「新しい物を常に探し続けろ」--JALが80億円規模のファンドを設立した理由 - (page 2)

西中悠基 (編集部)2019年04月10日 12時00分
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 CVCによって目指すものは3点です。まず1点目は、航空運送事業を磨き上げることです。日本航空という企業やJALグループ全体で見ると、この事業の価値を磨き上げることが第一になります。2点目は、このCVCをトリガーとして、新しい価値を生むこと。そして3点目は、JALグループの社員を刺激することです。ベンチャースピリットで取り組んでいる方々や、新しいテクノロジー、ビジネスモデルにJALグループの社員が触れることで、既存のオペレーションやサービスにおいても、新しい考え方が生じればいいと考えています。

 この中で一番の目的は、2番目に挙げた、新しい事業価値を生むことです。われわれはエアラインということで、A空港からB空港への輸送といった事業を担っています。この中で、安全を大前提に、定時性、商品、人などを磨き上げて、お客様に選んでいただくことを重視しています。

 ですが、お客様は空港に住んでいるわけではありません。目的地も空港ではないことがほとんどです。家を出てから目的地に着くまでを1つの移動とすると、われわれが担っているのはそのごく一部です。また、世界中の移動から見ると、航空機を使うのはごく限られます。すると、どんどん世の中が変わった時に、我々は単なる輸送手段になってしまうのでは、という危機感を持たなければならないと考えています。

日本航空の旅客機
日本航空の旅客機

 であるならば、ドアからドアまで、人々がどのように移動しているか、ということにわれわれは注力していきたい。その中でよりよい価値を提供することによって、企業理念でもある「社会に貢献していきたい」を実現したいという思いがあります。CVCによって、航空サービスの磨き上げのみならず、搭乗前後も含めたドアtoドアのシームレスな移動にも入っていきたいと考えています。

 ただし、ドアtoドアと言いますが、ではモビリティサービスをやるのか、乗り物の設計をやるのか、という大きな分け方があります。その乗り物でも、例えば電動なら、その電動をつかさどるバッテリーの技術進歩にも目を配らなければいけません。ドアtoドア、エンドtoエンドのシームレスな移動と言っても、関連する事業は数多くあります。ファンド規模からすれば、全て見ていても全てに投資することは不可能です。その中で、より集中的に投資する分野を見極める必要があります。

 ところで、そもそも人はなぜ移動するのでしょうか。それは、移動に目的や価値があるからなのですが、テクノロジーの進歩によって、移動しなくとも目的や欲求を満たすことができるような変化が生まれています。例えばAmazonの出現によって、自分が買い物のために移動しなくても、欲しいものが家に届けられるようになりました。移動を生業にしているわれわれは、今後生まれる「移動しなくてもよい世界」を意識しなければなりません。

 そして、移動しなくてもいい世界が出ても、必ず移動しないと手に入らない価値、時間を掛けてでも現地で手に入れたい価値というものがあります。それは、今とは違った価値観となって現れるかもしれません。例えば月旅行です。VRが発達して、誰かが撮影した映像を見て、それでも「お金と時間を掛けてでも行きたい」と思うかもしれません。そして、ここで意識される移動という手段は、われわれの本丸です。移動しなくてもいい世界を見る中で、あえて移動するリアルな価値は何だろうか、ということを考えて、このファンドからコーポレートベンチャー活動を進めていきたいと考えています。

ーー日本航空は月面探査プロジェクトにも出資していますが、これも変化する価値観への追求からでしょうか。

 ispaceのHAKUTO-Rのことですね。彼らは月面資源探査を目的としているのですが、そこで生活圏を築いて、最終的に2040年に月旅行を実現する、という目標を立てています。われわれは、この月旅行というキーワードに、そこまで行く可能性があるプレーヤーと歩みたい、という理由から、2017年の12月に3億円を出資しました。

 ただ、出資を決定するまでには、社内で大きな議論がありました。まだ実績もなく、世界的にも先行者がいない業界に出資をした時に、どうやって投資額を回収するのか、と。最終的には「経営としてはこのようなこともやらないとな」という結論になりましたが、この結論に至るまでに1年以上が掛かっています。

 ispaceには、たまたま待っていただいたのかもしれません。ただ今後、本当に目的を達成するために組みたいスタートアップとの資本提携の話があった際に、同じように1年を掛けていたら、誰からも相手にされなくなる、という反省があります。より機動的に動ける仕組みが必要だ、ということから、このCVCを設立しました。かつては、ispaceの事例とは逆に、出資しないことを決めるために1年掛けることもありました。CVCは、やる、やらないという判断の時間を短くするための枠組みだと思っています。

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