このコラムでは、テレワークに対する誤解や思い込みを解消することを通して、テレワークをうまく導入するためのコツをお伝えする。前回は「“テレワーク=在宅勤務”、“テレワークは難しい”という誤解」に着目し、できるところから部分的にテレワークを始めてみるための方法を紹介した。
第2回は「テレワークはITシステムを導入すれば始められる」という誤解に着目したい。昨今、テレワークをサポートするツールが数多く提供されている。チャットツールやウェブ会議システムなど場所にとらわれないコミュニケーションに利用するものから、柔軟な勤務体系に対応する勤怠管理ツール、情報漏洩対策に繋がるシンクライアントといったものまでさまざまだ。
一方で、ツールを導入したものの狙い通りに活用されず、むしろツールの導入が以下のような新たな課題を生んでいるケースも見られる。
●チャットツールが複数サービス導入され部署間での共有がしにくい
●ウェブ会議を導入したが利用回数が増えない
●業務システムがクラウド化されず、情報を取得するためにオフィスに行かざるを得ない
これらの課題を「ツールを導入したのにうまくいかなかった」ととらええ、「うちにテレワークは合わない」という結論になってしまっている企業も多いのではないだろうか。その原因は「テレワークはツールを入れれば始められる」という誤解にある。逆に言うと、テレワークはツールを入れるだけでうまくいくものではない。
テレワークには「文化」「制度」「ツール」「場所」の4つの要素が必要だ。テレワークの意義を社員が理解して自分ゴト化する文化があり、その文化の受け皿として社員が安心してテレワークに取り組める制度があり、文化と制度の土壌でテレワークを実施するためのツールがあり、在宅勤務やウェブ会議などに参加できるテレワークのための場所があって、初めてテレワークはうまくいく。つまりツールの導入はテレワーク成功のためのほんの一部分にすぎない。いきなりツールだけをポンと持ってきても、文化と制度の土壌がなければうまくいかないのは当たり前なのだ。
それでは、テレワークの意義を社員が理解して自分ゴト化する文化について、さらに詳しく考えてみよう。このコラムの第1回でもお伝えしたが、テレワークの成功には「何のためにテレワークをするのか?」を出発点とすることが不可欠だ。
何のためにテレワークをするのか?は、役職や部門、日々の業務内容によって異なる。例えば営業部門は「できるだけ多く商談の機会を作り、効率的にまとめていく」ため、開発部門は「業務そのものに集中して効率を上げるため」といった観点で、ぜひ自分の部門や業務に即して考えてみてほしい。なかには、テレワークを活用する意義が感じられないという人もいるだろう。その場合はテレワークをする必要はない。いきなりツールを導入して全社一斉にテレワークを開始するのではなく、まずは社員一人一人が、テレワークの活用によって自分の日々の業務がどのように変えられるのかを理解することが大切だ。
文化が醸成されると、次に制度が必要になる。テレワークの導入を検討するにあたり、多くのマネジメント層はおそらく、部下が見ていないところでサボるのではないかということを心配するだろう。実際に、テレワークをすることによって業務のペースをもち崩す社員が出てくることはある。
多くの企業がテレワークを監視の方向で運用しがちなのは、この「うまくテレワークを活用できない人」を想定するからだと言える。しかし、前述した考え方で文化がきちんと醸成されていると、テレワークをうまく取り入れて業務効率化に活用できる人の割合も増えてくる。両者をきちんと見極め、マネジメントするためにおすすめなのが「徹底した成果評価」だ。
ここでいう成果とは、営業部門の売上など分かりやすい数値目標だけではない。「いつまでにどの業務をどれくらい進捗させる」など定性的な項目も含めて成果を定義付けし、定期的に振り返ることによって評価していくための制度を整えることが大切だ。成果評価が徹底できている場合、「テレワークをしながら成果を出している人」「テレワークをしたことによって成果が出なくなってしまった人」など状況を把握して、後者のケアをすることが可能になる。場合によっては「毎日オフィスにきているが成果が出ていない人」も見えてくるかもしれない。
このプロセスは確かに、評価基準の設定に時間を要したり、実際に運用を始めたら評価面談が必要になったりと、一朝一夕に進められるものではない。しかし成果を軸にした評価制度を整備することは、社員の働き方をきちんと捉え、必要に応じた対策を講じることに繋がる。将来的にはテレワークの枠を越えて、企業が社員の多様性を受け入れるための重要な考え方になるのではないだろうか。
文化、制度が整って、ようやくツールがその役割を発揮する。前述のようにテレワークの意義は部門によって異なるため、既存のメールやスケジューラーで事足りる部門は、まずは新たなツールを導入せずにテレワークを始めてみるのもアリだろう。用途を想定してチャットツールを導入したり、営業部門であればインサイドセールスツールを導入したりと、ここでも大切なのは、何のためにテレワークをするのか?に立ち返り、それに即したツールを導入・運用することだ。冒頭で挙げた「スムーズにウェブ会議を始められない」などの課題も、その大半は「利用方法を積極的に覚えようとしない」という心理的なハードルが原因だと考えられ、一人一人がテレワークを自分ゴト化することによって改善が見込める。また、システムだけでなく、24時間365日でのサポートや、社内への導入/運用支援を行う会社を選ぶことが大切になる。
最後の要素は場所。みなさんにも、次のような経験はないだろうか。
●空き時間にカフェで仕事をしようとしたが、秘匿性の高い情報をパソコン画面に写しながら作業をするわけにいかず、諦めた
●出先からウェブ会議に参加しようとしたが、静かな環境を確保するのに時間がかかり、会議への参加が遅れた
●オフィスからウェブ会議に参加しようとしたが、周りに気を使いながら小声で話した
●移動中に緊急の業務が発生し、駅構内で膝の上にパソコンを乗せながら対応した
通信やツールの進化にともない、10年前に比べるとオフィス以外の場所で仕事をできる環境はだいぶ整ってきた。しかし、上記のように秘匿性の高い情報を扱うケースや緊急対応が発生するケースを考えると、外出先で仕事をするのに適した環境が十分に整っているとは言えない。
昨今、空間をシェアする方向性の考え方やサービスが浸透してきているが、ビジネスシーンでプライベートな空間の需要がなくなることはないだろう。どこにいても駆けこめるテレワーク向けの空間の提供を目指し、ブイキューブでも、テレワークの利用に適したスマートボックス「テレキューブ」を提供している。4つ目の要素である場所については、これから社会全体で取り組む余地のある課題だと言えるが、最近では個人用の個室ブースなどが誕生している。
JR東日本、駅ナカ設置のブース型シェアオフィスを公開--スキマ時間の集中スペース
ボックス型テレワークブース「テレキューブ」の実証実験を拡大--横浜などに新設
ここまで、テレワークに必要な文化、制度、ツール、場所の4つの要素を紹介した。それぞれが相互に関連し、どれかひとつが欠けてもうまくいかないことがお分りいただけただろうか。言い方を変えると、順を追ってこれらの要素を整えていけば、テレワークの導入は成功に近くということだ。
ポイントは、全社一斉にテレワークを始めようとしないこと。まずはぜひ部門ごと(できれば社員一人一人)で「なぜテレワークをするのか?」「自分の業務がテレワークによってどう変わるのか?」を考え、その目的に即して部分的に取り入れるところから始めてみてほしい。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」