ただ正直なところ、2018年は携帯電話の技術や製品、事業者同士の競争よりも、政治の影響が非常に目立った1年だったといえる。それを象徴している出来事の1つが、8月に菅義偉官房長官が「携帯電話の料金は4割値下げする余地がある」と、携帯電話の通信料値下げに言及したことだ。
この発言を機として、総務省は新しい有識者会議「モバイル市場の競争環境に関する研究会」を実施。競争促進に向けた課題を解消すべく、携帯電話会社やMVNOなどからヒアリングを進めていたのだが、第4回の会合で急遽「モバイルサービス等の適正化に向けた緊急提言案」を公表した。
この提言案では、端末購入を条件とした通信料金の割引を廃止し、通信料金と端末代金を完全に分離する、いわゆる「分離プラン」の導入を携帯電話会社に求めている。かねてより総務省は、スマートフォンの「実質0円」販売を事実上禁止するなど、通信料金を原資とした端末の過度な値引きに対して非常に厳しい姿勢をとってきた。だが今回の緊急提言案では、事実上通信料から端末の値引きをすることを禁止するという、より強い措置に打って出ているのだ。
そうした総務省の動きに応える形で、携帯電話会社側も分離プランの導入を相次いで打ち出した。すでに分離プランを導入しているKDDIに続き、ソフトバンクが9月に導入した新料金プラン「ウルトラギガモンスター+」「ミニモンスター」で分離プランを導入。NTTドコモも分離プランを軸とした新しい料金プランを2019年度の第1四半期に導入することを発表している。
分離プランの導入は確かに通信料金を引き下げるが、一方で端末代の値引きがなくなるため、今後スマートフォンは実質的に大幅値上げとなる可能性が高い。それだけに、行政が分離プランの導入を急ぐことには不安要素も少なからずある。
1つは5Gの普及に関してだ。9月に発売された「iPhone XS」「iPhone XS Max」「iPhone XR」が象徴しているように、最近のハイエンドモデルは軒並み10万円を超える水準にまで達している。今後5Gを普及させていく上ではハイエンドモデルの販売促進が欠かせないにもかかわらず、携帯電話会社が分離プランで値引き販売する術を失ってしまうことで、5Gの普及の妨げになる可能性があるわけだ。
より気がかりなのが、国内スマートフォンメーカーへの影響だ。実は2007年から2008年にかけても、総務省の有識者会議をきっかけとして携帯電話大手が分離プランを導入したことがあるが、その際には端末販売がたった1年で3割以上減少し、国内の携帯電話会社に大きなダメージを与えている。
そして今回の分離プラン導入で最も大きな影響を受けるのは、国内の携帯電話会社への依存度が高く、低価格のスマートフォンを作る企業体力のない日本のメーカーと筆者は見る。それだけに、日本の政府が推し進める分離プランが、日本のメーカーに引導を渡す可能性も十分考えられるだろう。
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