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KDDI流の「アジャイル開発」で新規ビジネスを創出--3名のキーマンが語る組織作りの本質

藤井涼 (編集部) 日沼諭史2020年04月28日 08時00分
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 新規事業開発で困りごとをもつ企業を支援するため、KDDIはビジネス開発拠点「KDDI DIGITAL GATE」を2018年9月に開設した。企業の新規事業担当者とKDDIのエンジニアが1つのチームを結成し、プロジェクトを遂行する独自の体制が特徴で、そこではアジャイル開発の手法の1つである「スクラム」をとり入れている。

 一定のルールのもと、小規模チームで設計、実装、テストという一連のプロセスを短期間で繰り返していくスクラムは、企業の新規事業開発に特に有効な手法とされ、海外では標準的に用いられている。その有効性に早くから目をつけたKDDIは、2013年からアジャイル企画開発に取り組み、2016年にはアジャイル開発センターを設立。さらにスクラムを考案したジェフ・サザーランド氏が立ち上げた米Scrum Inc. 、そして永和システムマネジメントの2社と共同で、2019年4月に合弁会社Scrum Inc. Japanを設立した。

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左から、KDDI DIGITAL GATEセンター長の山根氏、Scrum Inc. Japan 代表取締役の荒本氏、KDDI アジャイル開発センター長の木暮氏

 Scrum Inc. Japanとそれを設立したKDDIが目指すものは何なのか、そしてスクラムによって日本企業や新規事業開発の現場はどう変わっていくのか。かつてKDDIでアジャイル企画開発に一緒に取り組んでいたことがある3人、KDDI DIGITAL GATEセンター長の山根隆行氏とアジャイル開発センター長の木暮圭一氏、そしてScrum Inc. Japan 代表取締役の荒本実氏に話を聞いた。

アジャイルがうまく回り始めるまで「2年はかかる」

――まずは、お三方がKDDI DIGITAL GATE、Scrum Inc. Japan、KDDIアジャイル開発センターで取り組まれていることを教えてください。

山根氏:2018年9月にオープンしたKDDI DIGITAL GATEでは、KDDIの法人のお客様と一緒のチームを作り、ユーザー体験への価値創出を主眼においたワークショップや、アジャイル開発でプロトタイプを開発・検証しながら、新しいビジネスの創出や業務効率化のサービス開発などを行っています。アジャイル開発に取り組むだけでなく、5G通信を利用できる環境をもち、また、ベンチャー企業のインキュベーションプログラムであるKDDI ∞ Laboとも連携しております。

荒本氏:Scrum Inc. Japanは、スクラムの手法やアジャイルのマインドを日本に広く伝えていく活動をしています。今、日本においても、組織をアジャイル型に変革していこうという動きが様々な産業の中で起こっていますので、そういう企業のお客様がアジャイルな組織に変革していくためのお手伝いをしています。

木暮氏:私が所属しているのはKDDIのアジャイル開発センターという部署ですが、KDDIのアジャイル開発は2013年7月から開始しています。現在の取り組みは主にKDDIが提供するサービスを作ることで、そのなかでスクラムの仕組みを取り入れて、ここで培ったノウハウやスキルを、KDDI DIGITAL GATEとScrum Inc. Japanに反映させながら、KDDI流のアジャイル開発を広めています。

山根氏:アジャイル開発センターの手法が、KDDIのアジャイル企画開発のベースです。KDDI DIGITAL GATEはお客様と一緒にプロジェクトを進めていきますので、それに少しアレンジを加えた形で採用しています。

――KDDIグループ内におけるそれぞれの位置付けや連携などについても教えていただけますか。

荒本氏:KDDI DIGITAL GATEは、お客様の柔らかなアイデアを具現化してビジネスのきっかけを一緒に作っていくところです。しかし、お客様がそのきっかけを自社に持ち帰って自社製品やシステムに取り込んでいこうとした時には、お客様自身でアジャイルな組織や仕事の仕方に変えていかないといけません。

 そういうときに我々がお客様のサポートをしたり、コーチングやトレーニングをしたりします。私もかつてKDDIでアジャイル企画開発を実践してきた1人ですが、KDDIは日本の大企業の中ではアジャイル企画開発の先がけであると思っています。アジャイル開発センターで培ったノウハウや知見などもお客様にお伝えできますし、そうした体験や経験をもとにしたノウハウがお客様に納得いただけると考えています。

