筋金入りのMacBookユーザーに熱弁を振るわせるには、バタフライキーボードについて質問するのが手っ取り早い。好きか嫌いかにかかわらず、Appleファンは皆、ヒンジ構造に由来するこの名称のキーボードシステムの採用について、熱く語りたいのだ。だが、11月13日に発表された新しい16インチの「MacBook Pro」の新しいキーボードで、こうした議論すべてが変わるかもしれない。
バタフライキーボードは、Appleが2015年に発売した12インチのMacBookから採用されているが、快適とはいえない触感や、入力時に二重打ちになったり逆に文字が抜けてしまうという、ユーザーをいらいらさせる品質管理問題で批判されてきた。Appleはキーボードを改善すると予告していた。そして、今回3世代目が登場した。同社はまた、旧世代のキーボード搭載モデルのキーボード修理プログラムを提供している。米CNETの編集者、Scott Steinはこの第3世代のキーボードについて、第一印象は従来のMacBookのキーボードとはかなり違うと語った。「新MacBook Proのキーボードは、初代と2代目のちょうどいい中間という感じだ」とScottは表現した。
15インチのMacBook Proの後継モデルとして登場した新しいMacBook Proは、キーボードの不満に対するAppleの最も直接的な反応だ。同社は新ノートのキーボードを強化するために、単体キーボード「Magic Keyboard」のシザー構造を採用した。Appleは、この新しいキーボードでファン層の怒りを鎮め、高評価を取り戻したいと考えている。
Appleのマーケティング責任者であるPhill Schiller氏は、12月に発売予定の「Mac Pro」のようなデスクトップ型Macの周辺機器用に設計したMagic Keyboardの長所を、いかにして新しいノート型Macに統合するかが課題だったと語った。
Schiller氏はインタビューで、次のように語った。「キーボードの改善に必要な労力は、とかく過小評価されがちだ。だからほとんどのキーボードは、10年も20年も変わらないのだ。われわれはバタフライ型キーボードを推進しているが、(特にプロの顧客のために)立ち戻り、キーボードに最も強く求めるのは何なのかを多数のプロユーザーに尋ねることにし、多くの調査を行った。チームは長時間かけて調査し、研究し、再開発した」
Schiller氏は、MacBookの発表に先駆けて私のインタビューに答えてくれた。このインタビューで同氏は、新しいキーボードや、このキーボードが将来の製品でも採用されるのか、今後のMacと「iPad」の方向性などについて語った。以下に編集したインタビューを掲載する。
--バタフライキーボードに関するフィードバックにはどのようなものがあり、そうしたフィードバックはシザー型キーボードにどのように反映されたのでしょうか。
ご存じのように、われわれは数年前に新しいキーボード技術に取り組み始め、MacBookに採用しました。例えばより安定したキープラットフォームを作り出したことなど、本当に成功したこともあります。このキーは、指をキートップに置いたときによりしっかりと、フラットに感じられます。これをかなり気に入ってくれた人もいますが、そうでない人もいました。反応はまちまちでした。品質の問題も幾つかありました。何年もかけてキーボードの設計を改善し続け、今や3世代目です。多くの人々がこの改善を喜んでくれています。
数年前、われわれはバタフライキーボードの開発を進めつつ、(特にプロユーザーのために)立ち戻り、キーボードに最も強く求めるのは何なのかを多数のプロユーザーに尋ねることにし、多くの調査をしました。これは実に印象的なプロジェクトでした。エンジニアリングチームはタイピングの生理学とタイピングの心理学(ユーザーが何を愛するのか)に取り組んだのです。
プロユーザーが一番求めていることを調べ始めたところ、彼らはよく「Magic Keyboardのようなキーボードが欲しい。あのキーボードが大好きだ」と言いました。そこでチームは、Magic Keyboardのコア技術を、デスクトップキーボードとは異なる構造のノートブックに移植するというこのアイデアに取り組みました。それで思いついたのがこの新しいキーボードです。われわれはバタフライキーボードの改良と平行して、Proシリーズのために新しいMagic Keyboardを開発してきました。
--ノート型にMagic Keyboardを搭載するに当たってはどんな苦労がありましたか。
ノートブック型の筐体で新しいシザー構造を適切に動かすために、角度を調整する必要がありました。デスクトップ型とノートブック型では、人間工学的に適した傾斜が異なるのです。また、デスクトップにはないがノートブックにはあるバックライトを追加しなければなりませんでした。
チームはこのプロジェクトに取り組む中で、バタフライキーボードの長所にあらためて気づきました。例えば、キートップを安定させる方法などです。われわれは、この安定感を支えているスイッチメカニズムを発展させたいと考えました。また、キーを押したときに快適に感じる音と心理学について学びました。気持ちのいい感触と圧を作り出すために、キーの下のラバードームを改良する必要がありました。多くのプロユーザーは長めのストロークを好むので、筐体の薄くて軽いデザインを保ちつつ、キーストロークを約1mmに戻さなければなりませんでした。
このプロジェクトで、チームはキーキャップの最適なサイズについて再検討しました。キーキャップを大きくしすぎると、キー同士の間隔が不十分になります。プロユーザーは、快適なタイピングのためにはバタフライ構造よりもやや広い間隔が必要だと感じていました。
学ぶことがたくさんありました。デスクトップ用キーボードをノートブック用に移植するために必要なことや、その過程で技術をさらに発展させたくなったからでもあります。
--この新しいキーボードは他のMacBookでも採用されるのでしょうか。MacBook Proほどの性能は必要としなくても、この触覚を好む層がいると思われます。
今日のところは何も言えません。われわれは両方のキーボード設計を継続しています。
--薄いデザインのノートに新しいキーボードを組み込むのは大変でしたか。
