グーグルの「量子超越性」は革命の始まりにすぎない - (page 2)

Stephen Shankland (CNET News) 翻訳校正: 川村インターナショナル2019年10月30日 07時30分

量子コンピューターはどんなことに適しているのか

 Googleの量子研究者は、研究が理論から実験の段階に進んだことで感無量というところだ。「はじめのうちは、全くの徒労のようだった。存在もしない機械のためにアルゴリズムを開発していただけだったから」と語るのは、Googleの量子ソフトウェア担当チームを率いるDave Bacon氏だ。それがついに、「実際に動かして、どうなるか確かめられる」段階になったのだ。

 Googleが構想している実際の用途は、多岐にわたる。

  • 複雑な最適化問題。たとえば、最小限のエネルギー消費、最短の時間で荷物を配送する方法などを計算できる。「最適化問題は、世界中のあらゆる企業で、いたるところで起きている」、とBacon氏は話す。そうした問題に対処すれば、コストを削減でき、環境の保護にもつながる可能性がある。
  • 乱数を発生させることで、暗号技術を強化できる。Googleの量子チームは、現在のSycamoreコンピューター用に既に開発している乱数発生器を使うよう、同社の暗号化キー生成チームに伝えている。
  • 偽の政治的動画など、リアルとフェイクを見分けるといった処理が得意な機械学習システムを構築できる。これが、Neven氏の研究のそもそものきっかけであり、Googleの研究者も量子コンピューティングの可能性が実用される最初の分野になるかもしれないと考えている。
  • 分子レベルで素材の物理特性をシミュレーションできる。この分野で画期的な進展があれば、ソーラーパネルの効率化や、少ないエネルギー消費で窒素肥料を生産できる新技術の開発、電気自動車用バッテリーの改善などにつながるとして、おそらく最も注目されている分野だ。

 Feynman氏は、1981年にこの最後の点に触れていた。「残念だが、自然は古典力学では扱えない。自然をシミュレーションしたければ、量子力学的に考えた方がいい」と、MITでの講演で語っているのだ。従来型のコンピューターでもシミュレーションで自然の近似値を得ることはできるが、Feynman氏が求めたのは、本当の姿を得られる量子コンピューター、「自然と全く同じようにふるまう」コンピューターだった。

 量子コンピューティングでGoogleと競合するIBM、Intel、Rigetti Computingなども、シミュレーションの向上には意欲的だ。

Googleの量子超越性、そのマイルストーンの限界

 量子超越性といっても、量子コンピューターが従来型コンピューターをあらゆる領域で凌駕するということではない。むしろ、決定的な処理の多くでは遅いくらいで、つまり従来型を置き換えるのではなく、併用されるということだ。

 フランス、モンペリエ大学の物理学者Michel Dyakonov氏は、量子コンピューターが主流になるとは今でも考えていない。「実用的になるとは考えられない。『超越性』の探究はどこか作為的で、科学というより誇大広告の部類に入る。3×5とか、3+5とか、初歩的な計算を量子コンピューターでやってみせてほしい」(同氏)

 IBMもGoogleの成果に異を唱え、Googleが言う1万年分は、スーパーコンピューティングでも手法を変えれば2.5日で済むと研究論文の中で反論した。とは言っても、IBMの研究者が「量子超越性」という主張を疑っているわけではない。テキサス大学オースティン校の量子コンピューティング研究者のScott Aaronson氏も、従来型としては世界最強であるIBMのスーパーコンピューター「Summit」を使っても、量子コンピューターとの速さの差は1200倍とブログで述べている。

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