——話を戻しまして。かつてはワーカーさんの待遇など問題があり、改善を重ねてきましたが、業界や御社の現状をお聞かせください。
過去にあったような、専門資格を持たずに原稿を書いたり、低単価なライティング料金などの問題もありましたが、業界全体としても排除する方向に向かっていますし、ランサーズとしても排除しています。たとえば(問題発生時期は)匿名でしたが、実名と顔写真を出さないと仕事を発注できず、最適価格を下回るような単価が低い案件は、アルゴリズムで非表示にする機能を加えました。以前と比べると、相場も高まったと思います。ただ、ワーカー側の数が多いジャンルは相場を下回ることもありますので、改善ポイントのひとつですね。
上場が決まった際に、ユーザーへ「サービスの持続的提供」「安心・安全な取り引きの場を提供」「適切な金額で取り引きできる場の提供」を、ランサーズから約束として提示させていただきました。これは僕らだけで推進するものではなく、クライアントやワーカーと共に築かなければなりません。適正な言葉でコミュニケーションしなければ(場が)荒れますし、「このプラットフォームはこのような価値観でご利用ください」という意味を込めました。ルールに沿って気持ちよく仕事をしてほしいし、適切な単価にしないとお互いが不幸になります。この考えは、上場後も強めていきたいと思います。
——副業を解禁する企業や、副業を希望する方が増えていると思います。それぞれ何を求めていると感じていますか。
働く側から見ると2つあります。1つは本業収入の補充。もう1つは会社内で得られない体験です。スキルを身に付けたい、プログラミングを学びたいなど目的は多様ですが、お金と経験を求めているととらえています。
ただ、副業が大変なのは労働以外のところ。まずは確定申告。サラリーマンなら会社が(申告書類の作成を)やってくれますが、個人でやると数十時間程度は必要でしょう。クライアントとの契約も、法務部ではなく自分が対応しなければなりません。他に残業管理などもあります。米国では副業を簡単にする税制がありますので、日本でも同様の仕組みが整えば、流動性が生まれると思います。
また企業側から見ると、大手企業でも人材不足で採用に困るケースが少なくありません。日本人という国民性もありますが、副業OKだから(会社に)来てほしいという時代に突入していると思います。企業から見れば、我々のサービスはコスト抑制の目的が主たるものでしたが、2019年は正社員を雇用できないから、社員の代わりに人が必要という需要の高まりを感じました。問い合わせもスタートアップ企業ではなく、日本を代表する大企業から増えており、変化と焦りを感じますね。具体的な対応方法は手探り状態ながらも、少しずつ変化していると思います。
——各企業を取材すると、突破口を開けず戸惑っている感じがします。ランサーズがブレイクスルーするタイミングはいつ頃でしょうか。
まず、政府がモデル就業規則を変更して副業OKにしたのは大きいです。期待しているのは、大企業で眠っている50%の人材を活用できる点です。我々としては地方の中堅中小企業が人を採用できない状態にあるため、オンラインでつながり、大企業の優秀な人材と仕事ができる仕組みが、変わるきっかけになるといいです。実際、副業する都内の会社員も増えていますし、弊社サイトへのアクセス状況を見ますと、昼休みに大手企業からのアクセスが増加しています。
——副業市場において、誰でもランサーズが当然の存在になる時代はいつ頃でしょうか。
2030年くらいでしょうか。時間はかかると思います。現在は派遣も当たり前の存在になりましたが、1980~1990年代は「派遣何それ?」で、20~30年かけて(社会に)浸透してきました。新しい働き方も徐々に浸透していくと思います。
加えて、社会的にも人材労働不足という空前の危機を迎えています。我々がフリーランス向けプラットフォームを始めて20年後ぐらいにはる2030年には浸透すると考えています。米国でも2027年にフリーランスと会社員の人口比が逆転するという予測があります。今日生まれた赤ちゃんが将来フリーランス、という現象が起きていますので、日本も遠からず来るのではないでしょうか。
——2020年以降の取り組みもお聞かせください。
まだ1合目ですから、これからは大手企業向けに新サービスの開発に取り組みたいと考えています。また、フリーランス的な新しい働き方をする際に、家を借りられない、与信が通らないといった金融面の課題は少なくありません。12月19日にリリースした賃貸向け与信サービス「smeta」は、フリーランスを金融面で支援します。報酬として1000万円持っていても家を借りられないとキツいです。人生は働くと暮らすがワンセットです。特に2020年はこのサービスに注力したいですね。
ランサーズという企業の歴史を振り返ると、上場は第1章です。ここから我々が掲げるビジョン「テクノロジーで誰もが自分らしく働ける社会を作る」を実現するために、第2章、第3章と資本市場の方々と共に成長していきたいと考えています。
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