ムーニー氏は「3つのビジネスを手がける上での相乗効果はすごく出てきている」と事業領域を増やすメリットを説明する。なかでもeラーニングやアプリなどのデジタル事業は、マーケティングに大きく役立っているという。
「デジタル事業として最初に手がけたデジタルチューナーアプリ『Fender Tune』のダウンロード数は約300万。前述した通り、このアプリを立ち上げると、どこで、いつ、誰がギターやベースを演奏しているかがわかり、アコースティックなのかエレキなのかといった楽器の種類の特定もできる。ギターやベースは一度販売してしまうと、それがどんな頻度でどんな風に使われていたかを知るためには、販売店の方に話を聞いたり、ユーザー調査をしたりしなければならなかった。アプリを使えば、それらがリアルタイムでわかり、常にユーザーとの接点を持てる」と、アプリならではのマーケティング術を話す。
ムーニー氏は「新製品が出たタイミングで通知を送るなど、製品とデジタルを組み合わせた展開もできるし、アプリがマーケティングプラットフォームになる」とし、活用の幅は広い。すでに、ダウンロードしたうちの約半数の人が毎日のようにアプリを使っているデータが得られているという。
フェンダーでは、アプリを使って、価値あるデータを集めている。さらにスマートフォンを介して使用できるデジタルアンプを作り始めた。2017年に発売したWi-Fi、Bluetooth機能を備えたギターアンプ「Mustang GT」シリーズは、ファームウェアのアップデート、ほかのユーザーとプリセットの共有ができる機能を搭載。これは、音楽業界の一部の人から「楽器業界におけるテスラ」とも評されており、新たなビジネスにも積極的だ。
デジタル変革を迫られながら、舵を切れない老舗企業が多くある中でフェンダーがデジタルを取り込めた理由について聞くと、「楽器業界においてマーケットリーダーであるフェンダーブランドを確立していたことは大きい。評判も品質も高く、そうした信頼が新しい領域に踏み出す上でもバックボーンになった。フェンダーは設立から72年が経っているが、これから先の70年も、きっと多くの楽しみを提供できるブランドになる」とさらなる先を見据えた。
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