日本を代表する航空会社である日本航空。同社は2019年1月、80億円規模のコーポレート・ベンチャーキャピタルファンド(CVC)「Japan Airlines Innovation Fund」を設立した。
2010年の経営破綻からV字回復を遂げた日本航空は、2020年度には中長距離路線に就航する格安航空会社事業へ参入するなど、その事業展開は順調だ。そんななか、航空輸送という本業ではない、外部投資の分野にも進出する理由は何か。日本航空 イノベーション推進本部 事業創造戦略部 事業戦略グループのグループ長を務める、森田健士氏に話を聞いた。
ーーまず初めに、事業創造戦略部について教えてください。
CVCを担当する事業戦略事業部は、2013年に発足しました。当時、日本航空は経営破綻後の会社更生を2011年に終え、2013年に採用を再開したばかりという時期でした。当時の社長である植木(義晴氏)は、「採用を再開するということは、新しく入ってくる仲間が、30年ぐらいのレベルで、きちんと働ける会社にならないといけない」と言っていました。会社は経営破綻から回復したばかりで、とにかく今と今後数年間に全勢力を費やさなければいけないという雰囲気でした。その中で、誰かが5年10年先のことを考えていかなければいけない、という思いから作られたのが、事業創造戦略部です。
植木からは、「中長期的な視野で、新しい物を常に探し続けろ」というオーダーがありました。その言葉通り、中長期的視野で世の中を変えようとしている人物や、そのような物の開発を目指す人々のコミュニティに入らなければ、そもそもスタートできないな、という課題認識が、われわれ事業創造戦略部の中にありました。つまり、スタートアップベンチャーのコミュニティに入っていくことを当初から目指していました。
ーーそれがCVCの設立に繋がったのですね。
まず2016年に、シリコンバレーのベンチャーキャピタルに対し、リミテッド・パートナーとしての出資を決定しました。当時、社内でのシリコンバレーに対する認識は「何かわからないけど聞いたことはある」というレベルでした。そこに出資をすることで、「そういう領域に対してもうちの会社はやっていく」というメッセージを発信し、経営にも繋げることが狙いでした。
出資にあわせて、シリコンバレーにオフィスを設置しました。日本航空の航空運送事業に関わっていない海外派遣員は、シリコンバレーオフィスのスタッフだけではないかと思います。設置から2年ほど、現地へ赴いて話し合いの場も作ってきたのですが、なかなか上手くいかない。スタートアップの事業を面白いとは思うのですが、それを取り入れることができないし、そのスタートアップに何かを与えることもできない。もっと本気度とコミット感を持たないと、このまま廃れていくと感じました。
この日本航空が示すコミット感の1つとして、「資金の提供できる会社です」ということをしっかりと宣言する必要性を感じ、CVCの設立を検討しました。ただ、われわれは先行する他社とは異なり、自分たちだけでCVCを運営することはできません。そこで、シリコンバレーにおける実績を見込んで、トランスリンク・キャピタルをパートナーに選びました。
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