iPhoneのデザインの変遷は10年かけて、現在のiPhone XSに収束していく様子を振り返ってきた。しかしこうした収束は、iPhoneのみに起きているわけではない。
スマートフォン業界全体を見渡してみて、前面にディスプレイがあり、背面にはボディとカメラが配置される、そうしたデザイン構成以外の製品を見つけるのは、もはや難しくなってきた。
AppleはSamsungに対して、デザインをコピーして不当な利益を上げたと訴え、勝訴している。しかしiPhoneがスマートフォンという存在を規定し、コピーに対する許容によって、iPhoneの姿がスマートフォンとして正しいものであることを世間に広めてきたことも事実だ。
その巧みなデザイン上の問題点を常識化するコントロールは、ノッチに現れている。
ディスプレイ内に切り欠きを作るアイデアは、2017年のiPhone Xで採用された。3D顔認証のために深度センサーを組み合わせたTrueDepthカメラを埋め込むために必要なスペースを、ディスプレイから切り取り、新世代iPhoneの「アイコン」にしたのだ。
そう言われれば聞こえはいいが、ディスプレイを切り取るのは結果として妥協だ。これのせいで、表示領域の一部が欠けるという、性能的な弱点を作り出しているからだ。
ノッチを採用したのはiPhone Xが初めてではない。同じ年の8月に発売にこぎ着けたスタートアップEssentialのスマートフォンにもノッチがあったが、深度センサーなどはなく、カメラの形状に限りなく近い小さな穴だった。
Appleが大きなノッチを備えるiPhone Xを発売し、他社はこぞってノッチ付きのスマートフォンを市場に送り出した。ノッチについてAppleは特に何も言及していないこともあり、スマートフォンのデザインの中で許容された。
今度はノッチをいかに小さくするかが競われるようになった。2019年6月のMWC19上海では、中国のOPPOが、ディスプレイ内にセルフィカメラを内蔵することで、ノッチを廃した全画面デザインを参考出品した。全画面スマホにおいて、ノッチが解決すべき問題となったのだ。
そんな競争自体、Appleが作り出したものであり、ただ「ノッチは妥協」という認識になれば、デザイン上の欠点をAppleが一方的に評判を落とすだけだった。ところが実際には、ノッチはコピーされ、許容された。
一方で、Appleの主題はノッチの有無ではなく、TrueDepthカメラという競争優位性だ。Appleの巧妙なデザインの魔力によって、スマートフォンにおける競争がデザインにすり替えられてしまったのだ。
次回は、MacとiPadについて見ていきたい。
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