米国で顔認識技術を支持する人々は、この監視技術について、極めて大きなリスクに対処するためのものだとしばしば主張する。すなわち、暴力的な犯罪やテロリストの脅威、人身売買を防いだり、解決したりすることに役立つ、というものだ。そうした主張がある一方で、顔認識技術は万引きや12ドル相当の商品の窃盗、50ドル相当の麻薬の取引といった軽犯罪に使用されることが依然として多いが、同技術が中国でどれほど広範囲に普及しているのかを考えると、米国での利用状況はまだ控えめに見える。
中国では、国中に巨大なカメラネットワークが張り巡らされており、同国の顔認識システムは国内のほぼすべての市民を記録している。2019年に発生したデータベースの漏えいにより、中国で監視ツールがどれほど普及しているのかが、少し明らかになった。1日あたりの記録件数は680万件を超え、ホテルや公園、観光スポット、モスクの周辺に設置されたカメラが人々を撮影し、詳細な情報を記録している。中には、生後9日の子供まで含まれていた。
中国政府は、顔認識技術を利用してイスラム教徒のウイグル人に残虐行為を働いているとして非難されている。中国問題に関する米連邦議会・行政府委員会(CECC)はこれを「少数民族に対する、今日の世界で最大規模の大量拘留」と表現している。
米国の超党派の上院議員17人は3月11日、Mike Pompeo国務長官に宛てた書簡で、「中国は、顔認識技術を利用して個々のウイグル人の特徴を分析し、民族性に基づいて分類したうえで、追跡や虐待、拘留の目的で彼らを選別している。(中略)そして、これらの技術は、テクノロジーによる統治というディストピア的な構想を実現する目的で展開されている。政治的自由のないインターネットの経済的利益を利用し、テクノロジー企業を国家権力の道具とみなしている」と書いている。
中国による強引な顔認識技術の開発と利用を見て分かるのは、無害で有益なテクノロジー(「iPhone」の「Face ID」を考えてみてほしい)をどのように悪用すれば、普通の人が犯罪とは考えないような行為を取り締まることも可能になってしまうかということだ。中国政府当局は監視ツールを利用して、公の場でパジャマを着ている人を「野蛮な行動」として、公然と辱めたこともある。
監視の専門家によると、こうした軽微な風紀違反への処罰は意図的なことだという。顔認識技術を通して公の場で恥をかかせると脅すことにより、中国政府当局は10億人以上の国民に関して、何を着るのかという点から道路の渡り方まで、政府が容認する行動をとるように誘導することができる。
「当局の狙いは、包括的な監視と行動工学の大規模な導入を試みることにある」。人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチで中国問題のシニアリサーチャーを務めるMaya Wang氏は、そう指摘する。「彼らは、自分たちがたやすく管理できる社会を作りたいと考えている」
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