フツ族とツチ族の対立をきっかけに、わずか100日間で人口の1割近い80万人もの人々が虐殺された東アフリカの内陸国「ルワンダ」。同国において、2019年にプログラミングスクールを開校した日本人がいる。プロのエンジニアを育成するプログラミングスクール「DIVE INTO CODE」を運営する野呂浩良氏だ。
現地で第1期生を募集したところ、予想を超える100名以上の応募が集まり、その中からオンライン面接に合格した21名が受講。2019年7月に開校し、2019年12月31日には21名のうち19名が卒業した。
なぜ、日本から遠く離れたルワンダでプログラミングスクールを開校したのか。1994年の内戦から26年が経った今、“アフリカの奇跡”と呼ばれるまでの経済成長を遂げ、IT立国を目指しているルワンダの実態や今後の展開も含めて、野呂氏に話を聞いた。
野呂氏が2015年10月にコースを開講したDIVE INTO CODEは、エンジニアを目指す人のためのプログラミングスクールだ。「Webエンジニアコース」と「機械学習エンジニアコース」の2つが中心で、毎日8〜12時間通学して学習するフルタイム、そして毎日平均2時間30分ほど学習するパートタイムから選択できる。パートタイムに関してはオンライン学習も可能で、オンライン学習サービスとビデオ通話を利用して指導を受けることができる。
さらに、卒業生の就職もサポートしており、生徒は模擬面接、職務経歴書・履歴書のレビューが受けられる。企業と卒業生が直接声を掛け合うことができるダイレクトリクルーティング用Webアプリケーション「DIVE INTO WORK」も提供している。現在、東京校では述べ4000人以上がセミナーに参加、コースを受講している人数は約1000人で、卒業生は約500人だ。
——まず、2015年にプログラミングスクールを立ち上げた経緯を聞かせてください。
小学校低学年のころに、シュバイツァー、ファーブル昆虫記、野口英世などの伝記を読んで、環境が全く違う世界でも人のために貢献をしていく姿に感銘を受けた体験がありました。その後、転職を重ねていくうちに、新しいものにチャレンジしてゼロから何かを生み出すことは素晴らしいことだと実感して、起業を考え始め、34歳のときにDIVE INTO CODEを設立しました。
もともと起業のアイデアは3つありました。どれもマネタイズはできそうでしたが、起業は自分の資金を使いながらビジネスを立ち上げるので、心がついてこないとやりきることは難しく、最終的にはこの中からは選びませんでした。
たとえば、アイデアのうちの1つだった「時間を何に使っているかを可視化するタスク管理ツール」は、私が常にすべての行動の時間を計って、無駄を減らそうとしていることから思いついたサービスでした。これをセミナーで話したところ参加者に感銘を受けていただいたのですが、実際にそこまでやってくれる人は1%だけでした。この経験から手法は論理にかなって本質的でも、他の人が再現できないものはやめようと決意しました。
手法にとらわれずに考えたとき、自分の独自性を生かして情熱を持って取り組めることは、「人が人生の価値を上げられたと思う体験」を提供することだと気づきました。そこで前職でプログラミングの厳しい研修を受け、システムのメンテナンスやコンサルタントをしていた経験を踏まえ、プログラミングスクールを立ち上げることに決めました。当時は日本にはプログラミングスクールは少なかったのですが、一方で学びたい人がたくさんいたことも、プログラミングを選んだ理由の1つです。
スクールはちょうど創業から5周年を迎えたところです。最初の1、2年は経営が厳しく、無休(無給)で働いていたこともありましたが、現在は黒字です。スクールの受講料金に関しては何度か改定しているのですが、本気でコミットするとどうしてもコストが掛かります。同業他社もいるなかで胸を張ってできる内容を考え、現在は約60万、もしくは約100万円のコースとしています。
——そこから、なぜアフリカのルワンダにプログラミングスクールを開校することになったのでしょうか。
私たちの最終目標は、「すべての人が、テクノロジーを武器にして活躍できる社会をつくる」ことです。すべての人というのは、国境も年齢も関係なく、働くことができる年齢の人たちを指します。誰でもチャレンジしていけば道が開けるようにしたいので、難しい環境下で実現できれば、世界中どこでも再現できるということにつながります。そこで、まずアフリカを選びました。
では、なぜルワンダかといえば、2つの理由があります。まずはご縁があったこと。知り合った人がアフリカに事業を展開する会社に勤めていて、ルワンダでIT教育をしているNPO法人を紹介してくれたのです。これをチャンスだと考え、ルワンダに同行させていただきました。当時は英語の教材もなかったので、まさに体当たりです。もう1つの理由は、ルワンダが「IT立国」として国をあげてITを推進していることでした。
——実際にルワンダに行ってみて、最初の印象はいかがでしたか。
初めて現地に行ったときの印象は、街が綺麗で、安全で、進んでいると感じました。また、ポテンシャルが高く、今後は伸びていくしかない、チャンスしかないと思いました。ルワンダの人たちは真面目で学ぶ姿勢があり、自分たちができることであれば喜んでサポートをしたいと感じました。
ですが、現地でビジネスを展開している今は、ルワンダは特殊な国だと思っています。IT立国を掲げている背景には政府の強烈なリーダーシップがあり、そのリーダーシップに対していろんな人がさまざまな思いを持っています。仕事も政府主導で企業が運営されていて、数が少ない。仕事がないのです。そして、閉塞感のようなものが蔓延しています。
一般の人には外の世界とつながるほどのネットワークがないので、私たちのような海外の企業に頼る必要が出てきます。国の母体自体が強くなっていかないと、一人ひとりに教育を提供しても仕事に結びつかないのです。今はその点に壁を感じています。
※ルワンダは、人口1200万人ほどの内陸国で、国土は四国の1.5倍ほど。国民の7割が農業従事者だが所得が低く、貧困層も多い。資源が少ないため、ITを基幹産業とすべく積極的に投資をしている。
——ルワンダ校を開校するまでの流れを教えてください。
2017年8月に最初にルワンダに行き、インキュベーション施設「K-Lab」でセミナーを開いたところ、20名近いルワンダ人にご参加いただきました。そのとき、日本人にプログラミングを教えてほしいと思うか、ITエンジニアとして就職できる道を作りたいかなどを聞いたところ、全員が興味を持ってくれました。
そこで、私たちの教科書を英語に翻訳するから、オンラインで学ばないかと提案しました。その後、オンラインで学習環境を提供し、日本人がGoogle翻訳を使ってサポートしたところ、1年後にはセミナー参加者のうちの3人が卒業しました。このとき、間違いなく現地でプログラミングスクールを運営できると確信しました。
そこで開校を決意したのですが、JICA(国際協力機構)の案件化調査になかなか通らなかったので、自分たちでクラウドファンディングに挑戦したところ、2019年4月に約540万円の資金を調達できたので、それを原資にしました。
学校の場所については、ルワンダのICT商工会議所の方に施設を貸りられることになりました。また、ICT商工会議所の方が、現地でIT教育やIT人材を紹介する仕事をしている起業家を紹介してくれて、コンピュータサイエンスを学んだ受講生に声を掛けてくれました。それで場所を確保でき、同時に集客もできました。
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