それ、本当に「機械学習」が必要ですか?--適材適所で見極めたいAI活用

石井智宏(モビルス代表取締役社長)2019年05月29日 07時00分

 AIによる営業支援、マーケティング、バックオフィスの支援ーー。業務の効率化が期待できる様々なAIソリューションが世に出ています。それだけビジネスの現場において、効率化などの課題解決は急務とされているのでしょう。AI製品の展示会には3日間で4万人以上が足を運ぶというのもうなずける話です。

 さまざまな可能性があるAIソリューション。ところが、中にはAIによって増える業務もあることをご存知でしょうか。情報不足のまま検討を進めてしまうことほどもったいないことはありません。ここ2〜3年で導入が加速している、チャットボットを例にお伝えします。

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「機械学習」と「ルールベース」の違い

 チャットボットのトレンドは2016年頃から始まりました。銀行やメーカー、小売りなどでは、これまで顧客からのFAQに対して、電話で対応したり、「よくあるご質問」ページをサイト上に用意するなどして対応してきましたが、この業務をチャットボットに置き換えようとする動きが活発になっています。

 背景には、こんな課題があります。

 「FAQページがあるのに電話が絶えない」

 「同じ問い合わせを何度も受ける」

 「対応できる人材の確保が難しい」

 こうした課題の救世主としてチャットボットは注目されてきました。

 「チャット」とは、PCやスマートフォンなどの画面上でのテキストコミュニケーション、「ボット」はロボットの略。ですから、チャットボットを簡単に言えば、人間ではなくプログラムがコミュニケーションを自動で行うことを指します。使う人のインターフェースはPCとは限りません。LINEを通じてチャットボットのサービスを展開するケースもたくさんあります。

 実はこうしたチャットボットは業務の効率化に貢献するだけではなく、「これまでと違う客層との接点をもてた」などという効果もあるようです。今や大企業から個人事業主まで、問い合わせにかかる工数を減らすためチャットボットの導入が進んでいます。

 しかし、実はすべてのチャットボットに昨今のAIが得意とする「機械学習」が組み込まれているとは限りません。「機械学習型」に対して、「ルールベース型」というものが存在します。この2つの違いをご存知でしょうか。

 ルールベース型のチャットボットとは、チャットボットの作り手が設定したルール通りに応答するもの。「A」と入力されたら「A'」と返答する。「こんにちは」と入力されたら「こんにちは!」と返答する。あくまで定められたルールに則った動作をし、こちらが想定しない動作はしません。

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 一方、機械学習型のチャットボットは、何を聞かれているかを統計的に判断し、適した回答を算出する方法をとります。ここで、冒頭でふれた「AIを利用することによって増える業務」が関連してきます。

 先ほど「統計的に判断し」と言いましたが、そうさせるためにはしかるべき量のデータが必要です。それを「教師データ」と呼びます。機械学習するAIはこの教師データを材料に、適した判断をするための学習をします。データの用意、学習、データの修正、再学習。この繰り返しをチューニングと呼びますが、この作業はもちろん人間が行います。

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 一概にチャットボットと言ってもこのような種類が存在しますし、効率化が目的であっても新たに発生する作業もあります。しかし、中にはこんな理解をされている方と出会うことも少なくありません。

 「機械学習によりAIが自動で賢くなる」

 「AIがなんでも答えてくれる」

 「すぐに始められる」

 はたしてチャットボットとは、AIが機械学習により自動で賢くなってくれるものなのでしょうか。簡単に導入できるものなのでしょうか。残念ながら、そうではありません。知っている方からすれば当たり前のことかもしれませんが、AIの裾野が大企業から中小企業まで急拡大しつつある現在、運用の実状を伝えることが追い付いていないのも現実です。

 与えるデータの量・質によってAIの精度も変わりますから、機械学習とはまさにわが子を育てるように面倒を見る必要があるのです。これが見事に整備されていると、「あっぱれ!」と言われるチャットボットが誕生します。しかし、企業の中にはこの重要なメンテナンスができず、サービスを中断してしまうケースもあると聞きます。

ルールベース型による圧倒的効率化

 AIとは機械学習があたりまえに組み込まれているわけではなく、しかも育てることが必要だとお伝えしました。とはいえ、機械学習か、そうでないか。一見、機械学習をするAIの方が優れているように聞こえそうです。実際はどうなのでしょうか。

 ここでご紹介したいのが動物保険のアニコム損保のLINE公式アカウント「アニコム」。このアカウントでは保険金請求の申し込み、そして加入手続きまでもLINE上のチャットボットで完結することができます。なんとこのサービス、現時点で機械学習は利用していません。よく作りこまれたルールベース型のチャットボットで成り立っています。

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 自治体でも、チャットボットを利用した住民票の取得申請申し込みサービスが始まっています。こちらも、もともとは窓口に足を運び、自分の手で用紙に記入し、職員が処理をしていたもの。ルールベース型のチャットボットは、煩雑な作業をシンプルにすることを得意としています。

 こうした業務をシンプルに効率化してくれるチャットボットですが、そもそも言葉から連想する「会話」ですらないことに驚かれましたか。ルールベース型のチャットボットは、こうした手続きなどのフローが固定している場合に大変活躍します。もしかしたら、皆さんの業務やサービスの中にも、機械学習を使わずしてより多くの人が喜ぶ設計に作り替えられるものがあるかもしれません。

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