3月にサービスを開始した、家具家電付きで、敷金、礼金0円の賃貸アパートサービス「OYO LIFE」が、順調に事業を拡大している。物件獲得に向け、大手不動産会社11社との提携したほか、サブスクリプションサービスを利用できる「OYO PASSPORT」の提携サービスは現在40社以上に増加。6月には、法人利用に向けたサービス「OYO LIFE Biz」も始めた。
母体は、インドでホテルの運営を手がけるユニコーン企業であるOYO。ヤフーとの合弁会社を設立し、日本で事業を開始した。ホテルと賃貸、一見すると共通点がないように感じる2つだが、OYO TECHNOLOGY&HOSPITALITY JAPAN CEOの勝瀬博則氏は「ホテルのサービスを賃貸で提供する」ことが、今後の賃貸に求められていることの1つと話す。OYOが目指す新しい賃貸の形とはどういうものか、賃貸不動産の通例をなくす敷金、礼金0円はどうやって生み出されたのかを勝瀬氏に聞いた。
OYOはインドのスタートアップで、現在、中国や米国など12カ国でホテルを運営しています。中国では客室ゼロの状態から約1年半で30万室を持つまでに急成長しており、現在の従業員数は約8000人。成長過程にある企業です。
ただ、OYOは自分たちをホテル会社だとは位置づけておらず「クオリティ・リビングスペースを提供する会社」だと言っています。OYOを構成する要素は「良いロケーション」「快適な居住体験」「リーズナブルな価格」。この3つは不動産の「原理原則」だと思っています。どの国、文化、時代でも共通しています。当然不動産事業であるホテルにも賃貸にも通用することだと思っています。
――ホテルも賃貸も同じビジネスだと。同じ不動産ビジネスと見ています。そもそも土地に床、壁、屋根があるという意味では、ホテルも賃貸も同じですよね。人が休む場所という用途も一緒です。違うのは法律で、賃貸は借地借家法、ホテルは旅館業法に区分されています。そのため、土地を有効活用するビジネスとして変わりはないのに、ホテルと住宅は異なる運用をされてきました。
しかし民泊は法律をまたいで、居住用不動産をホテルに変えた。このビジネスはものすごく受けましたよね。ただ基本的に法律が違うので、不公平なビジネスになってしまっています。ホテルは消防法など、さまざまな問題をクリアして運営しているのに、民泊は参入しやすい。アンフェアなビジネスになっているから、民泊の人気が出るのは当然です。しかし、これにより、賃貸とホテルビジネスは基本的に変わらないと気づいた方は多かったのではないかと思います。
――賃貸ビジネスは、長くそのやり方が変わらず、現在との歪みもでていますよね。賃貸ビジネスは、戦後のものすごく景気のいい時代に最適なビジネスモデルだったと思います。当時は、家を建てれば売れる、貸せる時代で貸し手がとても力を持っていました。あまりにも貸し手が強いので借り主を守るために作られたのが借地借家法です。そうなるとオーナー側が自己防衛する必要があります。敷金、礼金という仕組みや厳格な入居審査、保証人制度などが導入されます。創意工夫をしなくても賃貸住宅の需要が供給を上回っていたので、賃貸住宅にサービスを付加する必要はありませんでした。そして、家を借りてもベッドも冷蔵庫も洗濯機もついていない、日本型の賃貸商品が出来上がりました。
一方でホテルは、基本的に供給過剰ビジネスです。2020年に東京オリンピック、パラリンピックを控えていますが、それに向けて多くのホテルが開業しています。ホテル事業で供給不足が起きるとホテルのプロジェクトが乱立するので必要以上の供給が増えます。しかし景気が下向くとその影響を真っ先にうけるので、部屋が余る。数年おきにこの上下を繰り返しています。
そこで、ホテル業界の人はIT化、サービスアップという形で、供給過多のマーケットでも生き残れるように努力をしています。ではこの体制をそのまま賃貸にスライドするとどうなるか。ネットで予約ができ、チェックイン後はすぐに鍵を渡され、部屋にはベッドもカーテンもそろっている。スーツケース1つで引っ越しが完了します。もちろん料金は後払い。カードも使えます。そうなるととても便利な賃貸住宅ができますよね。
しかし、今の賃貸住宅は決して“快適な居住体験”を提供しているとは言えないと思います。例えばこんなホテルがあったとしたらどうでしょう? 宿泊予約は来店、対面必須、在庫管理がされていなくてダブルブッキングが頻繁に発生。申し込むとなると保証人は必要だし、一泊泊まるのに敷金、礼金、仲介手数料など宿泊費の5倍をチェックインの時に請求される。保証人を立てないと予約を受け付けない。こんなホテルが生き残れるとは到底思えません。なぜ同じ不動産なのにホテルと賃貸ではこれだけサービスの内容が異なるのか。それはホテルが供給過多で、賃貸が需要過剰だからです。
ですが、この考え方はそろそろ変える時期にきています。日本は少子高齢化で、賃貸に住む人の人口は減少しています。しかし相続税対策で新規のアパートは作り続けられています。すでに地方では空き家、家あまりが起きています。この環境で入居率を上げるには、ホテル的なサービスを提供する必要がある。入居者が欲しいと思っているものを先回りで提供することが大切だと思っています。
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