漁業、農業へのAI、IoT活用は実用段階へ--KDDIが手がける5つの事例

 10月30日に開催された“食”とテクノロジーがテーマのカンファレンスイベント「CNET Japan FoodTech Festival 2019」で、大手通信事業者のKDDIが講演を行った。同社で地方創生という課題に取り組んでいる石黒氏が登壇し、日本の“食”の大元となる漁業と農業に、先端テクノロジーをもつKDDIらしい手法で関わっている5つの実例を取り上げた。

養殖事業の効率化、活性化に向けた漁業への取り組み

KDDI株式会社 ソリューション事業本部 ビジネスIoT推進本部 地方創生支援室 マネージャー 石黒智誠氏
KDDI株式会社 ソリューション事業本部 ビジネスIoT推進本部 地方創生支援室 マネージャー 石黒智誠氏

 KDDIが通信事業者でありながら地方創生や“食”に関わるのは、東日本大震災後2012年に発足した被災地での復興支援、地域活性化事業を担う「復興支援室」での活動が元となっている。震災から一定の期間が過ぎた2017年には「地方創生支援室」へと名称が改められ、日本全国の地方創生、地域の基幹産業としての第1次産業、ひいては地方における大きなテーマの1つである“食”についても、KDDIのもつ通信技術やIoTを通じて貢献するという方針が掲げられた。

 そうした方針の下、同社の“食”に関係した漁業分野と農業分野における地方創生の取り組みは、すでに全国各地で進んでいる。その1つの事例として最初に挙げたのは、福井県小浜市の鯖の養殖事業。若狭湾に面する同市の近海は、かつて日本有数の鯖の漁場として知られ、年間3500トンもの水揚げがあった。しかし、現在では0.7トンと5000分の1にまで激減。鯖で再び小浜市を活性化するため「『鯖、復活』養殖効率化プロジェクト」が発足し、KDDIがテクノロジー面から支援している。

KDDIが取り組む福井県小浜市の鯖の養殖事業
KDDIが取り組む福井県小浜市の鯖の養殖事業
1970年代は3500トンあった鯖の水揚げが、0.7トンに
1970年代は3500トンあった鯖の水揚げが、0.7トンに

 鯖は鱗がないため皮膚病になりやすく、高い水温にも弱いことなどから養殖には不向きとされてきた。KDDIではそのような鯖の性質を見極めたうえで、生け簀のある海面の環境を把握し、それに応じた効率的な給餌の方法を確立するべく、IoTを活用している。

 具体的には、1時間に1回の頻度で生け簀周辺の水温、酸素濃度、塩分といった環境データをセンサーで自動測定し、無線通信回線を用いてクラウドに送信。さらに漁師が持つタブレットPCに給餌計画を表示して実際の給餌量のデータをクラウドに送信し、管理するようにした。

 これらのデータを分析し、環境条件と給餌量の関係など、鯖の生育に適切な条件を導き出すことができれば、「これからの漁業を担う若い人たちが養殖業を行ううえでのマニュアルの基礎になる」としている。

環境データと給餌データをクラウドで管理している
環境データと給餌データをクラウドで管理している

 また、長崎県五島市では、魚の養殖にドローンとAIを活用している。長崎県のクロマグロの養殖生産量は日本一を誇る。しかしながらクロマグロの弱点である赤潮が発生すると大きな被害が発生しやすいため、この赤潮の発生の予兆をいち早く検知し、対策をとれるかどうかによって、同市の産業へのダメージ度合いが変わってくる。

長崎県五島市のクロマグロ養殖ではドローンとIoTを活用
長崎県五島市のクロマグロ養殖ではドローンとIoTを活用

 従来は、養殖事業者が船を出して生け簀付近で海水を汲み、その海水の分析を専門家に依頼していた。その分析方法も、顕微鏡をのぞいて悪玉プランクトンの数を数えるという個人の経験に基づく根気の必要な作業だったが、KDDIはこれをテクノロジーで大幅に刷新する実証実験に成功した。ドローンを使って遠隔から海水を採取し、その海水をAIによる画像解析にかけて悪玉プランクトンを検出。赤潮発生の恐れがある場合は、養殖事業者や自治体に通知するようにした。

 これにより、従来は採水から養殖事業者への通報まで半日程度かかっていたが15分以内に短縮。速やかに対策を取り、大きな被害を防ぐ道筋をつけることができたという。これを応用し、動画分析の精度をさらに上げることで、五島市のクロマグロ以外にも、さまざまな魚介類の養殖で有効な手法になるだろうとのことだ。

ドローンで海水を採取、AIで画像解析して結果を通知する
ドローンで海水を採取、AIで画像解析して結果を通知する

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