将来的に目指すゴールとして、「食品づくりをデジタル化していきたい」と関屋氏は語った。
「料理の構造化に取り組んでいる方は多いが、われわれはそこに食品メーカーでなければできない食品そのものの分析結果などのデータも入れることで、デジタル企業だけでは作り上げることが難しい“食のOS”ができると思う。今まで何十人もの人が何百パターンも手で作っていたものをシミュレーションできるようになれば効率化できるだけでなく、食材のロスも防げる」(関屋氏)
「エンジンの開発をシミュレーションで行うことで試作車の台数を4分の1にまで削ったマツダのイメージに近い」と大野氏は続けた。
その先にあるのは、「その人が好きな、今ほしい食べ物がどこでも手に入る状態」と関屋氏は語る。
「健康な状態であれば、ある程度いろいろな選択肢の中から選べるが、少し年を取ったり病気をしたりすると、選択肢が狭まってくる。本当はこういう味が好きだけれど、脂を抑えないといけないから食べられない。そんな場合でも、先ほどのシミュレーターができていれば、それを香りや他の何かで補えるようになるだろう。風味がその人の好みにマッチしていれば、材料が違っても好きだと思えるものが食べられるかもしれない。そういう方向を目指したい」(関屋氏)
MS Noseで分析したデータも今後conomeal kitchenアプリに実装していく予定だ。
「香りの成分はものすごく多くの種類があるが、過去の我々食品メーカーはそれらを一生懸命全部調べるというアプローチだった。しかしconomeal kitchenというアプリを使って『こういう人はこういう香りが好き』というのが分かってきたら、より効率的に研究を進めることができると思う」(関屋氏)
conomeal kitchenの開発に当たって苦労した点について関屋氏は「料理をデジタル化することはこれほど難しいのかと思った」と語る。
「料理にはものすごく自由度がある。作り方の表現一つとっても、自然言語処理でグルーピングするなど、各社いろいろな研究をしているものの、なかなか難しいことをリアルに感じている。データ化することでシンプルになってシミュレーションできるみたいな流れが一方でありながら、それに縛られてしまうと切り方も作り方も使うものも画一になってしまい、食が本来持つ楽しみがなくなるので、そこのバランスがすごく難しい。今回は、まずデジタル化への挑戦だったので、なるべくシンプルな形にまとめようと考えて整理した」(関屋氏)
ニチレイは、1940年代から続く食品メーカーだ。どちらかといえば“職人魂”で“舌が命”という企業がデジタルの考え方を持っていくのは簡単ではなかったという。一方で、食品産業にもGAFA(Google、Amazon、Facebook、Apple)のようなIT企業がどんどん参入し始めており、日本の食品メーカーもDXを推進して変わっていく必要がある。そうした中でニチレイが手がけるフードテックの本格始動、食を選ぶ側と食を提供する側、双方の選択をサポートすることにより、食との出会いはどう変わっていくのか。ニチレイの新たな挑戦に注目だ。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス
「程よく明るい」照明がオフィスにもたらす
業務生産性の向上への意外な効果