Scrum Inc. Japan株式会社 CEO 荒本実氏
Scrum Inc. Japan 代表取締役 荒本実氏

木暮氏:アジャイルについてピンと来ていなくても、お客様が(実際の施設である)KDDI DIGITAL GATEへ見学に行くとよりイメージが湧いてくるはずです。その後に我々アジャイル開発センターに来ていただいて、もう少し詳しく説明するとさらにイメージが高まりますので、そこでScrum Inc. Japanに引き継いでいくこともありますね。

――それぞれがお互いを補完し合いながら新規事業開発とスクラムに関わっているわけですね。

山根氏:お客様のフェーズによっても互いの関わり方は変わってきます。たとえば5GやAI等のデジタルを使って新規ビジネスを立ち上げたいときは、KDDI DIGITAL GATEにお越しいただいて、1カ月程度で、新しいサービスのデザインや、アジャイル企画開発でのプロトタイプ開発・検証を行います。KDDI DIGITAL GATEのメンバーはアジャイル開発センターで自社プロダクト開発に取り組んできた人たちなので、KDDI内で培ってきたアジャイル開発のノウハウなどを共有することもできます。その後、本格的に商用サービス化するフェーズになってくれば、法人事業の部隊が相対し、協業も視野に入れた事業化を目指して活動を進めていきます。

 それとは別に、KDDI DIGITAL GATEで案件を実施した後に、アジャイルの手法そのものを自社に取り入れたいと感じられるお客様もいらっしゃいます。その場合はKDDI DIGITAL GATE内での共同開発を通じた育成プログラムや、Scrum Inc. Japanがお客様のところにお伺いしてトレーニングや、コーチングをしながら導入をご支援していく。フェーズによってレイヤーを分けることで、新規事業開発においてそれぞれが全体をカバーできるチームになっているように思いますね。

――みなさん異なる立場からアジャイルと向き合っているわけですね。では、アジャイル開発の重要性についてはどのように考えているでしょうか。それぞれの立場からお聞かせください。

木暮氏:アジャイル企画開発はKDDIの事業貢献につながると思っています。アジャイル企画開発でつくりあげたプロダクトによってお客様の満足度や価値を高めていきたいという思い、それが一番大きいですが、最終的には我々の売上につなげていければと考えています。

KDDI株式会社 プラットフォーム開発本部 アジャイル開発センター長 木暮圭一氏
KDDI サービス企画開発本部 アジャイル開発センター長 木暮圭一氏

荒本氏:世の中は激しいスピードで変化しているのに、日本の企業は仕事のやり方がすごくスローだったりします。お客様としてもアジリティ(俊敏さ)を高めたいという思いは持ちながら、会社の中にいろいろな制約があって実際に行動までに至ることが難しかったりする。そういうところでお客様がよりアジリティの高い組織、グローバルで戦える会社になれるようにお手伝いしたい。スクラムがそれを実現する一つの方法です。

山根氏:KDDI DIGITAL GATEの場合はビジネス開発視点になりますが、アジャイル開発は新規事業創出に極めて向いています。新規事業は不確実性が高く見通しが立てにくいため、アジャイル企画開発で、小さく、早く、学習しながら開発するというやり方がリスクマネジメントの観点でとても有効に働きます。多産多死が前提となる新規事業開発においては、同じ投資金額の中で、より小さく賢く失敗し多くの実験を繰り返すことが、成功への近道となるわけです。

――KDDIでは2013年からアジャイルの手法で開発するようになったとのことですが、それがうまく回るようになってきたと感じられたタイミングはありましたか。

荒本氏:常に継続的に改善してくために終わりがありませんし、変化がとても小さいので……ある時点で「これで出来たな」という実感がないんですよね。ただ、仕事がしっかり回るようになってきて、スピードも速くなってきたなと思うのは、スタートから2年くらいだったように思います。

山根氏:個人的な感覚では「auでんき」のアプリを作ったときに変わってきたように思いました。開発期間が短くなるわけじゃなくて、不要なものを作らないことで結果的に速くなるわけですが、実際にリリースまですごく速くたどり着けたことが定量的に見えてくると、上の人の評価も変わってくるんですよね。数字だけを見てもらうのは危険なんですけど(笑)。

