次に農業分野の事例として、兵庫県豊岡市と岐阜県飛騨市の水田におけるIoTの実証実験を取り上げた。豊岡市は、かつては水田に集まるコウノトリの生息地として有名だったが、農薬などの影響で一時は絶滅。その後農薬の使用量を抑制する等、地元の農家の努力もあり、現在は再びコウノトリのいる田園風景が徐々に戻りつつあるが、農薬を減らしながら雑草を抑制するためには緻密な水位管理が必要だ。KDDIがそのプロジェクトに技術提供したという。
農薬の量を少なくするには、農薬を減らしても雑草が生えにくい水田にする必要がある。それには緻密な水位管理が不可欠だが、水田は広い範囲に多数あり、人の目と手と足で迅速に判断し、調節するのは困難だ。従来の水位管理は農家の人の経験や勘に基づいた独自のもので、適切に対応できる人は限られる。農薬削減を目的にしたきめ細かな水位の制御までは到底手が回らない。
そこで水田に水位センサーを設置し、取得した水位データを農家の人たちが持つタブレットやスマートフォンで見られるようにした。遠くの水田まで足を運ばなくても水位を把握できるようにし、水位調整が必要な場合でも移動にかかる時間を最小限に抑えられるようにしたという。飛騨市ではこれに加えて自動水門も設置し、水位に応じた自動給水も可能にしている。
これにより、コウノトリの生息環境を守るだけでなく、稲作の効率化と米の品質向上、農家における高齢化や人手不足の解消につながる可能性もありそうだ。水の管理を自動化できれば、人の勘や経験に頼ることなく、若い人も最適な方法で米作りができるようになると考えられる。
宮城県東松島市のエボルバ農園(幸 満つる 郷 KDDIエボルバ 野蒜)では、ミニトマトの栽培に、IoTおよびAIによる「自動灌水施肥システム」を導入している。同園のビニールハウスで栽培するミニトマトは、品種もさまざま。それぞれで出荷時期が異なり、水やり、肥料やりのタイミングも異なる。ビニールハウスの内部の温度は47度に上ることもあるとのことで、そもそも人が長時間の作業をするのは負担が大きいという問題もある。
そのためKDDIは、ルーレット・ネットワークスの「ゼロアグリ」というシステムを導入。圃場に設置した日射センサーと、土壌内の水分を検知する土壌センサーから取得したデータを基に、あらかじめ設定した土壌水分量を達成できるようAIが水・液肥の量を判断し自動供給する仕組みとなっている。
現在は勘所のある農家の人が、適当と思われる土壌水分量を設定しているが、そうした経験に基づいた設定をAIが学び続けることで、いずれは狙った味わいのトマトを作れる最適な土壌水分の設定も自動化が期待される。
最後の事例は、鹿児島県肝付町のサツマイモ栽培におけるドローンを活用した害虫駆除。サツマイモによる特有の病気とその原因となる害虫は、これまでは農家の人が目視で発見しており、見つかり次第畑全体に農薬を散布してきた。
KDDIはそれに替えて、高感度カメラを搭載するドローンを活用することにした。畑を撮影した写真をAIで画像分析し、サツマイモの葉にある虫食い穴を検知。若葉の食害が発見され次第、別のドローンによる農薬散布を実施する。
KDDIの漁業と農業における取り組みは、いずれも地方で深刻化する高齢化・人手不足に向けたものであり、その産業に従事する人の知見を後世に残すという目的も兼ねたものだ。石黒氏は最後に、ICT、IoTで地方の一次産業を活性化させたいと述べたうえで、「漁業、農業を限られた人が担うものではなく、多くの若者や別の産業の人にとって魅力のある産業、ビジネスにしていきたい。KDDIがそのお手伝いをできるのではないか」と力を込めた。
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