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落書きに魂宿す「らくがきAR」を開発--異色の“クリエイティブよろずや”の正体とは - (page 2)

鈴木光平 山川晶之 (編集部)2020年11月26日 09時00分
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「採用活動ゼロ」でも優秀な人材が集まる理由

――Whateverの社風についても教えてください。特徴的な自社企画はどのようにして生まれるのでしょうか。

川村氏:今でもアイデアを考えてから公開するまでの期間が数カ月単位という短いスパンの仕事が多いです。そういった受注仕事はゴールが最初から設定されている分楽なのですが、そればっかりだと自分たち自身で課題を考えたりゴールを設定する力が養われません。せっかく、社内に面白いアイデアを持った人間が大勢いるので、メンバーが実現したいアイデアについては、会社としても全面的にバックアップするカルチャーができあがっています。

 また、やりたいことを思いついた時に、そのための資金集めやパートナー探しをする必要がなく、自分たちで完結して作れてしまうのも自社事業を後押しできる理由の一つですね。中には、他社と提携してプロジェクトを進めることもありますが、基本は自分たちで作って売るスタイルです。みんな作りたいものがあるので、仕事以外の時間を使って自主的に手を動かしています。そうしたプロジェクトが世界中で話題になるヒットケースというのもそんなに多くはないのですが、その最もいい例がらくがきARですね。

富永氏:社内ではさまざまなプロジェクトが動いていますが、私たちが大事にしているのは「世に出すこと」。アイデアをたくさん出す会社は多いですが、プロトタイプで終わってしまう会社もまた多いです。プロトタイプを作っただけでは、プロダクトを作ったことになりません。リリースして量産に至って初めてプロダクトを作ったことになるのです。

 スクリーンで完結するのではなく、空間に持ってくる、デジタルで実世界に溶け込ませたものを体験してもらうことは重要で、Lyric Speakerもインタラクティブオブジェクトの一つです。COTODAMAは、SixやWOWなどと共同で出資したジョイントベンチャーで、WhateverのSaqooshaがCTOを兼務しています。楽曲と歌詞が気持ちよくシンクするエンジンは、弊社オリジナルです。

 
COTODAMAが手掛けるリリックスピーカー。楽曲に合わせた歌詞の表示エンジンをWhateverが手掛ける

 こうしたプロダクトをちゃんと世の中に出すということは、細部まで精度を高めなければならず、プロトタイプを作るのとは大きな壁があります。私たちの強みはアイデアのほとんどを世に出していること、それができるチームを作れていることだと思いますね。

――人材はどのようにして集めているのでしょうか。

川村氏:いわゆる採用活動というものは、実はあまりしたことがありません。バックオフィス(Whateverではグランドコントロールと呼称)を採用するために求人広告を出したことはありますが、エンジニアやデザイナーを採用するためにお金を使ったことはないです。みんな私たちが作った作品などを見て、面白そうだからと連絡してくれて仲間になるケースが多いです。

 他社と比べて、ロールが明確じゃなかったり、マルチな役職をこなしたりするので、普通の職種別採用だとハマりにくいというのもあるかもしれません。例えば弊社には営業という部署はなく、プロデューサーがアカウントディレクターを兼務していたり、デザイナーだけどエンジニアも兼ねていたり、グランドコントロールがPRもやっていたりとさまざまです。

 結局、人も仕事も、作ったものが良くないと良いものが集まらないんだなと達観している部分があります。単に採用に不器用ともいえますが(笑)。だから、らくがきARがこんなに話題になったのは、採用や新規プロジェクトにつながるという意味でもとても嬉しいんです。

 らくがきARだけが理由ではないのでしょうが、日本のみならず、米国や中国、シンガポール、ハンガリーなど世界中から常に求人が来るようになっています。日本よりも海外からの打診がなぜか多いのですが、私たちの作品がグローバルで認知されている証だと思っています。これも、「世界中の誰が見てもハッピーになれる作品づくり」にこだわってきたおかげですね。

富永氏:優秀な人たちが集まってくれる要因の一つに、「Co-creator」という制度も関係していると思います。これはフリーランスのクリエーターたちを業務委託として契約している制度なんですが、雇用形態に関わらず社員と同じように働けます。

 
Whatever CEOの富永勇亮氏

 やりたいことがあってフリーランスになったのに、法務とか経理とか自分の仕事以外の業務が多くて、自分のやりたいことに集中できないフリーランスも少なくありません。Co-creatorは、フリーランスに自分の仕事に集中してもらうための制度で、会社の弁護士や会計士にも気軽に相談できるようにしています。

 契約上は業務委託ですが、社員よりも出社している人も多いので、外から見たら誰がCo-creatorか分からないと思います。社員だから会社に来なきゃいけないわけじゃないですし、業務委託だって自由に会社に来てもらって構いません。そのような「管理しない管理」をすることで、メンバーたちものびのび働けるのだと思います。

――「管理しない管理」とは面白いですね。

富永氏:今の時代は会社の存在意義が揺らいできていると思っています。私たちのメンバーは全員が一人でも生きていけるレベルですし、どの会社でも活躍できる人材ばかりです。そういったメンバーたちが、うちで働いてくれている理由は「このメンバーで仕事するのが面白いから」だと思います。

 昔であれば、会社を選ぶのは給料や待遇だったかもしれませんが、今は人のつながりとか目に見えないものの方が重要なんじゃないでしょうか。「管理しない管理」は曖昧で、わかりやすいメリットを提示できませんが、その分多くの人を引き付ける力があると思います。

ニューヨークで味わった会社を経営する難しさ

――必要な人材と生み出したいアウトプットの理想のサイクルが生まれているように思います。

川村氏:私も会社を経営していましたけれど、なかなかクリエイティブな会社のバランスを取るのって難しいんですよね。ルールでガチガチにしても企業文化って作れませんし、そこをみんなでふわっと共有して成り立っているのがWhateverなんです。

 
Whatever CCOの川村信司氏

――PARTY NYではそのバランスをとるのが難しかったと。

 PARTY NYでも、それを目指して作っていたつもりでしたけど、ニューヨークは物価も人件費も抜群に高く、クライアントは契約文化で商習慣も厳しい。もっとスケールしたいと思って一時期スタッフを十数人ぐらいまで増やしてみたりもしましたが、その人件費をペイするには自主事業を減らす必要が出てきたりして、結果、あんまり面白いプロジェクトができなくなり、お金は増えても幸福度が減ってしまったり。

 それは文化的に嫌だったので、やはり必要最小限のチームで回す以外に、ビジネスとやりたいことのバランスは取れないと学んだ気がします。毎年綱渡りの中、ベストなバランスを求めて、全然違ったビジネスモデルの実験を繰り返していました。

 あと、PARTYはもともと業態がエージェンシー寄りでストラテジーとクリエイティブ企画をメインにしていたこともあり、フィーのバランス的にもアイデアやデザインは内製できるものの、制作・開発は外部に発注せざるを得ない状況で、本当は「考えて作れるチーム」にしたかったのですが、苦慮する時期が続いていました。そんな中、どうしても制作寄りの人材であるプロデューサーが必要だったこともあり、富永に手伝ってもらうようになったのです。

――それが4社が合併するきっかけになったのでしょうか。

富永氏 川村はPARTY NYとPARTY Taipeiというエージェンシーを、私はdot by dotというプロダクションを、宗はココノヱという会社を経営しており、長く一緒に仕事をしている友人・仲間でもあります。海外展開にチャレンジした身からすると、PARTY NYは、ニューヨークに拠点を置き、北米のクライアントが6割、アジアのクライアントが4割を占めていました。ほぼ日本のクライアントを引き受けずに5年間ニューヨークで活動できた人は今まで誰もいないと思います。

 PARTY NYは、エージェンシーの側面が強く、クリエーターが多い反面プロデューサーが手薄だったこともあり、両者でアライアンスを組み、私がPARTY NYのプロデューサーを兼任し、川村にはdot by dotのクリエイティブディレクターをお願いしました。その時、ココノヱも山田さんが亡くなって弊社からエンジニアを派遣していたこともあり、「それなら3社で一緒にやろう」という流れから、2019年1月にWhateverを立ち上げました。

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