リノべる、新築至上主義の日本で中古住宅に取り組む覚悟--リノベーションのすべてを引き受ける - (page 3)

伝えたいのは匂いや感触、住宅展示場は学ぶべき顧客接点

――リノべるでは、ウェブサイトを窓口にしている一方で、セミナーの開催やショールームなどリアルな接点も用意されていますね。

 ウェブサイトを窓口にすることによって、リノべるがどんな会社で、どんなことをやっているのかを広く知ってもらう作業は大分スムーズになりました。起業当時は、オンライン完結サービスを目指していたんですが、実際始めてみるとオンラインだけではどうしても乗り越えられない部分があることに気づきました。

 オンライン完結型で言わば「ZOZOTOWN」のようなサービスを考えていたのですが、それが実現するのは、衣類が買いやすい価格帯で返品もしやすい商売だからなんですね。それに比べると家は返品がきかない。加えて、匂いや感触など、実物を見て触ることがとても大事なんです。その段階でO2O(Online to Offline)のビジネスに切り替えました。

 従来の住宅メーカーであれば、お客様に実物を見て触っていただくために、テレビCMを流し、住宅展示場を用意し、そこにきてもらうという手法を取っていましたが、リノべるはテレビCMのようなマス媒体の部分ではなく、ウェブサイトで集客する手法を採用しています。しかし実際にお客様が見に来られる住宅展示場は、学ぶべき部分なので、そこをショールームという形で残しています。

――従来の販売手法を参考にしながら、リノべるに合った形にカスマイズされているのですね。

 見てみないとわからないというのは住宅を扱う上で、現時点では必要不可欠な要素だと考えています。ただ5年後はわかりません。AR、VRが浸透すれば、ショールームなしで体感できるようになるかもしれませんね。

――一方で、リノベーションする際にスマートホーム化も積極的に推進されていますが。

 私自身すごくオタクなんですよね(笑)。ITガジェットが特に好きで、スマートロックやIoT照明なども、全部自宅で試しています。スマートホーム化は単に生活が便利になるだけではなく、生活スタイルに合わせた家に変えていけるメリットがあると考えています。

 家を買ったり、リノベーションしたりという経験は、人生において1~2回だと思います。でも生活スタイルはどんどん変わるんですね。結婚、出産など家族も増えますし、お子さんの成長に従って、必要なものも変わります。

 例えば、照明のスイッチは、お子さんも操作できるように110cmの高さに設置したい。でもお子さんの背はどんどん伸びますから、それに合わせてスイッチの高さも上がるといいですよね。通常のスイッチならば、無理な話ですが、音声で操作ができるIoT照明であれば、背丈にかかわらず、お子さんが小さいときから操作することが可能になります。

 スマートホームであれば、生活スタイルに合わせたアップデートができるはずです。ただ、現時点でもまだ使いにくいものは多いですし、積極的に使うのは一部の限られた人にとどまっています。それはなぜか、設定が面倒だからなんですね。しかしリノベーションするタイミングでIoT機器を取り入れてスマートホーム化してしまえば、面倒な手間なく導入できます。リノべるでは、そのために、専門部署も作っていますし、投資も進めています。11月にはスマートホームの設定代行・アフターサービスを提供する「iTech Deliver for リノベる。」をスタートしました。

待ったなしの職人不足にもメス、育成モデルを構築する

――物件を持たない、スマートホーム化しやすいなどがリノべるの強みになっているのでしょうか。

 加えて、ボリュームですね。2800戸超のオーダーメイドのリノベーションを手掛けているのは圧倒的で、その分実例を積み重ねられます。リノベーション会社は新築やリフォームなど兼業が多く、リノベーション一本でやっているのは珍しい。リノベーションのみに絞ることで、数量を伸ばしています。

――今後も新築を手掛ける計画はないのでしょうか。

 新築も始めれば売れると思いますが、ミッションに合致しないのでやりません。リノべるのミッションは「日本の暮らしを、世界で一番、かしこく素敵に。」、ビジョンは「課題を価値に。」です。これは、そのほかの新規事業にも通じていて、スタッフから「●●をやりたい」と挙がってきたときに、誰の課題を価値に変えるを明確にしてからスタートするようにしています。

 この事業はなんのためにやるのかと聞かれた時に「●●という課題を解決するため」という答えならばいいのですが、「収益を上げるため」では違うなと。儲かることは会社にとって必要ですが、その瞬間に会社としていろんなことが壊れているように思うんですね。もちろん収益は大事ですが、目的がない中で突き進めると何のためにやっているのかわからなくなる。あと儲けるためだけに事業をするのであれば、リノベーションではなくて別の商売をやっていると思います(笑)。

――日本市場における中古不動産の流通は今後どうなっていくでしょう。

 爆発的によくなる可能性があると思っています。取り扱っている中古マンションは築30~40年がボリュームゾーンですが、オートロックのないマンションが多い。戸数のあるマンションであれば、修繕積立金を使ってオートロックを取り付けられますが、戸数が少ないと1世帯の負担が大きく、取り付けにくい。でもスマートロックと監視カメラを導入すれば、月数百円でオートロック同等のシステムが整います。こんなに簡単にできるのはテクノロジーの力だと思います。

 現在、中古住宅の流通は20%にとどまっており、10人いたら8人が新築を買う時代です。一方で2033年には3件に1件が空き家になると予測されており、たくさんの家をスクラップして、新しいものをつくることになります。これは借金を次の世代に渡しているようなもの。空き家をうまく活用すればこの借金が減らせます。ただ、今のスピード感ではだめで、よりスピードアップする必要があるでしょう。

――リノべるとして今後の展開を教えて下さい。

 リノベーション施工ができる職人不足が予想されるため、この部分をなんとかしていきたい。職人の方の仕事はシステム化されておらず、現場で、周りの人の仕事を見ながら見て覚えることが基本です。それをプログラムを用意するなどして変えていきたい。例えば、熟練と新人では、石膏ボードを貼る作業1つとってもスピードが違います。段取りがいいとスピードも上がるんですね。今までは段取りの部分は経験から身につけていくしかありませんでしたが、そこを共有していきたいと思っています。

 ゼネコン時代に現場監督を長く経験しましたが、できる職人の方かどうか一瞬で見極める方法があるんです。それは作業用トラックを見せてもらうこと。きちんと整頓されていれば、いい職人であることに間違いありません。そうしたいい職人を育てられる環境を構築していきたいですね。

 累計2800件超のリノベーション物件を手掛けてきましたが、中古住宅のリノベーションを物件探しから設計、デザイン、施工、家具、スマートホーム提案、住宅ローンまでワンストップで請け負うことで、年間1000件の取り扱いができるようにしたいと考えています。また、業界特化型Saasなどのサービスを通して、業界としてリノベーション物件の流通を1万件、10万件へと増やしていくことで、ミッションである「日本の暮らしを、世界で一番、かしこく素敵に。」を実現したいです。

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