8月28日に開催された朝日インタラクティブ主催の「CNET Japan Conference 不動産テックカンファレンス2019」。同日には、新築マンションの内装を3D CG化して自由に内見できるサービス「ROOV」を提供するスタイルポート代表取締役の間所暁彦氏が講演し、ROOVの特徴とユーザーにとってのメリット、そして今後の展望を語った。
間所氏は冒頭、日本と欧米の不動産事情を比較しながら解説した。国土交通省などの調査によれば、日本の世帯数は5184万で、英国の2倍以上あるものの、1億世帯を超えている米国と比べるとおよそ半分。ただし、持ち家への年間住み替え戸数の比率は米国の約3分の1で、日本はまだまだ持ち家を住み替える人が少ないことが伺えるという。
一方で、すでに2014年には日本において中古住宅流通量が新築住宅着工戸数を超えている。近年は郊外から都心部への住み替えが増えてきていることもあり、今後は日本も欧米のように住み替え先の中心ターゲットが新築住宅ではなく流通量の多い中古不動産物件へ移り変わるのではないかと同氏は見ている。
そのなかで不動産テック分野の市場規模を見ると、米国は主要4社で2兆円、対して日本は0.58兆円と4分の1の市場でありながら、それを15社で分け合う形になっている。とはいえ、都心部への移住や中古不動産物件への移行トレンド、さらには不動産業界が産業別に見てテクノロジーの活用が最も進んでおらず、労働生産性がほとんど最下位に近いことを踏まえると、日本においては「不動産テック企業が成長する土壌は十分にある」と同氏。むしろテクノロジーを活用しないと、市場が拡大してもサービスの低下が免れないとも指摘する。
ただ、不動産の特性として「非移動性・個別性・非代替性」というものがあり、それと対照的な「多人数・広帯域」の特性をもつインターネットというテクノロジーとは、そもそもなじみにくいところがあると同氏。これについては、「オンライン to オフラインの、人手がかかる仕事をどんどん効率化していく方向性が大事」だとし、「いつでも、どこでも、誰でも、簡単に入居検討や購買検討ができる、どこでもドアみたいなサービス」によって不動産取引を拡大していけるのではと述べる。
そうした考えで生まれたのが、同社が展開するROOVというサービス。これは、竣工前から売り出されて完売してしまい、事前に内見して検討することが難しい新築マンションにおいて、高精度な3D CGでその室内を再現するもの。仮想空間として再現されたその室内は、内装の見栄えだけでなく外の景観も再現でき、中を自由に動き回ったり、壁や床の色・素材を変えたり、家具を仮想的に配置したりできる。室内各部の寸法を計測して、家具を入居時に運び入れるときの参考にすることも可能だ。
PCやスマートフォンの多くのウェブブラウザで、特別なプラグインやアプリなどを必要とせずに直接閲覧できるのも特徴。独自開発したエンジンによって、海外の同種のサービスと比較して3~6倍高速にローディングできるとしている。
こうした3D CGのコンテンツ制作は通常は膨大な手間と時間がかかるものだが、フローの再設計と一部作業の自動化などにより、一般的な制作フローでは最大で1件あたり150時間かかるところ、20~25時間で完了できるようになっているとのこと。この効率化によって、コンテンツ制作中に物件が売れてしまったり、コスト面で折り合わないといった問題点が解消できたという。
ROOVでは、仮想空間で詳細なところまで内装を確認でき、商談時だけでなく帰宅後も自分のスマートフォンなどで閲覧・検討できるという顧客側の利便性向上がポイント。そして、不動産事業者や物件オーナーにとってのメリットももちろんある。1つはウェブページ上に簡単にコンテンツを貼り付けて集客に活用したり、顧客とのコミュニケーションに気軽に活用できること。もう1つは、顧客の行動分析ができることだ。
行動分析機能では、物件ごとに顧客がいつ、どれくらいの時間閲覧しているか、どんな機能を使っているかを把握でき、データをうまく活用することで、顧客のニーズや購入意欲を理解することで、成約率をアップする効果的な販促活動につなげられるとしている。
ROOVは2019年2月に本格スタートしたばかりだが、メジャーセブンと呼ばれる大手マンションデベロッパー7社中5社をはじめとする不動産事業者34社および、SUUMOなどの国内大手不動産ポータルがすでに導入済み。現在は68件の新築分譲マンションプロジェクトで活用され、2020年9月には累計300件を目指すとしている。そして今後は単純なビューワーに止まらず、「ROOV2.0」としてさまざまな機能を追加していく計画だ。
たとえば、不動産事業者との細かなやりとりがROOV上で可能になる「チェックバックツール」や、仮想空間に配置するインテリアを実際に購入できる仕組みの実装、空間に配置している住宅設備の電子化した取扱説明書を容易に参照できる機能の追加、既存マーケティングオートメーションツールとの連携、さらにはリフォーム検討時に役立つ機能など、ROOVをプラットフォームとした新たな展開を広げていく方針を明らかにした。
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