木暮氏:当時は法人向けのサービスを作っていた部門でアジャイル企画開発に取り組んでいたのですが、KDDIのコンシューマー向けサービスの案件が爆発的に増えていったのがやはり2、3年目でした。そういう意味では、「案件が増えた=アジャイルが認められた=うまくいった」という感覚ではあるのかなと思います。

スクラムに挑戦するなら、まずはその「マインド」を理解すべき

――スピードを上げたい、やり方を変えないと生き残れない、そういう気持ちでアジャイルに向き合おうとしている会社が増えているかと思います。そうした企業に対してアジャイルの支援をしていくにあたり、どのようなところが難しいと感じますか。

木暮氏:アジャイル企画開発で大事なことは、やらないことを決めることです。それは裏を返せば、優先順位の高い順からやる、ということなのですが、やらないことを決めるのはなかなか難しいことなんですよね。上層部の人は「全部やれば安心だから全部作れ」というマインドだったりしますし、そこから「最小限のものを作って早く出し、成果をどんどん雪だるま式に大きくしていく」という考え方に持っていくことが一番難しい。それは企画部門も開発部門も変わりません。でもそこを同じベクトルに向けられれば、ものすごい力が生まれることも感じていますね。

――KDDI DIGITAL GATEではいかがでしょうか。

山根氏:公開されている「アジャイルソフトウェア開発宣言」はすごくシンプルですが、アジャイル企画開発を効果的に実践する上でとても重要なものとなります。たとえば「契約交渉よりも顧客との協調を大事にする」とか、「包括的なドキュメントよりも動くソフトウェアを大切にする」といったものになりますが、これらのマインドセットを変えることなく、イテレーションでの開発だけやってみるとか、アジャイルのやり方だけ真似してもうまくいかないんです。お客様と対話しながら本当にいいものを作っていこうとか、ドキュメントを一生懸命書いて伝言ゲームをやるより動くソフトウェアを使ってみんなで目的に向かって行きましょうとか、そのベースがあって初めてスクラムというプロセスがうまく回っていきます。

 にもかかわらず、言葉だけのアジャイルが先行してしまうことがあって、そこの意識を変えていくのは大変ですね。アジャイルは「速い」「安い」「いつでも変更ができる」といった都合の良い部分だけを切り取って本質を理解したつもりになってしまうと、アジャイルにチャレンジしたけれどうまくいかなかった、みたいなことになりがちだと思います。

KDDI DIGITAL GATEの入口にはスクラムに日々取り組んでいるメンバーの写真が
KDDI DIGITAL GATEの入口にはスクラムに日々取り組んでいるメンバーの写真が

――意識を変えていくというところは、Scrum Inc. Japanのトレーニングが果たす意義は大きそうですね。

荒本氏:そうですね。我々がトレーニングするときも何を一番伝えたいか、何を理解していただきたいかというと、アジャイルやスクラムのマインドなんです。スクラムの手法やフレームワーク自体は書籍などを読めばわかるし、比較的理解しやすい。でもアジャイルやスクラムのマインドを理解しないと、その手法やフレームワークは生きてこないんですよね。

 スクラムは実際の問題や課題を解決していく中で形式化されたものです。スクラムで規定されている一つ一つには、なぜそれが必要なのかという理由があります。たとえば、スクラムにはイベントと呼ばれるミーティングがあるのですが、なぜそれぞれのイベントが作られたのか理由があります。表面的に見えることをスクラムの手法に従ってただ行うのと、一つ一つの理由やどのようなマインドを持って行動すべきかを理解したうえで実践するのとでは、同じスクラムの手法を行っても全く効果は変わってきます。これらを伝えて理解していただくことが、我々が一番力を入れているところですね。

――人のマインドを変えることは、かなり難しく、大変なことだと思います。

荒本氏:もちろん2日間のトレーニングだけで変わることは難しいです。しかし、「よし変わろう」「変わらないといけない」と思っていただけるきっかけを作るのが我々の役割です。実際に2日間のトレーニングを受けてお帰りになる際に、本を読んだだけではわからないようなこと、スクラムができた目的やそのマインド、1つ1つのフレームワークがなぜ必要なのか、といったところをきちんと理解できたという声を多くいただいています。

――実践的にやってみないと真にスクラムを理解することはできないものでしょうか。

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