ここ最近、SNSなどにおける数年前の発言が掘り起こされ、著名人が炎上する事例が相次いでいる。最近では、人気ライトノベルの作者が、過去にヘイトスピーチを繰り返していたことが判明し、決定していたアニメ化は紆余曲折を経て中止に。またある若手俳優は、数年前に女性蔑視のツイートをたびたび投稿していたことが明らかになり、事務所から契約を解除される事態へと発展した。
多くの場合、こうしたアクシデントの場となっているのはTwitterだ。不特定多数に公開されていること、また思い立ったらすぐに書けてしまうというツールの特性が、こうした事態を生みやすくしていることは否定できない。もっとも、数年前のツイートがある日突然炎上するケースは、俗に「バカッター」と揶揄される飲食店バイトの不衛生ツイートのように、そもそもの内容が不謹慎で、かつ間を置かずにすぐに炎上へと発展するツイートとは、性質が異なる場合が多いようだ。
過去のツイートが突如として炎上するケースは、冒頭に挙げた著名人による事例に限らず日々繰り返し発生しているが、Twitterにおけるそれら炎上例を見ていると、大きく2つのパターンに分けられることに気づく。
ひとつは、発言の時点ですでにキワドイ内容だったが特に問題視されず、時間が経ってから火がつくパターンだ。発言時に問題視されなかったのは、人目に触れる機会が少なかったというのが大きな理由なのだが、本人はその発言が一般に受け入れられたものと勘違いしてそのまま放置し、数年のブランクを経て、突如として炎上するパターンだ。
こうしたケースは、これまでアマチュアで活動していたクリエイターがデビューした時など、多くの人の目に触れるようになったのをきっかけとして起こりがちだ。いかんせんこれまで何ら問題視されなかったことから、同種の発言が大量に量産されているケースが多く、活動の停止など最悪の事態を招きがちだ。冒頭の2つの例は、いずれもこのパターンに当てはまる。
もうひとつ、発表・発言の時点では何ら問題なかったツイートが、世間の基準や社会常識そのものが変化したことで不穏当だと見なされるようになり、あとから点火するパターンもある。
特にインターネットが発達した昨今では、それまで「決してよいことではないが皆やっている」「必要悪だ」などと黙認されていた“常識”が、それによって不利益を被った人が声を上げたり、あるいは大きな事故が発生したのをきっかけに、過去にさかのぼって槍玉に上がることがある。いわゆるブラック企業など労働環境にまつわる問題や、セクハラなど人権に関わる諸問題については、この傾向が強い。
当人からすると「いやいや、当時はこのくらい普通だったから」と弁解のひとつもしたくなるわけだが、批判する側にとっては、事実として残っている以上、それがいつの発言であろうと関係ない。
以上がよく起こりうる2つのパターンだが、なかでも後者の場合、発言の時点では何ら問題なかったにもかかわらず、社会常識の変化にともなって、ある日突然燃え上がる可能性があるわけで、著名人のみならず、誰の身にも起こりうるリスクと言える。しかも年月が経過してツイートが増えるにつれ、リスクは必然的に増大していく。
そうした意味でも、進学や就職などのライフイベントに合わせ、自身の過去の発言を見直すのは、欠かせない時代になりつつある、と言ってよい。これが「隠蔽」となるとまた別の問題だが、時とともに考え方が変わることは権利として当然認められるべきで、それと矛盾する過去のSNS上での発言は、修正や追記が行えない以上、削除するのが妥当ということになる。
もっとも、実際に「過去のツイートを消したい」となった場合、あまりにも先走ってしまうと、かえって取り返しのつかない事態になることもある。現在すでに炎上中なのか、それとも予防を目的としているかによっても対処方法は変わってくるのだが、ここでは削除の方法ごとに、その問題点を見ていこう。
ツイートを消すのにもっともシンプルな方法は、タイムラインを遡って手動で削除することだ。とはいえツイート数が膨大だと、この方法ではどうしても漏れが発生しがちだ。すべてに共通のキーワードが含まれているのならば、検索でリストアップして削除することも可能だろうが、そこまでうまくいくことは稀で、漏れが発生するのがオチだ。
今まさに炎上している場合にうっかり先走って行いがちなのが、Twitterのアカウントごと削除してしまうことだが、これはあとで取り返しがつかない事態に発展する可能性がある。というのも、TogetterやTwilogなどの連携サービスにツイートの複製が残っている場合、うかつにアカウントを消すことで本人である証明ができなくなり、それらを削除する手段が失われてしまうからだ。
たとえば、冒頭で紹介したラノベ騒動では、作者だけでなく、問題点を最初に指摘した個人ユーザーもまた炎上に至っているが、このユーザーは先走ってTwitterアカウントを削除してしまったせいで、いまもTogetterには大量のツイートが残り、本人であっても削除できない状態になっている。こうなると八方塞がりだ。
また、これも行いがちなのが、TwitterのID、つまり「@」で始まる文字列(ユーザー名/スクリーンネーム)の変更だ。これを変更すると、その文字列が含まれるツイートのURLも書き換わるので、炎上の原因となっているツイートへの外部からのリンクを無効化できる……と考えがちだが、実はこれはあまり意味がない。
というのは、TwitterでIDを変更して数時間は、以前のURLへのアクセスは新URLに自動転送される仕組みになっているからだ。こっそりTwitter IDを変更したのに自動転送されてしまっては、新しいTwitterアカウントを知らしめているようなもので、かえって逆効果だ。またこの数時間が経過したあとも、ツールを使ってTwitterのユーザIDを取得すれば、それをベースに追跡できるので、やはり意味がない。
冒頭で紹介している若手俳優は、Twitterで炎上した直後、毎日のようにIDを変更して逃げ切ろうとしたが、まったく効果がなく、ほどなくして謝罪に追い込まれた。将来のリスクを回避するのが目的であればまだしも、炎上してから行う対策としては、ほとんど意味がないことは、知っておいたほうがいいだろう。
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