新卒のときは震災の直後だったので、東北の復興にも関わりたいと思って、自分から東北に行かせてくだいと言って、仙台に配属させていただきました。休日にはボランティアに行って、津波で流された写真の修復をする作業や海岸の清掃活動などをしていたのですが、なかなかそういう活動だけではコミュニティまでは踏み込めないというか、ボランティアとして少し手伝わせていただくだけになってしまうので、いまいち自分がやっていることが本当に役に立っているのかが実感できなかったんですね。
また仕事でも震災復興の取り組みをしたいと思ったので、お菓子を使った子ども向けのワークショップを開催しました。当時は、震災の影響で精神的なストレスを抱えている子どもや、放射線の影響で外で遊ぶ時間が限られている子どももいたので、何とか自分たちの商品を使って家の中でも子どもたちに楽しんでもらえないかと思い、その企画を考えたんですね。
自社や大学生のボランティア、地域の子どもたちが、3者一体となって取り組めるいいイベントになったと自分の中では思っていたのですが、いざ開催してみると、なかには早く帰りたいと泣き出す子どももいて、それがすごくショックでした。その理由は今ではわかりませんが、そのときに社会貢献は「これをやったら喜んでもらえるだろう」という推測でやるものではないということを、強く感じました。
本当だったら、参加する子どもたちに事前にヒアリングをして、今どんな暮らしをしているのか、どんな思いを持っているのかをしっかり聞くべきだったと思います。そのときは単純な推測をしてやってしまったので、ちょっと押し付けがましくなってしまったというか、ありがた迷惑だったのかなと思いました。
将来はその会社の社会貢献事業部みたいなところでCSR活動を広げていきたいと思っていたのですが、そのワークショップを経験したことで、仮に運良くCSRの部署に行けたとしても、また同じような誤ちを繰り返すのではないかと思い、もっと社会問題の現場を深く知りたいと思いました。そこで3年勤めたお菓子メーカーを辞めて、協力隊に応募したんです。
——そのような経緯があり、青年海外協力隊に参加され、いまはルワンダにいるのですね。実際に現地に住んでみてわかった魅力や課題、ビジネスをする上で気をつけるべきことなどはありますか。
もともと自分だからこそできる仕事をやりたいと思っていました。今はルワンダで日本人に対してビジネスをしていますが、ルワンダの情報を日本語で発信している人ってかなり少ないんですよね。なので、その分野でいえば僕は世界で一番になれていると思います。
それによって、こうして取材していただくこともありますし、仕事を頼んでいただくこともあります。それはルワンダで最も情報発信をしているというポジションを取れているからなんですね。なので逆にいうと僕の実力ではないというか、たまたまこの国に来てこのポジションにいるからこそ、今の仕事ができているのかなと思いますし、それがやりがいでもありますね。
逆に大変なところでいうと、ルワンダの現地の人と働くことですね。ルワンダにもたくさん日本人の起業家の先輩方がいらっしゃるので話を聞いてみると、とにかく社員教育であったり、パートナーとの付き合い方がすごく大変だという話を散々聞いてきました。
お金や物を盗られたり、急に来なくなったり、辞めさせた人から裁判を起こされたりとか、そういうことを聞いていたので、無理して社員を雇う必要はないかなと思っていたのですが、つい最近僕も被害に遭ってしまいました。やっぱりルワンダ人と何かをするというのは、すごく難しいことなんだなと思いますね。
——どういう被害に遭ったのですか?
スタディツアーの一環でホームステイプログラムをやっているのですが、簡単に言ってしまえばそのホストファミリーがお客さんのお金を盗ってしまったんですね。ゲストの方がちょっと目を離した隙に、ベッドルームに置いていたカバンからお金を抜き取って、しかもそれをゲストが目撃してしまったんです。
僕にも責任があるので悲しんでばかりはいられないのですが、協力隊時代から3年くらい付き合いのある、僕は友だちだと思っていたホストブラザーだったので、本当にショックでした。ただ、それでも本人は「僕はやっていない」と言っていました。そもそもの考え方とか価値観が違うので、おそらく彼は目の前にあるお金を取ることをそんなに悪いことではないと思っているのだと思います。
全員ではないのですが、多くのルワンダの方に共通している価値観というのが「シェアの文化」というものです。持っている人が持っていない人に分け与えることが当たり前と思っている人が多いんじゃないかなと個人的には考えています。なので、日本人でお金をたくさん持っているから数千円くらい取っても問題ないだろうと。
ただ、彼は僕のことを今でも本当に友だちだと思ってくれていると思うし、今までも僕以外にもたくさんのお客さんを招き入れているホストファミリーなので、そこに対しての温かさとか親切にしてくれることは本当に事実なんです。
だから、たった1度の誤ちで、その人の人柄を100%判断できるわけではないですし、善悪の考え方がすごく難しいところですね。なので、信じるとか信じないではなく、そもそもそういうことが起こらないようにシステムで管理するということが本当に大事だなと思いました。