キーボードの開発は一般的に大変なものです。キーボードの改善に必要な労力は、とかく過小評価されがちです。だからほとんどのキーボードは、10年も20年も変わらないのです。ノートブックにキーボードを組み込むのはさらに大変です。不可能ではないものの、大変な仕事であることは間違いありません。
--バタフライキーボードには否定的なフィードバックが多数あり、メディアからも低評価でした。こうしたフィードバックをどう受け止めましたか。
われわれは自社製品を愛しており、顧客も同様に製品を愛してくれていることを知っています。だからこそ、人々は製品のあらゆる面について熱心になるのです。製品についてのフィードバックをいただくと、チームはそれに心から感謝し、過剰反応せずに一歩引いて見るようにしています。作業し、研究し、顧客の意向を確実に理解することに時間を費やします。
どんなフィードバックにも、製品改善のために学ぶべきことが必ずあるものです。製品を改善するために何ができるだろうか? 従来の方法に沿って改善できるだろうか? それとも、別の方向に向かうべきなのか? そして、誰のために? チームは調査、研究、改革のための作業に時間を費やしました。われわれは過去数年間で、この分野について多くを学びました。
--このキーボードはプロユーザー向きだと思いますか。
熱心なフィードバックの幾つかはプロユーザーからのものでした。われわれはプロユーザーを念頭に置いて新しいMagic Keyboardを開発すべきだと考えました。
--「Touch Bar」が戻ってきて、これがないモデルはなくなりました。この機能についてのフィードバックはどんなものでしたか。
われわれは新しいMacBook Proについてあらゆる質問をしました。綿密な調査と議論なしに進んだものはまったくありません。「Touch Bar」についても質問しました。かなり多くのユーザーがTouch Barを使っており、その機能の幾つかを便利だと思ってくれていますが、不満もありました。最も多かった不満は、物理的なエスケープキーが欲しいというものでした。物理的なエスケープキーがないことは、多くの人にとって受け入れがたいことでした。
Touch Barをただ取り去って気に入ってもらっている長所を失うのではなく、物理的なエスケープキーを追加することにしました。この作業をしている間、「MacBook Air」には独立した「Touch ID」ボタンを追加しました。ユーザーはこれを非常に気に入ってくれました。そこで、Touch Barは残すことにしました。しかし、エスケープキーとTouch IDキーの両端に、空間を作ることにもしました。これが、不満を言っていた人々の大多数にとっての最善の解決策です。Touch Barのイノベーティブな使い方も残すことができました。
--Touch Barとキーの間の空間も広くなりましたね。
MacBook Proの縦横の長さはほんのわずか(2%)伸びたので、このスペースをTouch Barと数字キーの間の空間として使おうと考えました。多くはありませんが、何人かのユーザーが数字を入力しようとして誤ってTouch Barに触れてしまうという不満を表明したからです。ほんのわずかなスペースが大きな違いをもたらします。
--サードパーティー開発者にTouch Barの長所を活かしてもらうために、何をしていますか。残念ながら、Touch Barをサポートするアプリは多くはありません。
それは古い見解です。見直してくれれば、対応アプリが増えていることに気づくでしょう。ほとんどのアプリがTouch Barを利用しています。膨大な数のMacアプリがTouch Barに対応しています。われわれの開発者関係チームは多数のMacアプリ開発者と協力し、Touch Barサポートを支援しています。従って、Touch Barをサポートするアプリ数は皆さんが思うより多くなっています。
--今日の発表は16インチMacBook ProとMac Proについてでした。しかし、もう1つの「Pro」シリーズ、「iPad Pro」はどうなっていますか。
iPad Proは、他のProシリーズとは少し独立させています。Macには膨大な顧客ベースがあります。顧客数は年々増加しており、特にプロ向け製品の顧客増加が顕著です。多数の人々がMacを仕事で使っています。Macは多くの人々の生活にとって重要な場であり、開発もその位置付けに沿って進めています。Macユーザーの自分のMacへの愛は、まさにわれわれが改良しようとしていることに対する愛です。
約10年前のちょうど今ごろ、Steve(Jobs氏)が、iPadは「iPhone」とMacの中間を占める新しいカテゴリーになると発表したときのことを覚えているでしょう。彼は、ユーザーの生活での新たな存在理由を獲得すべき製品だとも語りました。
あれは、文字通り新たな製品カテゴリーを創造するということでした。数年前、われわれはiPad Proを創りました。これは素晴らしいことです。なぜなら、iPadのテクノロジーを推すカテゴリーに2つのモデルを投入できるからです。これによりiPadのユースケースの幅が大きく広がりました。
今ではiPadを活用するケースが多数あります。特に「Pencil」と組み合わせれば、アーティストの創作ツールにも、表計算ツールにもなります。MacとMacBookというパーソナルコンピュータよりiPadを使う時間の方が長い人が、かなりの数いることが分かりました。彼らはMacもMacBookも選ばない。iPadだけで、長時間過ごすのです。
われわれチームが挑戦したのは、パーソナルコンピュータとiPadを一緒に使い、1+1を2ではなく3にする道を探すことでした。iPadをMacの拡張ディスプレイとして使い、MacアプリをPencilで操作できるようにする「Sidecar」のようなテクノロジーを創りました。出張の際などに便利なセカンドディスプレイというアイデアは、プロユーザーにとって非常にクールなソリューションです。そして、前人未踏の方法で、ニーズを満たしました。
ユーザーは、どのカテゴリーのデバイスを最も長く使うかを選べます。そして、ユーザーがもしiPadもMacBookもMacも持っているとしたら、われわれはそれらを一緒に効果的に使う方法を探ります。
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