起業の際、最も大きなハードルの1つになるのが事務所や店舗といったスペースの確保だ。保証金や前家賃など、まとまった金額が必要になることはもちろん、実績の少ないスタートアップに、積極的にスペースを貸し出したいというオーナーも少ない。
しかし、夜だけ営業している店舗の昼間の時間、土日はほぼ稼働していないオフィスビルの駐車場、平日の昼間はあまり人の出入りがないショールームなど、時間によって空いているスペースは数多く存在する。
そうした借りたい人と貸したい場所を、時間とスペースでマッチングするのが軒先だ。設立はシェアリングという言葉がまだ聞き慣れなかった2008年。新たなビジネスの認知を拡大し、貸したい場所と借りたい人を探し、つなげながら、ビジネスを広げてきた、軒先代表取締役の西浦明子氏に話しを聞いた。
——2008年設立というと、まだシェアリングサービスがほとんど知られていない状況だったと思いますが、なぜこのサービスを始めたのですか。
実は、起業したいという強い意志があったわけではなくて、妊娠したタイミングでそれまで勤めていた会社を退職しまして、子育てしながらできる事業はないか探していたところでした。
思いつきで海外から雑貨を輸入して販売するお店を始めようと準備を進めていたのですが、本格的に始める前に、テストとして短期間だけお店が開けるスペースを探していたんですね。しかし基本的に物件は賃貸で、年契約になるなど短期用の貸し出し物件はない。この足りない部分を解決できる方法がないかと探したのですが、見つからず、自ら立ち上げたのが「軒先ビジネス」です。ですから、すごく個人的な要望からスタートしています。
——それまでも不動産関連のお仕事をされていたのですか。
それが全然違って、電機メーカーで開発や商品企画を担当していました。まさかこのサービスを仕事にするとは自分自身でも想像していませんでしたね(笑)。
短期の貸し出しスペースを使いたいという、私自身の要望から立ち上げたサービスなので、借りる側のニーズは当初から感じていたのですが、スペースを貸してくださるオーナー側の理解を得るのが大変でした。すでに約10年この事業を運営していますが、ご理解いただけるようになったのは、ここ数年のことだと思います。
——理解が進んだ要因は。
やはり、不動産テックやシェアリングの認知が進んだからだと思います。同様のサービスも増えましたし、スペースシェアリングを知らない人が減ってきました。ただ、スペースは今でも足りませんし、オーナーの方の理解は進んでも、では自分のところでもやってみようというのはまた別の話で、次の段階としては、自分ごととしてスペースシェアリングに取り組む人を増やすことだと思っています。
——不動作業界は独特な慣習が多い業界だと思いますが、この業界に飛び込まれてきて特に大変だったのはどの辺りですか。
たくさんあるのですが(笑)。軒先はプラットフォーマーなので、スペースはオーナーの方に貸出しいただいています。そのレンタル中に利用者がトラブルを起こした場合、責任は私たちの方で負うような条項を盛り込まないといけないケースなど、当初は責任問題をクリアするのがかなり大変でした。
当時は、何かあったら現場に出向き、対応しますという形で何とかご契約いただくこともあったのですが、軒先は1つのスペースに対して、手数料をいただくビジネスなので、人的リソースからしてもこの条件はかなり厳しい。しかし、スペースを契約してくださる場所を広げるのが先決のため、突破口としてこの条件を飲んで契約を進めることも場合によってはありました。
——実際にはどんなトラブルがありましたか。
実はトラブルはほとんどありません。スペースを借りる方はみなさんプロの出店者なので、利用方法もマナーもほぼ完璧です。
——トラブルが起きづらいのはBtoBビジネスだからというのはありそうですね。
そうですね。割り切って使ってくださる方が多いですね。駅前や人通りが多い場所の人気がもちろん高いのですが、場所さえ確保できれば設備は問わないという方も多いです。一方で、一般の方にスペースを貸し出すBtoCビジネスは、モノを壊してしまったり、汚してしまったりと、ある程度のトラブルは想定しないといけない。軒先では、その領域にはあえて踏み込まず、今後もSmall Bを含むBtoBに特化していきたいと思っています。ただ、個人でも利用しやすいようなサービスを提供したいという思いは常にあって、一人でお店を始めたいという人にも使いやすいサービスでありたいという軸を変える予定はありません。
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