——実際に現地で暮らし、ビジネスをすることで、日本とルワンダの物事の考え方や価値観の違いを痛感されたのですね。
そうですね。とはいえ、やっぱり楽しいのもルワンダの人と一緒に何かをやれることなんですよね。これもホームステイプログラムでの話なのですが、ツアーの参加者たちも、自分たちのような見知らぬ日本人がいきなり家に来て迷惑じゃないのかなと思うんですね。
そういう質問をホストマザーにしてみたところ、「全然迷惑ではないし、むしろルワンダではお客様は神様の恵みだから」と言ってくれたんですね。なので断ることは絶対にしないし、こうやって会話すること自体が私たちにとってすごく幸せなことだから、いつでもウェルカムだと言ってくれました。
僕はやりたくてこのビジネスをやっているんですが、彼らはもともと友だちとしての付き合いだったので、半分ビジネスに巻き込んでしまって本当は迷惑に思っているんじゃないかなと不安だったんです。なので、その答えを聞いて参加者よりも僕の方が泣いてしまうくらい嬉しくて、やっぱり現地の人と一緒にサービスを作り上げる、それによって良い体験をお客さんにしてもらうというのは、本当にやりがいがありますね。
——ツアー業と情報発信、それぞれについても詳しく聞かせてください。
まずツアー業では、スタディツアーの参加者は8割くらいが大学生ですね。その中でも特に国際協力とかアフリカに興味がある人。もしくは、東南アジアには行ったことがあるけれど、アフリカには行ったことがないから行ってみたいという学生さんがすごく多いです。
そういう人にとっては、アフリカの中でも治安が良くて英語が通じる場所というところ。あとは虐殺の歴史などいろいろなトピックがあるところが、ルワンダを選ぶ理由になっていますし、こちらからもお勧めしやすいですね。
スタディツアーは、1回あたり5名前後の参加者で、ほぼ毎月開催していました。ただ、1年やってみてちょっとしんどいというか、学生さんの機会を減らしたくないと思ってやり続けていたのですが、僕自身がかなり消耗してしまうので、今は春休みとか夏休みとか学生さんが来やすい時期に集中してやる方針にしています。
——「ルワンダノオト」などメディアでの情報発信で気をつけていることはありますか。
自分が楽しいと思えることを書くことでしょうか。最初ブログを始めたときは、とにかくアクセス数を伸ばすために、自分じゃなくても書けるトレンド情報について書いていました。ただ、それを続けていたら、Twitterで知り合った他のブロガーの方から「竹田くん、それはもったいないよ」と言われたんです。せっかくルワンダに住んでいるんだから、竹田くんだからこそ書ける記事を書いたほうがいいよと。
特にルワンダのことなんて誰も知らないし、これからもどんどん変わっていく国だから、それは文字として残しておくことが記録にもなるし、貴重な資料になる可能性もあるから、ルワンダについてもっと書いたほうがいいとアドバイスをもらい、そこから個人の雑記ブログとルワンダに関するブログの2つに分けました。ただ、ルワンダの記事って本当に読まれないんですよ(笑)。でも、少人数でもそれを必要としてくれている人たちがいることに気づいてからは、すごく楽しんで書けるようになりましたね。
今では、むしろ僕が書いていないことがあると申し訳ないというか。ルワンダについて調べた人をがっかりさせたくないので、すべての情報を網羅できるように幅広く書くようにしていますね。ルワンダ在住の他の日本人の方にも、「毎回同じ質問をされるのも大変なので、竹田くんの記事を読んでと言えるのは助かる」と言っていただいていますね。
それと、こだわっていることとしては、最初はブログサービスを使っていたのですが、いまは自分でワードプレスを使ってサイトを作って運営しています。また、ルワンダで隊員をやっているときに、オンラインスクールでHTMLとCSSとウェブデザインを学んだんですね。その講座の中でコンテストがあったのですが、そこで最優秀賞をもらった時に作ったのがスタディツアーのサイトのプロトタイプでした。自分でブログをやる上でデザインも綺麗に見せたいと思っていたので、そこで学んだことも少しは役立っているのかなと思いますね。
——実際に日本人向けに現地ツアーや情報発信をされていて、反響はいかがでしょうか。
ありがたいことに、十分に暮らしていけるほどの収入はあります。ツアー業の成果でいうと、たとえばスタディツアーは単なる旅行業ではなく、自分らしい生き方を見つけてもらう人材育成だと思っているのですが、参加者の中から、協力隊の試験に合格して派遣される人がいたり、就職活動でルワンダでの体験を話して希望していた会社に入れたという人もいます。自分の中ではそれがすごく大きな価値になっています。
また情報発信でいうと、本当によくルワンダにいる日本人の方に声をかけていただけるようになりました。僕は知らなくても、すれ違った時に「竹田さんですか、いつも見てます」って言っていただいたり、有名人が言われるようなセリフを言われるようになりましたね(笑)。それはとてもありがたいですし、やりがいになっています。
——今後の人生については、どのようなビジョンを描いていますか。
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