SMBC日興証券は3月25日、顧客の保有株式をAI(人工知能)が分析し、一人一人に合わせた分散投資銘柄を推奨するサービス「AI 株式ポートフォリオ診断」を3月29日から提供開始すると発表した。スマートフォンやPCでの株式取引指示が中心になる「ダイレクトコース」の顧客に向けて無償で提供する。
このサービスは、AI技術を開発するベンチャーのHEROZと共同で開発。ユーザーの資金や保有株式、リスク許容度にあわせて効率的なポートフォリオを提案することで、効率的な複数銘柄の運用が可能。さらに、ディープラーニングを活用した株価予測AIによる期待収益性をスコア化することで、ユーザー本位の運用を具現化するとしている。
会見に登壇したHEROZ 代表取締役CEOの林隆弘氏は、新サービスのAI技術の源流が将棋向けAI技術であることを紹介。2013年の第2回将棋電王戦では、「ponanza」が佐藤慎一四段(当時)に、「ツツカナ」が船江恒平五段(当時)に勝利し、AIが初めて平手で現役プロ棋士を相手に勝ちを収めたことを振り返った。ponanzaとツツカナの開発者は現在どちらもHEROZに在籍しているという。
そして林氏は、将棋の世界ではあるものの、人間をコンピュータが超えていく「シンギュラリティ」を経験し、そのときの知見を持っているメンバーが在籍していることが、ほかのAI関連企業に比べたHEROZの最大の特徴ではないかと考えているという。ちなみに林氏は将棋のアマチュア全国大会で複数回優勝しており、アマチュア六段を保有している。
以前の将棋プログラムは、将棋にもプログラミングにも精通したエンジニアが手作業で、将棋のルール、それぞれの駒の価値を示すポイント、人間が考える戦略などをプログラムに記述していたという。
将棋プログラムに機械学習を導入してみると、開発手法が一変し、将棋の棋譜を図として捉えて、大量のデータから機械学習で評価関数を生成し、その関数が対局時に判断を下すようになったという。そして、機械学習導入後は、将棋の知識がないエンジニアでもプログラムを開発できるようになり、機械学習がほかの分野にも応用できるようになっていったという。
HEROZでは、同社の機械学習に関する研究成果、ノウハウなどを集結して開発した機械学習サービス(MLaaS:Machine Learning as a Service)「HEROZ Kishin」を提供しており、今回SMBC日興証券が提供を始めるAI 株式ポートフォリオ診断では、企業の株価や決算データなどをHEROZ Kishinに学習させて、個人ごとに合わせた複数の株式銘柄を推奨しているという。
続いて登壇したSMBC日興証券 ダイレクトチャネル事業部長の丸山真志氏は、株式のネット取引をしている顧客の多数が単一の銘柄、あるいは少数の銘柄しか保有していないという調査結果を紹介した。同社のダイレクトコースを利用している顧客のうち、2017年度に取引実績がない銘柄を保有している顧客を対象に調査したところ、全体の50%が1銘柄しか保有していないという。範囲を2~5銘柄を保有している顧客まで広げると、全体の85%に達したほか、6銘柄以上を保有している顧客は全体の15%にとどまった。
そして、顧客の保有銘柄数が増えれば増えるほど、評価益を上げた顧客の割合が上昇する傾向があるという。丸山氏によるとこの結果は当然であり、ポートフォリオ(金融商品の組み合わせ、安全資産と危険資産の最適保有率)を作って、分散投資することで損失を被るリスクを最小化できることを示しているという。
例えば、社会である事象が発生しても、輸出で利益を挙げている企業と、輸入で利益を挙げている企業では、それぞれの株価はまるで違う変化を見せる。最適なポートフォリオを組むことで、保有している1つの銘柄の株価が下落しても、別の銘柄は株価が下がらずに維持、あるいは株価が上がるという効果が期待できるわけだ。
ネット取引に限らず、株式取引は最終的には自己判断、自己責任でするものだが、丸山氏はネット取引では特に「これからどうすれば良いのか、何をすれば良いのか分からない」という顧客が多いと語る。
AI 株式ポートフォリオ診断では、2種類のサービスを用意する。1つ目がこれから株式投資を始めるという顧客に向けて、ポートフォリオを作成するサービス。顧客指定の1銘柄を含む、収益が上がる可能性が高いポートフォリオを新たに作成するサービスだ。
もう1つは、すでに株式を保有している顧客に向けたものだ。ポートフォリオを診断して、収益が上がる可能性が高いポートフォリオ再構成(リバランス)提案を出す。テストの結果、「リスクは抑えつつ、なるべく収益を改善したい」「高いリスクを取ってでも収益をさらに上げたい」といった顧客のさまざまな要望に応え、高い確率で期待通りの収益を上げているという。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス