中国で交通ルールを無視して道路を渡れば、顔認識技術によって自動的に自分の名前と写真が広告板に表示され、罰金の支払いを求めるテキストメッセージが届くと想像すると、人々は、決まった行動をとならなければ、という恐怖心を植え付けられる、とWang氏。
テクノロジーは、これまでも多くの面で人々の行動に影響を及ぼしてきた。それは中国だけに限らない。
行動工学は、技術と心理学を組み合わせて、人々が決まった行動をとるように誘導するという概念であり、私たちは、行動工学を毎日目にしている。それは、いわゆる「ダークパターン」を見ても明らかだ。ダークパターンとは、例えば、人々をだまして個人データを提供させるために、オプトアウトボタンを隠すなどしたインターフェースデザインのことである。
だが、行動工学の米国での使われ方と、中国およびその顔認識技術での使われ方には、重要な違いがある。
「米国では商業的な意味合いで語られるのに対し、中国では国家的な取り組みとなっている。原動力も力の規模も異なるが、際立って似ている点もある」(Wang氏)
米国では、人々に関するデータを収集し、予測される性格特性に基づいてコンテンツを配信または除外するのに、行動工学の手法が利用されている。
Facebookが2018年、今は存在しない英国のデータ分析会社Cambridge Analyticaによる不祥事に巻き込まれたのは、Cambridge Analyticaが最大8700万人ものユーザーからデータを収集し、人々に特定の投票行動をとらせるようなターゲット広告の配信に利用したことが原因だった。
ロシアによる2016年の米大統領選挙への介入では、Facebookを利用して対立グループを作り出し、抗議活動のイベントが企画され、人々がこれに参加した。このために配信された広告は、例えば警察に高い関心を持つ人々や、スペイン語話者のグループなどにターゲティングされていた。
この種の行動工学は主に製品の販売や利益の獲得を目的としているが、中国の取り組みは、恐怖心を植え付けて、国民をコントロールすることが主な狙いであり、顔認識技術がそこで重要な役割を果たしている。
「このことは、常に監視されている状態について『社会とはそういうものだ』とする考えに人々を慣れさせる」。非営利のシンクタンク、Constitution Projectのシニアカウンセルを務めるJake Laperruque氏は、そう語る。「『われわれは常に監視している。われわれの気に食わないことをしたら、見つけ出して恥をかかせてやる』ということを人々に知らしめようとしているようだ」
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