ラジオを中心とした音声広告だが、ネット配信やスマートフォンでの聴取といった周辺環境の変化により、活用の仕方が変わりつつある。ストリーミング音楽配信サービスを手掛けるSpotifyは12月4日、音声広告の現状と可能性、さらに海外で注目を集めている「ポッドキャスト」について話す、トークセッション「#loveAudio」を開いた。
Spotifyは、2008年にスウェーデンで設立。当時出回っていた違法の音楽配信は、アーティストにきちんとした対価を支払っておらず、この状況を改善するために生まれた。日本には2016年に上陸。現在79カ国でサービスを展開しており、世界で2億4800万人(フリーユーザー数は1億3500万人)のアクティブユーザーを抱える。アーティストへの印税が広告収入から支払われる「Spotify フリープラン」と月額980円〜(学割プランは月額480円)の「Spotify プレミアムプラン」を用意しており、無料プランでも5000万曲にフルアクセス、全曲フル尺再生が可能だ。
スポティファイジャパン ビジネスマーケティングマネージャーの石井恵子氏は「プレイリストで音楽を聞くリスニングスタイルをはじめたのはSpotifyといってもいい。プレイリストを作るエディターは世界で80人ほどいて、日本オフィスにも3人がいる。音楽業界に携わってきた人物が独自の視点でプレイリストを作っている」と説明。一方で、AIが作成するプレイリストも提供しており、そちらは聴取傾向を学習して好みに最適化したプレイリストを提供する。「聞けば聞くほどプレイリストが最適化される仕組み。知っている曲だけではなく『こういう曲も好きだろう』と提案してくれる。新しい音楽に出会うきっかけになってくれる」(石井氏)と紹介した。
日本のユーザーは35歳未満が56.5%と半数以上を占め、11月のデータでは55%が女性ユーザー。視聴デバイスはスマートフォンが92%と圧倒的で、最近ではスマートスピーカーの利用も伸びてきている。石井氏は「サービス開始当初は20代のユーザーが多かったが、今では各年齢層の方に聞いていただている。男女比は取得する時期によって変動している」とユーザー層を分析した。
1日の平均利用時間は132分で、実に2時間以上。利用シーンは「くつろぎ中」が56%、「通勤・通学中」が40%、「運転中」が38%と高く、それ以外は「身支度中」「入浴中」「就寝前」「勉強・仕事中」などさまざま。「生活の中のあらゆるモーメントで聞いていただいている」(石井氏)ことが特徴だ。
世界の音楽市場は、2015年から4年連続で成長しており、成長を支えているのがサブスクリプションサービス。今やストリーミング配信の売上は音楽収益全体の75%を占め、ストリーミング配信が音楽業界全体を底上げしていることが見て取れる。この傾向は日本も同様で、ストリーミングの売上は前年比142%の121億7200億円。音声広告の売上も伸びてきているという。
こうした現状を受け石井氏は「音楽を聞くにあたっては85%のユーザーがヘッドホンで聞いており、これはパーソナルな空間で好きな時に音楽を楽しんでいるということ。Spotifyのデジタル音声広告は『モバイルでパーソナルな接点』『生活文脈を捉えるクリエイティブ』『豊富なデータに基づくインサイト』『アクションの誘発と3D音響での体験づくり』」とし、ターゲティングがしやすく、あらゆる時にリーチしやすい媒体であると説明した。
Spotifyでは、曲と曲の間の30秒間に音声広告をフリープランで展開。スポティファイジャパン 広告事業統括の藤井哲尚氏は「音楽体験とつながりを保ったまま情報体験ができる。スマートフォンでの聴取時に画面を見ていれば、クリック可能なコンパニオンバナーでサイトへの誘導も可能だ。最近わかってきたことは、アクションバナーへのクリックをメッセージに加えるとクリック数が確実に伸びるということ」と分析する。
会場では、花王「キュレルUV」の事例も紹介。オリジナルソングによりブランドメッセージを打ち出したもので、独自のブランドプレイリストも提供したとのこと。「ブランド体験を音で提供するキャンペーンとして実施。ターゲットは若い女性。体験によりブランドの認知が高く上がったことがわかった」(藤井氏)とした。
「過去10年はスクリーンの時代。ビジュアル喚起の最適化をしてきた。次の10年はスクリーンレスの時代。リスニング喚起の最適化になると思う」(石井氏)とした。
一方、次にくるオーディオとして「ポッドキャスト」を紹介。Spotifyでは、プレミアムオーディオカンパニーとして、世界のオーディオを1つの場所に、というコンセプトを掲げており、音楽だけでなくポッドキャスト配信にも力を入れていく方針だ。
石井氏は「米国では今、約3人に1人がポッドキャストを聞いている。ポッドキャスト数は70万を超え、エピソード数は2900万以上。想定リスナーは9000万人になる。広告収入も2021年までに10億ドルを突破する見通し」と米国での人気ぶりを強調する。リスナーは男性57%、女性42%と男性が多く、高収入の人が多いとのこと。年齢層は35〜44歳がボリュームゾーンだ。
Spotifyでも50万を超えるポッドキャストを用意し、クリエーターは14万人以上。ポッドキャストの聴取時間は前期比39%増加しているとのこと。コンテンツはエンターテインメントが最も人気があり、聴取時間別ではスポーツ、犯罪モノが人気だという。石井氏は「ポッドキャストを聞いているリスナーは音楽も聞く傾向があり、音楽寄りのリスナーよりも長い時間Spotifyを聞いており、その時間は約2倍」とユーザー層を分析する。
米国では、カルチャーとして定着しつつあり、犯罪ジャーナリストが手掛けたコンテンツは大ヒットしたとのこと。「動画を作るのはコストも時間もかかり大変だが、ポッドキャストは音声のみ。ポッドキャストクリエーターを支援するため、制作ツールを提供する『Anchor』を買収した。アプリをダウンロードすれば、簡単にポッドキャストを作れる」(石井氏)とクリエーターサポートにも乗り出す。
日本においてもポッドキャスト人気は高まっており、日本語のポッドキャスト数は2月に比べ50倍に急増。「ヒプノシスRADIO Spotify Edition」など、グローバルでもランキング上位に食い込むコンテンツがでてきているという。石井氏は「若年層にアプローチしたいメディア、インフルエンサーから興味関心が高まっている状況」と説明した。
#loveAudioは、デジタル音声広告の事例と効果について話すイベント。すでにロンドンなどで実施しており、日本での開催は今回が初めてとなった。
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