。

 たとえば、「ストリートミュージアム」は、すでに20を超える遺跡で当時の様子をバーチャル確認できるという。日本のお城は、天守閣が焼け落ちて石垣だけ残存するものが多い。凸版印刷の技術を活用すれば、リアルにある石垣とGPSに連動して現れるバーチャルの天守閣を融合して見ることができる。


 導入した自治体からも、「誘客効果が高い」と好評とのことで、50以上の自治体で取り組みがスタートしているそうだ。すでに、全国100カ所以上のバーチャル化が完了しており、順次掲載予定だという。

 また、東日本大震災で被災した双葉町では、いまも一部地域への立ち入りが禁止されているが、いわき市から双葉町に“ジャックイン”して、故郷が復興している様子を子どもたちに伝える取り組みも行ったことも紹介された。


 眞鍋氏は、「ジャックインとジャックアウトが、最初はよく分かなかったけれど、双葉町の例はジャックイン、安土城を上から見た体験はジャックアウトということですね」と、IoAという新たな概念に理解を示した。


Internet of Ability(IoA)の世界観とは

 IoAの提唱者である暦本氏は、「人間の拡張とは、いろんな能力がコンピューターやAIやロボットで、増強されたり良くなったりするということ。たとえば、いまは石垣しか残っていない場所にバーチャルなお城を投影して見ることで、頭の中の想像力や知覚能力が高まったような感覚を得られて、認知能力や理解度が高まる」と話した。


 そのうえで、IoAについてこのように説明。「IoAとは、Internet of Abilityの略称。人間同士や、人間とロボット・AIが、ネットワークでどんどん繋がっていくことで、遠隔地で作業したり、ものを見て判断したり、喋ってコラボレーションするなどの人間の能力がネットワークを介して拡大していくという考え方」

 つまり、これまで聴き慣れてきたモノとモノがインターネットでつながりスマート化するというIoTから一歩進んで、能力自体が拡張していくというわけだ。そして、ここで登場するキーワードが、他者の世界に入り込む「ジャックイン」と、他者がいる世界においてその人から幽体離脱したような状態で同じ空間を共有する「ジャックイン」だ。


 ジャックインの例として紹介されたのは、スポーツ選手がジャックイン装置を装着した状態で大車輪をすると、そのスポーツ選手が見ているのと同じような視覚を体感できるもの。カメラを装着して映像を見るだけでは目が回ってしまうが、ここにテクノロジーを活用することで、「体育館は止まった状態で自分が動いている」という選手の脳内で調整して見ている世界を第三者が同時に見れるようにした。この技術を活用すれば、トレーニング時にコーチが選手にジャックインして、視覚を共有したうえで指導することが可能になる。


 一方のジャックアウトの例としては、途中まではバスケットボール選手にジャックインして見ていたところ、シュートの瞬間だけ俯瞰してコート全体を見下ろしたり、別の選手にジャックインしたりして、リアルな空間をバーチャルな存在として自由自在に動き回れるという構想が披露された。


「妄想力」を育てよう

 「このような自由な発想で研究をできる、原点は何か」という質問に対して、暦本氏は「妄想力だ」と即答した。「子どものころ、サイボーグ009やドラえもんに憧れていた。いまあるいろいろな現実的な技術をつなげていくことで、子どもの頃に夢見ていたSFやアニメの世界を、かなり実現できるのではないかと思っている」(暦本氏)

 鈴木氏は、暦本氏の「真面目に妄想している」というコメントを受けて、「凸版印刷では、何とか社会実装を目指して取り組んでいる。特に、遠隔教育や遠隔体験には注力していきたい」と話した。


 2人のやりとりを聞いた眞鍋氏は、「これまで費用などの制約で、留学や旅行に行けなかった人も、こうした技術を使えば遠隔で体験できる機会を得られる」と、技術革新による格差是正についても言及した。

 最後に、「ジャックインやジャックアウトによって、人のパーソナリティはどのように変わっていくのか?」という質問が、暦本氏に投げかけられた。暦本氏は、「能力差そのものはなくならないと思う」と指摘した上で、未来についてこう述べた。

 「個性として得意領域は人それぞれ持っているので、ジャックイン・ジャックアウトで効率的に学べるようになって全体のベースラインが上がり、その上でみんな切磋琢磨する世の中になるのではないだろうか。これからの時代は、こういうものがあったらいい、こういうものを作ってみたい、やってみたいという、妄想力が一番大事だ」(暦本氏)

 IoAがつくる未来を意識して、事業開発、キャリア開発、子ども教育などを見つめ直すことは、公私にわたり豊かな未来を切り拓いていくことにつながるのではないだろうか。

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