フリマアプリ「メルカリ」を提供するメルカリは、約1年前の2017年12月に研究開発組織「R4D」を設立し、その研究結果をプロダクトに反映させ始めている。R4Dのトップを務める同社取締役CPOの濱田優貴氏に、メルカリが2018年に力を注いだ技術や、2019年に注目するテクノロジーなどを聞いた。
——濱田さんは、メルカリでどのようなことをしているのでしょう。
現在は各部門のプロダクトを横断的に見ています。その上でスケールさせるための組織構成を担ってきました。さらにプロダクトの未来戦略を考える役割です。例えば、新技術がいつ実現するのかを逆算してプロダクトに取り込まなければなりません。今ではなく未来から逆算して技術戦略を作るのが主な仕事です。
——2017年12月に研究開発組織「R4D」を立ち上げました。改めて、この狙いや現在の進捗を聞かせてください。
今あるものの多くは将来は使われなくなると思っています。例えば、決済もスマホをかざすようになりましたが、中国のAI技術なら顔認証で決済できますし、音声入力精度が高まればキーボードも不要になるでしょう。また、脳波測定デバイスも身近なものになれば言葉すら不要になるかもしれません。
これまでは(従来技術の)延長線を見ていましたが、今はこの10年で何が起こりそうか、どのような技術が発達するのか。それがいつメルカリに使えるかを先読みしています。そのため、どのような技術が研究され、どのタイミングで実用化に至るかを正確に把握しなければなりません。その役割を担うのがR4Dです。
技術的に長けた人材を採用したり、大学の研究機関と共同研究を重ねて情報を収集し、その結果をメルカリの戦略にマッピングしたりしてきました。組織的にメルカリとR4Dは分かれていますが、明確な境界線がある訳ではありません。例えばVRの研究は、R4Dもメルカリの開発部門もしています。
現在はブロックチェーンやモビリティ、衛星データ、量子コンピューティングに関して研究をしています。ブロックチェーンでは、2018年10月に開催した「Mercari Tech Conf 2018」で紹介した社内プロダクトの「Mercari X」に用いました。モビリティは詳しく述べられませんが、自動車とは異なるアプローチで研究中です。
IoTはセンシングの塊ですが、将来的にはIoTデバイスは不要ではないかとの仮説に則り、衛星データを使った位置情報の取得や農地の生産性向上などの可能性を探っていきます。何が可能で最終的にメルカリにつながるかの接続点を探しています。量子コンピューティングも将来的に登場するのは明らかですが、その時に「何も知らない」では世の中についていけません。活用方法を研究中です。
2018年はR4Dの研究結果の一部を既存のプロダクトに反映させましたが、2019年は新たなプロダクト開発にも生かしたいと思います。
——フリマアプリの「メルカリ」では、この1年どのような技術開発に取り組んできたのでしょうか。
2017年末に提供を開始した、AIを使って写真を撮るだけで商品名やブランド名を自動的に表示する「AI出品」の改良や、AIを利用した不正出品の検出など、AIや機械学習の精度を高めてきた1年でした。スマホで撮るだけで商品カテゴリなどを提案する機能も顧客から高い評価をいただき、製品の品質も向上しました。
例えばUSのプロダクトでは、出品商品の重量を事前に計量しなければなりませんが、撮影画像からポンド・オンス・グラムのいずれに入るかを検知する精度も向上しています。製品にAI技術を落とし込めている点で、メルカリは一歩先を行く企業ではないでしょうか。
組織面では、チームの最適化に集中した1年です。組織が大きくなり始めたため、改修1つ取っても皆の足並みをそろえないと開発が進みません。そこで、組織を機能単位でばらすマイクロサービス化に努めました。それにより、より安全なサービスの実現や、チーム単位で独立した自由な開発が可能になりました。
——AI活用についてもう少し詳しく聞かせてください。現状、どのような課題がありますか。
AIは研究フェーズから利用するフェーズに入りました。洋服も畳んだ画像や広げた画像でも、人が見て判別できるものは深層学習で分かります。教師データ作成で大変なのは膨大なデータの識別ですが、タグ付けをするアノテーション代行サービスなどを使ってデータ収集をしています。
その上で課題となるのがやはりデータ不足です。メルカリで「丸首の洋服」を探したい場合、出品者がキーワードを用意しないと検索できません。教師なし学習で、丸首とVネックはクラスタリングできるため、類似した商品を提示できますが、まだ明確な検索結果とは言えません。
——メルカリにおける理想の検索とは何でしょうか。
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