Googleが「量子超越性」の実証に成功したというのは、目覚ましい成果のように聞こえる。だが実際は、原理的に全く新しいこのコンピューティングの実用化に向けて、第一歩を踏み出したにすぎない。
米国時間10月23日、Googleは科学誌「Nature」に掲載された論文で、同社の量子コンピューターが従来のコンピューターを大幅に上回り、いわゆる「量子超越性(quantum supremacy)」を達成したと発表した。同社が独自開発した量子プロセッサー「Sycamore」を用いて、世界最速のスーパーコンピューターでも1万年かかるとされる処理を、Googleの測定結果によると200秒で実行したのだという。
この成果の重要性を理解するのは、量子コンピューティング自体を理解するのと同じくらい難しいかもしれない。原子より小さい粒子の、想像もできないような動きによって実現する技術だからだ。だが、かいつまんで言えば、こういうことになる。量子コンピューティングは、研究者が何十年も広言してきた可能性の一部を見せ始めたにすぎない。そこに秘められた真の力が実現されるまでには、まだいくつものブレークスルーが必要なのだ。
誤解のないよう付け加えておこう。Googleの発表は、77人の著者によって執筆され、査読を経た一流の学術誌に掲載されたものであり、まぎれもない偉業だ。量子コンピューティング懐疑派も、その悲観的な見方を考え直すべきだろう。1981年に有名な物理学者、故Richard Feynman氏が言及し、Googleが13年間取り組んできた量子コンピューティングというアイデアが、現実に向かって動き出しているのである。
量子コンピューターは、原子より小さい粒子の不思議な性質を利用して動作する。従来型のコンピューターは、データを0か1のビットとして格納するが、量子コンピューティングでそれに当たる単位は量子ビット(キュービット)と呼ばれ、部分的に0、部分的に1という状態の情報を格納できる。次に、量子コンピューターは複数の量子ビットを組み合わせるので、記録できる状態の数が飛躍的に増える。そして、そういう量子ビットを処理することで、ある問題に対して考えうる無数の解を、ひとつひとつ検証するのではなく同時に調べられるようになる。2+2の足し算は苦手でも、従来のコンピューターには歯が立たない問題で威力を発揮する。
Googleの量子研究者は早くも、コンピューターの実用性をさらに広げるために必要な次の段階に目を向けている。Intelの言う、「quantum practicality」(量子実用性)の段階だ。
「量子コンピューティングは、いずれ必須のリソースになる」。Googleで2006年に量子コンピューティングへの取り組みを始めた研究者、Hartmut Neven氏は、報道向けイベントでこう話している。
Googleの量子コンピューターを試してみたい人に向けて、同社は2020年にはクラウドコンピューティングサービスとして公開することを計画している。「Q Experience」として同様のサービスを既に提供しているIBMの後に続く形だ。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」
「程よく明るい」照明がオフィスにもたらす
業務生産性の向上への意外な効果