落書きに魂宿す「らくがきAR」を開発--異色の“クリエイティブよろずや”の正体とは

鈴木光平 山川晶之 (編集部)2020年11月26日 09時00分
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 コロナ禍以降初の本格的な夏を迎えた8月に、一つのカメラアプリが話題となった。紙に描いた落書きをスマートフォンで撮影すると、スクリーンの中でキャラクターが紙から飛び出し、現実世界の上をキャラクターが動き回る様子を見ることができるという、エポックメイキングな体験が大きな反響を呼んだ。

 
(左から)Whatever CCOの川村真司氏、らくがきARのクリエイティブディレクターでありココノヱの元代表の宗佳広氏、同社CEOの富永勇亮氏

 そのアプリの名は「らくがきAR」。クリエイティブスタジオのWhateverが手掛けたものだ。広告などを一切打っておらず、口コミのみだけで拡散。一時は、中国や韓国、台湾など日本を含めた8カ国で、アプリストアの有料ランキング1位を獲得した。また、「ワンピース」の作者・尾田栄一郎氏をはじめ、著名な漫画家たちがSNS上で動き回るキャラクターの動画をアップしはじめると、ダウンロードは加速度的に増えたという。

 リリースから3カ月以上経つものの、今でもSNSを覗けば毎日のようにキャラクターがAR空間に出現しており、アプリの息の長さを感じさせる。さらに、11月24日にはAndroid版をリリース。これまで、iOS版のみの提供だったため、より多くのユーザーがらくがきを“召喚”することができるようになった。

 このアプリを手掛けたWhateverは、2019年に「dot by dot」「PARTY New York(以下、PARTY NY)」「PARTY Taipei」「ココノヱ」というクリエイティブスタジオ4社が合併して誕生した企業だが、同社CEOの富永勇亮氏は、自社のことを「何でも屋」と表現する。クライアントワークとして、NHKやSlack、Shopify、ソニー、セブンイレブンなどのクリエイティブでプロデュース・企画・制作をカバーするほか、自社プロダクトも世に送り出している。らくがきARはその一つだ。

 また、ビデオ会議にそのまま参加できる上半身のみシャツ姿の室内着「WFH(Work From Home)Jammies」を5月にリリース。リモートワークが普及する時流にうまく乗り、多くの注目を集めた。さらに、歌詞が浮かび上がる「Lyric Speaker」など、衣服や家電製品といった本格的なモノづくりにも携わっている。一般的なクリエイティブスタジオのイメージからすると異色な存在と言えよう。

 
ビデオ会議にそのまま参加できる上半身のみシャツ姿の室内着「WFH(Work From Home)Jammies」

 Whateverとはどういった企業なのか、らくがきARはどのようにして生まれたのか。同社CEOの富永勇亮氏、CCOの川村真司氏、らくがきARのクリエイティブディレクターでありココノヱの元代表でもある宗佳広氏に開発の舞台裏や社風について伺った。

開発期間は10年、とあるエンジニアの想いをつないだ「らくがきAR」

――まずは、らくがきARの開発にいたった経緯を教えてください。

宗氏:実はらくがきARの原型は10年前にさかのぼります。ココノヱが開発した「撃墜王」という、自分たちが描いた絵を読み取ったキャラクターで戦うゲームです。絵によってパラメーターが変わるゲームで、セガとの共同開発によりゲームセンターに置かせてもらいました。

 その後も電通と、描いた魚の絵が泳ぎだす「らくがき水族館」というコンテンツを開発し、すみだ水族館をはじめとする水族館で展示していただきました。絵に描いた魚が泳ぐだけでなく、カップルの魚を描くと、相性も表示させるシステムも開発して、水族館を訪れた家族に好評でした。

 魚バージョンが好評だったので、次は動物バージョンに派生します。動物は魚と違って手足があるので、手足もちゃんと動かしたいと思って開発したのが「Honeborn(ホネボーン)」というシステムです。らくがきARにも使われている技術ですが、らくがきに“骨”を入れることで、歩けるようになります。

 
らくがきARのクリエイティブディレクターでありココノヱの元代表の宗氏

――スマートフォンアプリを開発しようと思ったきっかけは何でしょうか。

宗氏:2017年にiPhoneがARKitをリリースするという話を聞いて、Honebornの技術とARを組み合わせて作ったら、面白いモノができるかもしれないと。その時に作ったシステムがらくがきARの前身で、実際に配布できるようになったのが今年だったのです。

――10年という月日をかけてリリースまで至ったのですね。

宗氏:その間に、発案者であり(Honeborn含め)メインで開発をしていた山田純也というエンジニアが他界し、その意思を引き継ぐ形で開発を続けてきました。ですので、今回リリースできたのはもちろん、これだけ社会に受け入れられる結果となったのは嬉しいですね。プロジェクトのクレジットに名前を掲載した山田も誇らしく思ってくれていると思います。

――10年もの間サービスを作り続けてきて、らくがきARで広く受け入れられた理由は何でしょうか。

川村氏:AR技術が誰もが使えるくらいに普及したからだと思います。描いた絵が動き出すという発想は10年前からあっても、それが誰でも遊べる状態でなければ意味がありません。今はハイスペックなスマホでなくても、当たり前のようにAR機能がついており、特別なセットアップなくして絵に命を吹き込ませる体験ができるようになりました。

 ただ、そうして手軽にARが体験できる環境になったと理解した上でもなお、アプリを作る際に、いかに誰でも簡単に使いこなせるモノにできるかをとことん考えました。その結果、アプリを起動し、絵にかざしてボタンを一回押すだけで、自動でスキャンして勝手に動き出すシンプルな設計にたどり着きました。実は、ほかにもさまざまな機能があるのですが、使わなくても十分に楽しめるはず。そのシンプルさが世界中の誰をも驚かせる結果につながったと思います。

 「ARを誰もが簡単に使える時代」と「誰もが気軽に楽しめるシンプルさ」がかけ合わさって、これほど大きな反響があったのだと思います。まさか私たちも、ここまで大きく話題になるとは想定していませんでしたが(笑)。

――らくがきARはどのように発展していくのでしょうか。

富永氏:早急に取り掛かりたいと思っているのは、Android版をリリースすることですね(11月24日に提供開始)。正直、iPhone版もここまでヒットすると思っていなくて、開発に携わっているのは4人だけなんです。

 コンテンツの話をするなら、これまで作ってきた対戦ゲームやダンスゲームなどと組み合わせていきたいと思っています。また、今は一つのスマホで楽しむだけですが、複数台のスマホで落書きを共有して楽しめる機能なども追加していきたいですね。

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