AppleはWWDC19で、iOSから分離したiPad専用OS、iPadOS 13を披露した。少なくとも2019年はマーケティング的な意味合いが強く、そして今後もApple Aシリーズのチップを内蔵していくiPadの特性からして、iPhone向けのiOSとコアな部分は共有し続けることになるはずだ。しかし、名前を分けたことは、iPhoneとは異なる道を歩むことへのGoサインと受け取ってもよいだろう。
AppleのiPadは、控えめに言っても絶好調の状態へと回復した。2014年を境に販売低迷が長期間続いてきたが、2017年にローエンドモデルを刷新し、2018年にはハイエンドモデルとなるiPad Proを全面的に改良、さらにiPad AirとiPad miniまで投入した。結果、前年同期比で20%を上回る売上高を記録した。
2016年3月、iPad Pro 9.7インチモデルを発表した際、iPad Proで、世界の古くなったPC6億台のリプレイスを狙う、とAppleのシニアバイスプレジデント、フィル・シラー氏がアピールしていた。当時のiPhoneと差ほど変わらないiPadの状態を見ると、いまいちピンと来る話ではなかった。
また2018年10月にニューヨークで開催した、MacBook Air、Mac miniとともにiPad Proを刷新したイベントで、ティム・クックCEOは、iPadが販売台数トップのタブレットであると同時に、世界で最も売れているポータブルコンピュータであると語った。そうしたことからも、iPadを「コンピュータ」として扱う方針が見えてきた。
これまでのiPadラインアップの強化と今回のiPadOS 13の登場で、ようやくそのビジョンに見合う体制が整った、と見ることができる。
iPadOSがiOSと差別化した要素は、iOSの弱点だった「PC」との差を埋める点が目立つ。マルチタスクの強化、Safariをデスクトップ版と同等に引き上げる点、ファイル管理機能の強化、外部ストレージへのアクセス、マウスやトラックパッドのサポート、そしてMacの外部ディスプレイとして利用できるSidecarへの対応などが挙げられる。
これらと、すでにApple自身もしくはMicrosoftが充実させる文書作成アプリや、Slack、Boxなど企業で人気のあるサービスのアプリが充実しているiPadは、プログラミングや寄り自由度の高いクリエイティブの作業を除く、大半の『コンピュータを使う仕事』で利用できるようになった。Windows PCからシェアを奪い、Google Chromebookの勢いを抑えることができるのか、注目するポイントとなる。
Appleにおいて、販売台数としてはiPadの方がMacの倍以上の水準を保っているが、売上高は拮抗しており、どちらかというとMac優勢といえる。Appleは2019年以降、各製品の販売台数を公表しなくなったが、Appleの戦略の成否は、MacとiPadの売上高の推移が、1つの指標になっていくだろう。
「iPad」を一般向けの最高のコンピューターに--アップルが専用OSを発表した狙い(6/7)iPhoneは生活の要としての存在を確立しようとしており、強力なセキュリティ性能を背景にして、金融や医療、健康の分野へ活用の幅を拡げようとしている。こうした活躍の場を拡げているiPhoneは、その一方で、2018年初頭に問題提起された「iPhoneの使いすぎ」問題をより助長していく結果を招いている。
Appleのティム・クックCEO自身は、かねてから自身もiPhoneの使いすぎを自覚していることを明らかにしている。iOS 12では通知をまとめるなどの管理が行えるようにしたほか、「スクリーンタイム」機能でアプリごとの使用時間を表示し、制限をかけられる機能を追加した。子どものiPhone利用を大人が管理するだけでなく、大人自身もiPhone活用を見つめ直せるようにしている。
その上でクック氏は、「自分が思っていた以上に多くの時間を費やしていた」とiPhoneの使いすぎについて振り返る。通知が増え、必要以上にiPhoneを手に取るようになっていたそうだ。そこで通知を抑制し、iPhoneが手元になくてもそわそわしないよう心がけたという。
その上で、「誰かの目を見るよりiPhoneを多く見ていたら、自分が間違ったことをしている」という独自のルールを設けているという。すべてのユーザーが、「iPhoneが何を意味するのか、自身のために決めなければならない」と答えている。
iPhoneの使いすぎの抑制は、アプリ開発者にとっても厳しい条件となる。ただでさえもアプリが乱立し、ユーザーの興味と時間を奪い合っているなかで、そのユーザーがiPhoneに割くトータルの時間を減らすことを意味するからだ。
しかしAppleは、Siriを用いて画面操作を伴わずにアプリの機能を使う方法を用意したり、Apple Watchで通知からメッセージなどへの返信を済ましたりできるようにするなど、iPhoneを手に取らない方法をいくつも用意し始めている。
iPhoneを完全に見なくなるわけではないが、ユーザーが自分の適切なつきあい方を模索する問題意識と、画面を見ないコンピューティングの実現という方法論は、着実にiPhoneとそのユーザーの間で育ってきている。
アップルのクックCEOも「iPhone」使い過ぎを自覚--独自ルールを明かす(6/7)CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
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