食と情報を掛け算するニチレイの挑戦--「おいしさ」の見える化と生産現場の進化とは - (page 2)

70年以上培った生産現場をテクノロジーで進化

 ニチレイの新規事業開発に向けた取り組みに続き、ニチレイフーズ 技術戦略部 装置開発グループの間宮稔氏が登壇し、今までの資産をどうテクノロジーで生かすかについて紹介した。

ニチレイフーズ 技術戦略部 装置開発グループの間宮稔氏
ニチレイフーズ 技術戦略部 装置開発グループの間宮稔氏

 間宮氏は食品メーカーが果たすべき使命として、「『お客様に安全・安心を提供すること』と、昨今社会問題となっている『食品ロスを最小限にすること』の2つを両立させなければならない」と語った。

食品メーカーが果たすべき使命
食品メーカーが果たすべき使命

 間宮氏は春巻と焼おにぎりの製造ラインの写真を紹介。商品によって差はあるが、1日に約20トン、個数にして100万個以上のスケールで商品を製造しているという。

 もし1mm角の小さな破片などが食品に混入してしまうと、その20トンの中から探し出すか、さもなければすべて廃棄しなければならなくなる。そのため、混入を未然に防ぐことが重要になる。

 例えば鶏の唐揚げのX線検査では、レントゲン写真を撮って検査員が硬い骨などがないかどうか1つずつ写真を見ている。焼おにぎりの場合、しょうゆが均一に塗られているかどうか、光を当てて輝いている部分を数値化し、照りやツヤを検査しているという。

 「機械で検査できないのは、熟練者の五感を駆使して丁寧に検査することで品質保証を担保しているから。機械と人が支えているのが実状だが、社会環境の変化として食品業界でも人手不足や熟練技術者の高齢化という問題、さらには食品特有の部分もある。お客様からの高まる品質保証要求によって、その後立ちゆかなくなるという危機感がある」(間宮氏)

 ではどのように解決していくのか。技術的な課題としては「熟練技術者の五感や経験に変わる技術開発」と「人に見えないものを見えるようにする技術開発」の2つが急務だと語った。

科学によって今後解決すべき課題
科学によって今後解決すべき課題

 AI技術と高度センシング技術をパートナー企業と開発しており、その中の3つの応用事例を間宮氏は紹介した。

 「熟練技術者の五感や経験に変わる技術開発」の1つめはオムレツの焼き目をAI(人工知能)で検査するというものだ。熟練者は良品判定基準表と見比べて判断しているが、これを自動で行うためにはオムレツの写真を白黒にし、焼き目を判別しやすくする。ただしそれだけではちょっとした切れ目や焦げ付き、はみ出しなどが判別できない。隣のオムレツと重なった部分が黒い影になっても判別がしにくくなる。そこでAIで不良品のパターンや良品でも微妙なパターンなどを入れると、人間と同様に判断できるようになるという。

焼き目を白黒データ化して判別
焼き目を白黒データ化して判別

 2つめは鶏の唐揚げのX線検査だ。最新検査機を使うと硬い骨だけが検出されるが、実際の製造ラインでは密集して大量に流れてくるため、簡単には正確な検査ができない。実際には硬い骨がなくて衣が重なっている程度でも骨だと誤認識してしまうが、安全・安心のため、念のために廃棄していた。これもAIを導入することによって精度が約2倍にまでアップしたという。

AI判定によって誤認識を低減
AI判定によって誤認識を低減

 「現在は開発した技術の精度を高め、各工場への横展開を目指している段階だ」(間宮氏)。また、「人に見えないものを見えるようにする技術開発」として、むきえびに残った殻の検査の事例を紹介した。

 従来は人の目では見て検査ができないので、一つ一つ手で触って触覚で品質を検査していた。これを現在は特殊なブラックライトを当てて目には見えない殻を浮き上がらせているという。

 「エビがライン上を高速で流れているが、そのときに写真を撮って検査している。そこに殻があるとなると空気銃で飛ばしてはねる仕組みだ。人間の20倍〜30倍のスピードで行っている。このように先端技術をベースに、パートナーとオープンイノベーションでコラボしている。これからも、テクノロジーを積極的に活用した安全・安心なものづくりを行い、皆さんに届けていきたい」(間宮氏)

 間宮氏に続き、冒頭の関屋氏が登壇して続けた。「マイナス20度から常温を行き来する間に水蒸気が発生して壊れてしまうため、従来はコンピュータを導入するのが難しかった。しかしテクノロジーが進化し、AIがさらに進み、職人の能力をサポートできるようになった。低温で使えるコンピュータも、製造ラインで使える価格で出てきた。技術とわれわれの力を合わせて取り組むべきときが来た」(関屋氏)

 食品製造業の利益率が低いことは先ほど紹介したが、「産業としてスケールすることが企業の役割だ」と関屋氏は続ける。

 「情報収集して分析し、活用する。AIや最新技術をどんどん取り入れて試して経験値を積んでいく。それは技術だけでは難しい。70数年間、現場で何が起きるのかを見てきた力と新しい技術を掛け合わせることでお客様の価値にお応えできる商品を作り出せる。自分たちが培ってきた経験を皆さんと共有しながら、食品産業を盛り上げるのがわれわれの使命だと思う」(関屋氏)

最新テクノロジーと既存のノウハウを組み合わせることが成功への道だと関屋氏は語った
最新テクノロジーと既存のノウハウを組み合わせることが成功への道だと関屋氏は語った

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