完全対面からオンラインへ--不動産会社が迎えた営業の転換点

 新型コロナウイルス感染拡大は、ビジネスのスタイルに大きな変化をもたらした。対面での商談、サポートといった業務もその多くがNGとされ、非対面での形を模索する中、ウェブ会議ツールを使って、平常時と同等の活動を継続したのが、VR内覧を中心に不動産販売の接客ツール「ROOV」を展開するスタイルポートだ。

 「徐々に影響が出始めたと感じたのは3月。そして4月の緊急事態宣言を受けて、ROOVを使っていただいている、新築マンション販売のデベロッパーの方々は顧客との接点であるモデルルームを完全にクローズしてしまった」と、スタイルポート 取締役の堀井秀雄氏は振り返る。

スタイルポート 取締役の堀井秀雄氏
スタイルポート 取締役の堀井秀雄氏

 3月の時点では、3密を避けるため、完全予約制にするなど策を講じながらモデルルームを開けていたが、緊急事態宣言後はそうした状況も一変。モデルルームに人を呼び込めない環境が生まれてしまったという。

 新築マンションにおける販売のステップは、アンケート記入からはじまり、コンセプトムービーを視聴したり、パース図や模型、VRを使ってマンションのイメージを訴求していく。さらに実際のモデルルームを見て、購入意欲を高め、現在の家賃との比較、住宅ローンシミュレーションなどが一連の流れ。

 「販売員の方は、こうした工程に慣れており、対面での接客が第一。モデルルームに人を呼べなくなった時点で、どうすればいいのかと逡巡してしまった」と堀井氏は、不動産販売会社の現状を話す。

 そんな時にスポットがあたったのが「Zoom」や「bellFace(ベルフェイス)」などのオンライン会議システムだ。当初はオンラインでの接客に戸惑いを見せる販売担当者もいたというが、非対面、3密というキーワードが広がる中でお客様とコミュニケーションが取れる方法として認知が広がっていったという。

 スタイルポートが提供するROOVには、マンション販売支援システム「ROOV compass(ルーブ コンパス)」やVR内覧システム「ROOV walk(ルーブ ウォーク)」があり、いずれもクラウド型のサービス。従来は、モデルルームでPCやタブレットなどに販売担当者が表示してお客様に見せていただけに、オンライン会議システムにも取り入れやすい。

 堀井氏は「リモートにおける営業の課題は大別すると2つ。1つはPCがなかったり、通信環境が整っていなかったりするお客様のインフラの問題。もう1つはどうやって接客すればいいのかというオンライン接客に対する不安。特にオンラインでの接客については未経験の分野ということもあり、大きな課題だった。しかし、大手不動産会社がオンライン接客へと切換え、成約に結びつくなどの事例が出てくると流れが変わった。オンラインでも接客・商談ができると自信につながった」と話す。

 スタイルポートが新型コロナウイルスの感染による業務への支障が出始めた頃に実施した、不動産販売会社へのアンケートによると、4月の時点で営業の再開時期はゴールデンウイーク前後と予測する人が多かった一方で、先行きについては「見えない」と回答する人が多数という状況。新型コロナウイルスの影響は、秋から冬、さらには2021年年明けまで伸びるのではとの見方も半数以上を占めたという。

オンライン営業のハードルはここ数カ月で下がった

 不動産販売の営業方針を業界関係者が模索する中、スタイルポートではウェブ会議システムを使ったオンライン接客を積極的にサポート。Zoomなどオンライ会議ツールも活用しているが、オンライン商談システムベルフェイスは、不動産販売のオンライン接客において相性が非常に良かったと話す。

スタイルポートではウェブ会議ツールを使って商談や社内会議などを実施している
スタイルポートではウェブ会議ツールを使って商談や社内会議などを実施している

「ITリテラシーが高い人ばかりではないので、URLを共有して画面を開くといった作業ですら、困難に感じてしまうことも。『ベルフェイス』で検索してもらって、表示された番号を電話で伝えるだけで接続でき、わかりやすくストレスなく使ってもらえる。電話で話しながらできることも、安心感につながっている」(堀井氏)とわかりやすさを強調する。

 実際、まず不動産販売会社との商談をスタイルポートがベルフェイスで行い、オンライン上でROOVの画面操作を体験してもらうことで、オンライン商談への抵抗感が薄らいだという。「オンライン上で、映像で見せられることで説得力が増し、お客様の理解が深まった」と堀井氏は自らの体験を話す。

「非対面での営業に対してハードルは低くなってきた。実際、数百件の商談をオンラインで実施した不動産販売会社もあるし、今後は成約数も加速していくと思う。ただ、不動産は人生でも1、2を争う高い買い物。対面での接客は欠かせない。情報のインプットはオンラインで、足らない部分を対面でといった2つの方法を組み合わせるのが今後のやり方になるのではないか」と堀井氏は今後を見据える。

 現状、モデルルームを訪れたり、契約したりと、不動産購入までにマンションギャラリーに来場する回数は平均して5~6回。しかし、内見がVRでできたり、不明点をチャットツールなどでやりとりできたりすれば来場回数は減らせる。「完成形にまでは至っていないが、確実にオンラインでの営業販売のノウハウは積み上がってきている。加えて世間一般的に非対面のキーワードが取り上げられ、オンラインにおけるコミュニケーションのハードルが一気に下がった。今までZoomというシステムはあっても、それで飲み会をしようとは思わなかった。それが大きく普及したことは非常に大きい。受け手側のハードルが下がるとオンライン商談の発信側は非常にやりやすくなる」と堀井氏はこの変化を捉える。

 一方で、モデルルームのあり方にも今後変化がありそうだ。「まだ建築途中の新築マンションにとって、実物に近い形を体感できるのはモデルルームの強み。しかし仕事帰りに寄るには少し遠かったり、休日を使って見に行ったりと行きづらい面もある。一方でモデルルーム側でも平日の昼間は客足が少ないなど、来場客にばらつきがある。こうした動きから、都心で、かつ複数のマンションのモデルルームを一つの場所で見られる、合同サロン型のマンションギャラリーのニーズが高まっている」と堀井氏は現状を説明する。

 そうした変化を受け、スタイルポートではオンラインで接客のサポートができるROOVの展開をさらに強化する。堀井氏は「ROOVはオンラインサービスとしての強みに加え、コンパクトに情報がまとまり、クラウド上で管理できることが特長。モデルルームの変化にも十分に対応できる。オンライン接客とROOVは相性がいいので、対面、非対面の両面で使えるツールだということを積極的にアピールしていきたい」と今後を描く。

 オンラインによる不動産販売営業は始まったばかりだが、数カ月という短期間で実績が出ていることは事実。堀井氏は「画面共有ができるのはもちろん、共有した画面にお客様の要望を書き込めたり、営業的なポイントをプッシュできたりするとより使いやすくなる。新型コロナウイルス感染拡大により、非対面での接客を余儀なくされた不動産会社は非常に多かった。しかし、非対面での接客は今後すべてにはならないが効率化に結び付けられる。接客のスタイルは変わっていくだろう」とし、不動産販売営業が新たな局面に入ったと話した。

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