ANAとエアロネクストが「物流ドローン」を共同開発する狙い--両社のキーマンに聞く - (page 2)

「仕方ないよね」と言われる悔しさ

——これまでの離島におけるドローン物流実証実験からは、どのような課題が浮かび上がってきたのでしょうか。

保理江氏:先ほどお話しした配送品質の課題のほかには、稼働率の問題があります。五島列島の例をお話しすると、現地のスマホ普及率が約2割だったのでオンラインでの注文や決済はお願いしないで、僕が全て注文を電話で受けていたんですよ。ある日、注文後に天候が悪化しドローンを飛ばせないということが起きて、「すみません、飛びません」って電話をかけると、実証だからということで暖かく受け入れてくださったのです。

保理江氏は、離着陸や飛行エリアの土地所有者の方々とも密に連携を図ってきたという
保理江氏は、離着陸や飛行エリアの土地所有者の方々とも密に連携を図ってきたという

 だけど、航空機に搭乗いただくことに置き換えると、「風が吹いているので飛べません」なんて頻繁に言っていたら、絶対にお乗りいただけなくなりますよね。支持されるレベルのインフラになるためには改善の余地が大いにあります。それに、実証に協力してくださっている現地の住民の方に「風が強いなら仕方ないよ」って言わせてしまうのは、悔しいし、悲しいですし、いい意味で期待されたいですね。

——稼働率のほかにも様々な課題が明らかになったかと思いますが、具体的にはどのような要望をエアロネクストさんに提示したのでしょうか。

保理江氏:速度や着陸精度などの基本的な性能、長時間・長期間をメンテナンスしながら飛行させるための整備のしやすさや、運用中のヒューマンエラーを完全になくすための設計など、「万が一ここが故障した場合のこの配線はどうしますか」といった、細かいところまでお伝えしました。将来的に、我々がサービスを実装するフィールドにおいて、現地のオペレーションを想像しながら、要望をまとめしました。

田路氏:今回、要望を精緻にインプットしていただいて、保理江氏さんのチームでは、物流ドローンに必要な要件を、オペレーションレベルから含めて全て持ってらっしゃると確信しました。

——今後の共同開発は、どのような座組で進めていくのでしょうか。

保理江氏:我々のリクアイアメント(要望)を満たす試作機をエアロネクストさんに作っていただいた後は、何社かの機体メーカーさんに量産試作機を作っていただき、実証実験の中で出てきたバグを修正するところにも積極的に関わらせていただいて、技術を成熟させていきたいです。

田路氏:ANAさんとの提携を発表してから、ドローンメーカーをはじめ数十社もの国内企業からお問合せいただきました。市場がなければメーカーは量産できませんが、一方で物流はオペレーションやメンテナンスなどの総合サービスで、機体だけでは産業が成り立たちません。今回、ANAさんが市場を切り開いていくというメッセージを発信された意義は大きくて、日本のドローン物流におけるターニングポイントになると思います。

田路氏は、「ANAのロゴがついたドローンなら人々は安心できる」と話す
田路氏は「ANAのロゴがついたドローンなら人々は安心できる」と話す

保理江氏:産業作りに貢献して、産業ができる時に我々としても事業化を目指したいという想いでやっております。

既存の輸送インフラに“寄り添う”形で

——今後のロードマップについても聞かせてください。

保理江氏:2020年度内には、エアロネクストさんといずれかのメーカーさんに作っていただいた量産試作機の実証実験を、離島山間部で行う予定です。そこから1〜2年かけて、我々も運航のプロとして機体開発への要望を共有させていただきながら技術を成熟させ、2022年度内には離島山間部でのドローン配送サービスを目指したいと考えています。

——日本では、有人地帯で操縦者の目視外で飛行できる「レベル4」を認める法改正が、2022年に予定されています。それまでに、主にANAがこれまで実証実験を行ってきた離島エリアの船輸送の代替手段として、ドローン物流を社会実装していくわけですね。

保理江氏:そうですね。船を補完するような手段としてまずは実装していきたいです。現状の法律で許される範囲と、地域社会の課題がフィットしているのが離島山間部です。離島では、人口や税収が減少し高齢化が進んで、インフラ整備の予算が減少し、いずれ船の便数も減らさざるを得ない未来が近づいています。

 実証を通じて、地域住民の方々の顔が見えて、困っていることを共有いただけるようになったので、地域の課題をドローンで解決していくことで、自治体や地域の事業者さん、ひいては日本の社会に貢献できればと思います。

田路氏:日本の地方公共団体のうち約5割は人口3万人未満ですが、離島のほかにこうした人口減少地域も、同じ課題を抱えています。飛行エリアにより機体に求められるスペックは異なるので、最適な機体をANAさんと一緒に作っていければと思います。

保理江氏と田路氏が和やかに談笑する場面も
保理江氏と田路氏が和やかに談笑する場面も

——最後に、ドローン物流への意気込みを聞かせてください。

保理江氏: 既存の人や貨物の輸送インフラを分断してドローンが割り込むようなことではなく、寄り添うような形で、ドローンを使った新たな地域の社会インフラを構築していきたいです。飛行機は非日常でのご利用が多いですが、ドローンは日常生活に寄り添うツールです。ANAが、より皆さんのもとへと近づいていく、そういう役割を担っていきたいです。

田路氏:ANAさんは航空機のプロであり、かつドローン物流の現場での経験や知見が豊富ですから、いろいろとご教授いただきながら、まずは安心安全な物流ドローンのスタンダードを、メーカーさんとも協力して作り上げていきたいです。将来的には、“輸送手段をドローンに変えたがゆえに付加価値を提供できる”という視点でも取り組んでいきたいですね。ANAさんと我々との協業に、異業種からの参入があると面白いなとも思っています。

保理江氏:それは面白いですね。実はドローンとアバターとの連携は、あり得る未来だと思っています。アバターにアバターインして買い物した品物を、ドローンが届ける、なんて未来もあるかもしれませんね。田舎に住まれている方もネットさえあれば、いろんな面で利便性が高まる、そんな世界を作っていければと思います。

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