食と情報を掛け算するニチレイの挑戦--「おいしさ」の見える化と生産現場の進化とは

 朝日インタラクティブは10月30日、フードテックをテーマにしたセミナーイベント「CNET Japan FoodTech Festival 2019 “食”の新世界に挑戦するイノベーターたち」を開催。

 基調講演にはニチレイ 経営企画部 事業開発グループの関屋 英理子氏が登壇し、「食と情報を掛け算する。Fun Cooking & Fun Eatingの実現に向けた挑戦」と題した講演を行った。

3つの「危機感」--スタートアップと組んだ理由

 関屋氏は2000年にニチレイに入社し、商品開発や営業の仕事に携わった後に農林水産省に約3年半出向。日本食を海外にPRする仕事を手がけてニチレイに戻り、新規事業開発を進めている。

ニチレイ 経営企画部 事業開発グループの関屋英理子氏
ニチレイ 経営企画部 事業開発グループの関屋英理子氏

 ニチレイは2018年12月に、インドでEコマースを利用した食肉の流通・宅配サービス事業「Licious(リシャス)」を運営するスタートアップ企業Delightful Gourmet Private Limited(ディライトフルグルメ)に、1500万ドルを出資してパートナーシップを結んだ。

 その背景として関屋氏は、日本国内の食品産業が2040年までに総体として赤字産業に陥るというリサーチ結果を挙げた。

デロイトトーマツの調べによると、2040年までに大企業も含めた国内食品会社が総体として赤字体質になるという
デロイトトーマツの調べによると、2040年までに大企業も含めた国内食品会社が総体として赤字体質になるという

 さらに、3つの「危機感」があったと話した。1つめは「DX(デジタルトランスフォーメーション)」の進展だ。

 「作った製品を卸に販売して小売店が販売するという商習慣だったため、お客様のことは知ることが難しいと思っていたが、デジタルが進むと私たち以上にお客様のことを知っている人が出てきた。それで食品メーカーとしての役割に不安を覚えた」(関屋氏)

 2つめは「労働力の不足」だ。「工場や物流倉庫などの労働力不足は待ったなしだ。冷凍倉庫の場合、ときにマイナス40度やマイナス20度といった環境で作業が必要になる。トラックドライバーも過酷な労働状況で、人が集まらないのが現実として目の前にある。その一方で世の中のニーズはどんどんパーソナル化しているから、人は足りないけれど、多様化した何かを提案しなければならない。こういう両極端にどう対応するかという危機感があった」(関屋氏)

 3つめが「食資源の不足と食品ロス」だ。「いかに安定的に商品を作り、安全・安心にものをお届けするかが重要。原材料が入手できなければ提供できない。しかし、食品をロスしては元も子もない」(関屋氏)

 各産業のROA(総資本利益率)を見ると、食品製造業は約5.6%と、ITサービス業の約12%の半分しかないと関屋氏は話す。

国内の業界ごとの総資本利益率の違い
国内の業界ごとの総資本利益率の違い

 こうした中で出会ったのがインドのLiciousだったという。「Liciousはインフラが未整備で道路もなく、温度管理も難しい国の中で新鮮な食肉や水産品を届けるという事業を行っている。デジタルを駆使し、オーダーから2時間以内に商品をお届けするだけでなく、在庫ロス率は少なく、食品メーカーとしては驚異的だ」(関屋氏)

Liciousはインドで食肉宅配流通サービスを展開するスタートアップ企業だ
Liciousはインドで食肉宅配流通サービスを展開するスタートアップ企業だ

「おいしさ」を見える化する「conomeal(このみる)」

 関屋氏は続けて、社内で行っている取り組みを紹介した。人それぞれ、また同じ人でも時や場所気分によって異なる「おいしさ」をデータ分析して見える化する「conomeal(このみる)」だ。

ニチレイが2020年のサービス開始を目指して開発を進めている「conomeal(このみる)」
ニチレイが2020年のサービス開始を目指して開発を進めている「conomeal(このみる)」

 「これはメーカーと消費者との接点を獲得しようというプログラム。お客様の欲しいものを『考える』より、『直接聞いた方がいい』と考えた。アニメ『サザエさん』に出てくる三河屋のサブちゃんのように、家の状況や天気、その日の生きのいい食材を聞いて提案する、コミュニケーションができるツールを自分たちで作ろうと目指している」(関屋氏)

 現在プロトタイプを作っているところで、「アンケートのような質問をすると、その人の食のこだわりや、食に対してどう向き合っているかが分かり、それに応じて提案するというもの」(関屋氏)だという。

 社内にはプログラム開発者もいないし、経験者もいなかったが、大手IT企業に開発を依頼するのではなく、自分たちのチームも中に入って開発を進めていると関屋氏は語った。

 「シェフ数名にエンジニア数名、デザイナー数名などほとんどフリーランスだが、結果的に約20人のプロに集まってもらい、2020年の事業化に向けて一生懸命開発を進めている」(関屋氏)

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