つい先日まで、Amazonの巨大な第2本社プロジェクト「HQ2」は、米国の宝のように思われていた。
業界屈指の同社がさらなる拡張を目指して、シアトルの本拠以外に第2の拠点を建設することを計画。50億ドル(約5540億円)の開発投資と、高待遇で5万人という雇用創出を獲得しようとする全国の都市から、最高経営責任者(CEO)Jeff Bezos氏のもとに提案が殺到した。
ニューヨーク市がプロジェクトの半分を獲得したところから、あらゆることが悪い方向に転がり始めた。
地元の政治家や労働組合から、数カ月の間反対が続いたことを受けて、Amazonは米国時間2月14日、2万5000人を雇用するキャンパスをニューヨークに建設するという計画を撤回した。バージニア州アーリントンに決定している同規模のもうひとつの建設計画に変更はなく、こちらは今後10年間をかけて開発される予定だ。
巨大な雇用主による開発計画として嘱望されたHQ2が、これほど短期間に、ハゲタカ資本家によるプロジェクトとして敬遠されるようになった経緯は、今後長らく開発業者や政治家の研究材料になるだろう。Amazonが、足を踏み入れようとした政治的世界をいかに大きく読み誤ったか、そしてこれほど派手な入札過程でいかに反対派の大きな標的になってしまったかが、浮き彫りになった形だ。一方では、Bezos氏による労働者の扱いや、独占的と目されている業態に対する否定的な捉え方が、かつては高かった同社の評判をいかに蝕んでいるかという例証にもなっている。しかし、これらの反対派たちとは対照的に、世論調査ではプロジェクトを支持する割合が過半数を占めていた。
同じくらい大きな注目を集めることになるのが、この計画を妨げ、万単位の新しい雇用の到来を止めた進歩派の政治家たちだ。都市の高級化と法人補助金を防いだとして称賛されるのか、それとも公人としての立場を危うくすることになるのか、結論が出るにはもう少し時間がかかるだろう。
Amazonはコメントの依頼に応じなかった。
ラトガース大学経営管理労使関係スクール(Rutgers School of Management and Labor Relations)のRebecca Kolins Givan准教授は、Amazonの突然の撤退について次のように語っている。「最悪の展開になった。小売市場をAmazonがどれほど支配しているか、また実際の労働環境がいかに悪いかが知られるようになって、同社に対する抵抗は全国的・世界的に広がっている。Amazonが各都市に参加を呼びかけた、内密の奇妙な一大イベントが、大きな嫌悪感を生み出す結果になってしまった」
始まりはもっと単純だった。
2017年9月、Amazonは第2本社の建設計画を発表。50億ドルを投じ、平均年収15万ドルで5万人の雇用をめざす計画だった。そのプロジェクトはHQ2と命名され、またたく間に、米国中の都市が猫も杓子も招致したがるほど重要な開発計画となった。ラッキーな都市が夢のようなテクノロジハブになれる、一世一代のチャンスと見なされたのだ。
一般競争入札をするというAmazonの戦略は、絶妙な一手のように見えた。実際、200以上の都市がAmazonとの契約をめぐってしのぎを削り、その多くが数十億ドル規模の優遇措置まで提案するほどになった。メディアも過熱し、このプロジェクトの将来性について、ここぞとばかりに記事を書きまくった。
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