ーーCVCの設立という取り組みは、日本の航空業界のみならず、世界的にも新しいのではないでしょうか。
世界のエアラインでスタートアップ投資ファンドを持っている事業者は、オープンになっているものはまだまだ少ないと思います。この中で最も進んでいるのは、アメリカのジェットブルー航空と、イスラエルのエル・アル航空です。これ以外にも、公開されていないだけで、実は持っているというプレイヤーがいるかもしれません。
航空運送事業は、特に国際線では2国間でさまざまなことが決める必要があるなど、業界への参入障壁が高かった時代がありました。しかし、しっかりと内側を固めていけば成立する業界でもあります。ただ、これは私の思いなのですが、他業界で盤石と思われていた分野が変化しているのを見ると、航空業界でも10年20年という長いスパンで見れば情勢が変化するかもしれないと感じます。その中で、スタートアップとさまざまなことを作っていこうという発想が、だんだんと生まれているのではないでしょうか。
もう一つは、航空運送事業を担っている企業には周りに多くの関連企業があります。代表的なものでいえば、航空機メーカーのエアバスやボーイング。予約システムを担っている企業もあります。このような、さまざまなプレイヤーがいますが、この多くは、CVCのようなものをどんどん作っているところです。となると、エアラインの中ではCVCを設立した日本航空が先進的に見えても、航空業界全体で見れば、すでにベンチャーという動きが大きく動いています。その流れのなかで、ただ供給を受けるという立場で待っているだけでは乗り遅れるだろう、という課題認識を持っています。
ーーファンド設立から間もないですが、現状で課題はあるのでしょうか。
スピード感や目利き力といったことは、ファンド設立で解決したと考えています。一番大きな課題は、自分たちに何が足りないのか、ということを明確にすることです。何をやりたいかは誰でも言えるのですが、足りないものを特定することは難しい。しかしながら、これを明確にしなければ、スタートアップのベンチャー企業と話していても、話がかみ合いません。自分たちが何を求めているのかを、これまで以上に定義して課題化していくことが大切だと考えています。
もう一つは、われわれは何をアセットとして持っていて、何を外に提供できるのかを明確にすることも大事です。オープンイノベーションでは、外から何かを取り込んで事業を作る、という印象がありますが、取り込む前に「何が出せるか」がないといけません。順番が逆です。特に5~6年前はわれわれのような事業会社はスタートアップ・ベンチャーに「何ができるんですか」というトーンで接していたのですが、「私たちは何ができます」というスタンスで接していかないといけません。今はスタートアップが事業会社を選ぶ時代ですから、われわれが何をできるかということを出していく必要があります。そして提案時に、アセットのみならずキャッシュベースでもアピールするためのものが、このファンドです。
ーーJALというブランドの力だけでは通用しないのですね。
全く通用しないです。シリコンバレーで話をすると、必ず「何をしてくれるんだ?」と聞かれます。そして「こんなことができるかもしれない」と答えても、「それは今決められるのか?」と言われます。そのくらいのスピード感が必要なんです。スタートアップはシードからシリーズA・Bと段階的に資金を調達していますが、基本的にその資金を使って1年、長くても2年で結果を出す必要があります。となると、シリコンバレーに行って1時間話す、という時間はとても貴重なものになります。その1時間をわれわれがいただくと考えたときに、何を求めているか、何ができるか、ということを明確にしていかなければいけないということが課題ですし、感じていることでもあります。
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