ANAホールディングス(以下、ANA)が、ドローン配送のサービス化に向け、動きを加速している。ドローンベンチャーのエアロネクストと物流ドローンを共同開発することを発表し、これを機に国内ドローンメーカーと連携して機体を量産。さらに、輸送インフラの一部として社会実装を進め、2022年度には離島山間部におけるドローン配送サービス開始を目指すという。
ANAは、2016年にデジタル・デザイン・ラボを立ち上げ、ドローン・エアモビリティといった低高度の移動、宇宙への移動、瞬間移動手段となる「アバター」など、新たな事業ドメインの開拓に取り組んできた。将来エアライン事業の脅威となるディスラプティブイノベーションを、自ら生み出すことを標榜した。
ドローン物流の取り組みは2018年より開始。2019年7月〜8月にLINE Fukuokaと組み、福岡県玄界島においてLINEで注文・決済した海産物をドローンで輸送する実証をした。さらに、2019年9〜10月と2020年1月には、長崎県五島市で離島間の生活物資輸送の実証をした。そうした実績や社内外メンバーのチームワークなどが評価され、2019年10月には東京都からの要請で、台風19号被災地域へ救援物資を配送した。これは日本初の快挙だった。
そのような中、ANAはエアロネクストと機体の共同開発に乗り出す。すでにエアロネクストは、ANAからの要求仕様に沿って試作機開発に着手。今後はこれをベースに、複数の国内メーカーとパートナーシップを結んで、ANA向け物流ドローンの量産化を目指す。現在、その座組をメーカー各社と模索中で、ANAが手がけるドローン配送サービスを担う機体へと成長させたい構えだ。
共同開発の背景や狙いとドローン物流への意気込みについて、ANAホールディングス デジタル・デザイン・ラボ ドローン事業化プロジェクトリーダーの保理江裕己氏と、エアロネクスト代表取締役 CEOの田路圭輔氏に話を聞いた。
——まず、今回の提携の狙いを聞かせてください。
保理江氏:ドローンは機体を前方に傾けて前進するため、荷物も一緒に傾いてしまいます。五島市での実証では、お寿司の注文を受けて個人宅へドローン配送する、いわゆるフードデリバリーにもチャレンジしたのですが、ネタが崩れるなどの課題がありました。将来、実際にドローン配送サービスをするとき、配送品質は必ず問われる問題です。エアロネクストさんの(重心制御技術である)「4D GRAVITY」なら荷物が傾かない、まさに我々が求めている技術でした。
田路氏:ドローンは、そもそも空撮用として出発した経緯があります。測量や点検などのセンシング用途では、従来型の汎用機でもある程度対応できますが、物流はそうはいきません。輸送物により重量が異なり、行き帰りで重量や風向きが変わるなど、業務特性に即した専用機体を作るべきです。我々が独自開発した機体構造設計技術である4D GRAVITYは、物流専用機に最も有効な技術だと考えています。
——4D GRAVITYとは、どのような技術なのでしょうか?
田路氏:4D GRAVITYは、産業用ドローンの機体構造を設計するうえで核となる技術で、特許も取得しています。機体フレームと搭載物を分離して2軸のジンバルで結合して、ドローンが離陸して飛行し着陸するまで、常に機体の重心を最適化します。これにより、飛行中にドローンの機体が傾いても荷物を水平に保てるほか、モーターへの負荷を均一化できるため、飛行性能や効率、安全性も改善されるのです。
保理江氏:エアロネクストさんはメーカーではなく、技術をメーカー各社さんに提供する、PCでいうところのCPUを提供するインテルのような中性的なポジションです。ANAも総合オペレーターであり、自社では機体の設計、開発、製造はできません。今後もいろいろなメーカーさんと協働させていただき、最適な物流ドローンの機体構造に到達したいという欲張りなニーズを、一緒に叶えていきたいと考えています。
——新型コロナウイルスの影響下で、あえてドローン事業に取り組む意義について聞かせてください。
保理江氏:大前提として、エアライン事業以外の新たな事業ドメインを作るために立ち上げてきた流れを、崩さないようにしたいです。確かに、新型コロナウイルスの影響はリーマンショックを超えるほどの大打撃ですが、逆に“人が移動する”のではなく“物を移動させる”世界のボリュームは増えてきており、ドローン物流のチャンスも増えたと捉えています。
田路氏:海外でも、新型コロナウイルス感染拡大防止のために、非接触で物資を配送できるドローンを導入する流れは加速しています。そして、欧米や中国でも、従来型の汎用機による配送ではなく物流専用機を開発するのがトレンドで、荷物をできるだけ機体の重心に近づけた機体構造に変わりつつあります。これは、物流専用機に4D GRAVITYを搭載するのと同じ文脈。我々にとってはチャンスだと捉えています。
——海外と比べて、日本では法整備の問題などもあり、ドローン配送サービスにおいては遅れをとっている印象もありますが、この点をお二人はどのように見ていらっしゃいますか?
保理江氏:東アフリカのルワンダで血液や医薬品を空輸する「Zipline(ジップライン)」を除いて、まだどの企業もサービスも、難題を解きにかかっている段階ではないでしょうか。そういう意味では、田路さんがおっしゃるように、我々にもチャンスはあると見ています。
田路氏:そうですね。いままさに、ドローン配送というモデルが社会生活で動き始めたところです。単体の収支は厳しいものの、普及してきたら収支もあってくる段階にはきたと思います。ただ、物流ドローンの機体はこうあるべきという“スタンダード”はまだ示されていないので、ANAさんや国内の機体メーカーさんたちと一緒に作っていきたいです。
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